第21話 イースへの違和感


イースが冒険者見習いになって半年、冬を越え、春になった。


冒険者ギルドの受付のランはイースに違和感を感じていた。


何が不思議なのか。


イースが薬草採取の時に魔獣に襲われない事、夜、毎日のように町の宿屋に止まらずに野宿してるのに魔獣に襲われない事だ。


その疑問、天の声が答えましょう。


イースは魔獣に襲われていないのでは無く、倒してるだけです。


でも、イースは魔獣について勉強しておらず、才能無しの自分が倒せるんだから動物を倒してると思いこんでるだけです。


ランさんのせいじゃないですよ!


イースがズレ過ぎてるだけです!


まぁ、この説明も誰にも聞こえないんですけどね!


こうしてランの違和感が解消する事は無かった。


今日もイースは平原で1人筋トレしていた。


ちなみに筋トレの内容は、1メートルくらいの岩を持ち上げて上に投げて、キャッチするというもの。


イースはこれをもう15分くらい続けている。


そこにシスカが現れる。


シスカ「おはようございます~何かすごい事してますね~」


イースはシスカの顔を見る。


そして、一つ気づく。


シスカの宿に行くの忘れてた。


イース「・・・すみ・・・ま・・・せん。や・・・どに・・・行かず。」


シスカ「町に戻ってもぜんぜんいないので不思議だったんですよ~ずっとここにいたんですね~」


イースは黙って頷いた。


シスカ「それにしても、すごい鍛練ですね~よっぽどの才能があるんですね~」


イースは横に首をふった。


シスカ「またまた~才能は他人に言うもんじゃないですからね~しょうがないですけど~」


イース「・・・さい・・・のう・・・無い・・・で・・・す。」


シスカ「またまた~」


だが、イースの態度が変わらない事をシスカは不思議に感じ始める。


シスカ「本当ですか~?普通の身体能力じゃないですよ~?」


イースはシスカの言ってる事ができず、首をかしげる。


シスカ「・・・」


シスカも何も言えない。


その時、森からフォレストベアの咆哮が聞こえると、森からフォレストベアがヨダレをたらしながら現れる。


シスカ「!?フォレストベア!?」


フォレストベアはB級冒険者がパーティーを組んでやっと倒せる魔獣だった。


フォレストベアがシスカに噛みつこうと飛びかかったその時。


ドガァーン


イースが右拳をフォレストベアの頭に叩き込み、フォレストベアの頭もろとも地面に埋まっていた。


当然、フォレストベアは絶命していた。


シスカはイースを見て、ポカーンと口を開けていた。


イース「・・・すみ・・・ません。えもの・・・よこ・・・どり・・・して・・・。」


シスカはイースの言葉に絶句する。


何をいってるの~

私、今、助けてもらったのに~


シスカは理解できなかった。


イース「すみ・・・ません。でも・・・俺・・・は・・・こう・・・いう・・・どう・・・ぶつ・・・を・・・から・・・ないと。毛・・・皮・・・とか・・・もらえ・・・ませ・・・んか?」


イースはシスカに頭を下げた。


シスカ「別に構いませんが~」


シスカは思わず、承知してしまった。


シスカの頭の中は衝撃過ぎて混乱していたのだ。


イースはもう一度頭を下げると、フォレストベアの足を持って引きずって行ってしまった。


シスカ「動物じゃないでしょ~それ魔獣ですから~」


シスカは小さい声で突っ込みを入れるのだった。


イースはテントの方に行くと、フォレストベアを手持ちのナイフで解体し始める。


ナイフをよく見ると、魔獣の骨で作られていた。


シスカ「そのナイフ、すごいですね~自分で作ったんですか~?」


イースは頷く。


イース「動・・・物・・・の骨・・・で・・・つく・・・た。」


シスカは思う。


だから動物じゃなくて魔獣だよ~


天の声も思う。


そのとおり!

イース、常識通じないんだよ!


と。


イースは黙々とフォレストベアを解体すると、あっという間に骨と肉に分けた。


シスカ「あなたの才能は猟師~?才能無いなんて冗談言わないで下さい~」


イースの顔が曇る。


その様子を見てシスカは気づいた。


イースの言ってる事が本当だと。


でも、あり得るのか?


才能無しの人間がここまで強くなることが。


イスカには想像できない状況だった。


イースは解体した肉を葉っぱに包むと、シスカに渡しながら頭を下げる。


イース「ゆず・・・て・・・くれ・・・て・・・あり・・・がと。」


シスカはイースの行動が理解できない。


自分で狩った魔獣でしょ~?

私、譲ってもらうような立場じゃないよ~

この人、本当に動物だと思ってる。


イスカはイースに渡されるがまま、肉を受け取ると、頭の中が整理できないため、町にトボトボと戻って行った。


イースはフォレストベアを解体した後、日課の筋トレとしてやってる岩を上空に投げて受け止める動きを再開したのだった。


イスカは町に戻ると、中心部にある教会に入っていく。


神父「お帰りなさい。お嬢様。」


シスカ「ただいま~」


神父「その肉は?」


シスカ「貰いました~そういえば、才能無しの人がフォレストベアを倒せると思います~?」


神父「何を言ってるんですか。才能が無い人間とは神から見放された異端者ですよ。魔獣なんて相手にできるわけがありません。急にどうしたんですか?」


シスカ「別に何で無いです~」


神父「もし、そんな人間がいるとすれば、魔王の手先ですよ。ま、あり得ないですが。」


シスカ「そうね~私は部屋に戻るね~」


シスカは自分の部屋に戻っていった。


シスカはイースが普通の人間では無いと感じ、イースに違和感をおぼえたのだった。


天の声は思う。


そうだよね。

信じられないよね。

でも、イースは努力して強くなったんだよ。


今後、世界がイースを認めてくれるようになりますように。


と。


イスカは自室に戻ると、イースの事を思い返した。


才能無しの人間が自分くらいの岩を持ち上げる事ができるか。


普通はできない。


人は才能がある事で神の加護によりステータスも上がる。


この世界に才能が無い存在がいるのであれば、魔王や魔獣だろう。


しかし、魔王や魔獣は悪魔の加護が与えられているため、才能がある人類と戦う事ができるのだ。


だが、イースからは禍々しい悪魔の加護は感じなかった。


イースは一体何者なのだろうか。


シスカはイースに興味を持った。


扉をノックする音が聞こえる。


メイド「お嬢様。着替えましたか?ご飯の準備ができましたので、呼びに参りました。」


イスカ「分かったわ~でも、まだ着替えてないから、着替えたら行くわね~。」


メイド「かしこまりました。」


イスカの正体は、ワーク教会教皇の三番目の娘であり、聖騎士の才能を持ち、巷では白姫騎士の通り名で知られるC級冒険者である。


イスカは着替えると部屋を出る。


イースの事を考えながら・・・

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