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「これが私の異能、『天使の腕』です」


 天使の腕なんて仰々しい名前だが、実際のところ迫力はある。巨人サイズの腕に、鎖が規則的に巻き付いている。拘束具としては機能していないように見えるので、おしゃれだろうか。


 腕を2本出しているので、男に対しては片方の腕しか披露していなかったが、両腕を出せるようだ。


「逞しい腕だな。これで殴るのがお前の異能か?」


「違います。私の腕はそんな野蛮な使い方をする為にある訳ではありません」


「じゃあ、他にどういう使い方があるって言うんだよ」


 問われたアハトは黙り込む。何をそんなに悩むことかあるのかわからないが、隠していたい能力でもあるのだろうか。


 まだ信頼できない人間に、自身の異能をペラペラと話すのはリスクが大きい。だが、対策課に所属している以上、異能の詳細はバレているはずだが。


「そんなに悩むなら別に話さなくても」


「いえ、今思うと貴方達2人の異能に対して、私の力を証明する事は難しいと思いまして」


「というと、どういう事かなアハトくん」


 この聞き方から察するに、目黒も能力を把握していないらしい。配属される以上資料が渡されているはずだが、黒の時と同じようにまたこの人はサボっているらしい。どこかの社長だか知らないが、上司なのだから仕事はして欲しい。


「2人の異能、『テレパス』と再生能力を私の異能で打ち消しても効果がわからないという事です。なんなら1度、握りつぶしましょうか?」


 無表情で、なんと怖い事を少女は言っているのだろうか。しかし、異能を打ち消す異能。それが本当なら、大変な事だ。


 対異能力における最大の切り札となるはずだが、どうしてこんな人が少ない所へ飛ばされたのか。普通なら東京にある本庁勤務になる可能性が高い。人員不足を配慮しての事だろうか?


「遠慮しておく。怖いからその腕はもうしまっておいてくれ。こっちに向けないでくれ、頼むから」


 アハトは無表情で巨大な青い腕を近づけて、圧をかけてくる。無感情そうにみえて、意外とお茶目なのか。


「他に質問はないかな?ないのなら今日のところはお開きにしようと思っているんだが、どうかな?」


 アハトからもこれ以上の質問はないらしく、次は黙っている。


「よし、なら今日は解散!アハトくんの事を頼むよ、黒くん」


「頼むと言われてもな。家には1人分の生活用品しかないぞ?アハト、お前ちゃんと荷物は持ってきているよな?」


 正直、嫌な予感がしていた。アハトの服装は、普通の女子学生が着ているものとしてはどこもおかしくない学生服だ。


 しかし、手荷物は何もなく、今いる事務所に置いている素振りも見せなかった。つまり何も持っていないのではないかとうっすら思っていたのだ。


 それでもどこか別の場所、例えばコインロッカーなどに置いてある可能性を信じていた。残念ながらそんな淡い可能性は、アハトが首を横に振る事でなくなったのだが。


「ないです。私が渡されているのは、今着ている服とお金を少し。手荷物は邪魔なので置いてきました」


「いや、邪魔だからって置いてくるなよ!これからどうやって生活していくつもりだったんだよ!」


 生活用品がないのはまだわかる。買い揃える事は簡単なので、後回しにしても問題ないといえばない。だが、服やお金がないのは大問題だ。


 着替えをこんな深夜に揃えられるとは思えないし、それを買うお金もないとみえる。一体、これからどうするつもりだったのか。


「クロ、貴方が用意してください。私は家事炊事についてあまり詳しくないので」


「本気で言ってるのか!?お前、自分が居候側だってのわかってるのか!」


 アハトはそれを疑問にすら思っていない顔をしている。これからこんな天然少女と暮らしていけるのだろうか。


(いや、これは無理だろ!)

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