異世界帰りのアルバイター

糸島荘

1-1 プロローグ


 異能力があると言われて、貴方は信じるだろうか。火を吹いたり、凍らせたりと様々な能力が想像出来ると思う。



 急にそんな事を言われても、貴方は信じないだろう。私も昔は信じていなかった。だが異能力は実在する。


 今、目の前でゆらゆらと6つの炎を浮かしている男がその証明だ。ちょうど目の前の男は放火犯として、最近のニュースで話題になっている。


 男の顔は狐の仮面で隠されており、素顔はわからない。ニュースでも名前や素顔はわからないが、狐の仮面を被った男だということだけはネットやテレビで公開されている。


 彼を見つけたのは偶々だった。バイトからの帰り道、近道をして帰ろうと思って、ビルとビルの間にある路地を進んでいるところをバッタリだ。


 ちょうど路地にあるゴミ箱に向けて、火の玉を飛ばそうとしているところで声をかけてしまった。


「黙っとくんで、見逃してくれたりしないですかね」


「そうはいかないなあ!前までは観客として歓迎してたんだが、最近は俺を嗅ぎ回っている連中が多いからなあ」


 目撃者は殺すと言っているようなものだ。しかし、今のところニュースになっているのは、ビルやゴミ捨て場への被害だけで、人への被害は出ていないとされている。


 この男を目視した人達が、生き残っている事が1番の証拠だ。


 しかし、今日は違ったようで、こちらに害を与えるつもりでいるらしい。目がやる気に満ち溢れている。


「俺は人を燃やしてみたかったんだよ!1人くらい燃やしてみても良いよなあ!」


 そんなはっちゃけた感じで言われても全然良くないです。今から後ろに下がって、全速力で逃げても良いが、人を燃やすと発言している以上、無視していく訳にはいかない。


 ポケットに入っているスマホを取り出そうとすると、6つある火の玉のうち1つが足元を狙う。


 飛んできた火の玉に驚き、思わず数歩身動いだ事で直撃は避ける。だが、近くまで飛んできた事で、これが本当の火であると理解する。


「おおっと、警察に通報なんて考えるなよ?俺が楽しめなくなっちまうからな!」


「まずはどこから焼こう」と言っている男を尻目に、スマホから手を離し耳に手を当てる。できるだけ声を潜め、数メートル先の男にも聞こえない程度のボソボソ声で話す。


「報告です隊長、通りがかったら例の放火犯と遭遇。どうしますか」


 返事を待つ事数十秒後、中年よりの男の声が頭に流れる。


「またお前はそうやって……おほん、いつも通りに殺さず無力化、できなそうであれば逃走だ。いいか、何度も言うが絶対に殺すなよ」


 人を殺した事なんて1度もないが、どんな時も人を殺すなと彼は言ってくる。そんな危なそうに見えるのかな?


「じゃ、逃げますね。素手じゃどう見ても敵わなそうなんで」


「安心したまえ。今日は助っ人を呼んである。貴重な新人だぞ?その間……頑張って逃げ回ってくれ」


 この人は相変わらず、無茶苦茶を言っている。それに万年2人のうちにくる新人なんて、やばい奴なんじゃないのか。


 ため息を吐き、奴に対する策を講じる。と言っても主な作戦は逃げの一手だ。こちらには武器になるものが何1つない。


 今の手持ちは財布1つのみ。どうやっても火の玉1つ防げるとは思えない。なので逃げのルートを考えていると、男が急に大声を上げる。


「決ーめた!お前は火達磨の刑にしてやるよ!まずは死なないように手足を焼いてから、その後メインディッシュだ!」


 男の笑みと「ヒャッハー」という掛け声と共に、放火犯との鬼ごっこが始まった。

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