クィーンロゼの問題児

綴音リコ

第1話 問題児は教師たち

 クィーンロゼ魔法魔術学校は魔法界屈指の実力を誇る魔法学校だ。

 彼らが一節詩を詠めばたちまち蕾が綻び春が訪れ、彼らが笑い声を響かせれば途端に妖精が恋に落ちる。

 無事卒業すれば、国の重鎮や著名な作家など、人とは異なる一生を送るという。


 そんな噂に憧れを抱き、胸を高鳴らせて入学した新入生は入学式から一週間後の夜、寮の談話室で大勢の先輩や同級生に囲まれながら、開いた口がふさがらない状態で手元のタブレットに目を落としていた。


「お、今夜はディアン先生が鬼かぁ」

「ということは、タンザナイト先生とロードナイト先生が逃げる方だな」

「な、なんですか……これは」


 ふるふると震えながら、新入生が共にタブレットを覗き込んでいた先輩たちに問いかける。

 映っているのは夜の校舎だ。その廊下を、剛速球同然のスピードで箒で駆け抜ける影が一つ、二つ、三つ。

 気のせいでなければ、彼らはこの学園の教師ではなかったか。


「ん? お前まだ会ってなかったっけ」

「この学校の防衛術学教師と錬金術学教師と占星術学教師だ」

「それはわかります、授業でお会いしました! 僕が尋ねているのは、なぜ、教師たるお三方がこんなことをしているのか、ということです!」


 幼い頃から憧れ続けたクィーンロゼ。頼り甲斐ある教師陣や優しい先輩方、そして素晴らしい仲間となる同級生。

 そんな素敵な学園生活を夢見ていたと言うのに、先輩は底意地が悪く同級生は不良ばかり。世間が信じている品行方正な学園など欠片もなく、そこにあるのはブラックドッグもびっくりな悪逆非道な不良集団のみであった。

 しかし厳しいながら授業の質は良く、教師だけはまともだと思っていたのに……。

 俺らみたいな問題児野放しにしてるやつらが真面な訳ねぇだろ、とは二つ上に在校生の兄を持った、今横にいるクラスメイトの発言である。


「最早これを楽しみにこの時間談話室に集まってるまであるよな」

「兄貴から聞いててずっと観戦したかったんっすよねぇ!」

「そういや、ハワードは兄ちゃんいるんだったな。お前は誰が勝つと思う?」

「えー、でもぉ、オブシディアン先生かなぁやっぱ」


 スポーツ観戦のノリでメガホンやらスティックバルーンやらをどこからか取り出した彼らががやがやと言葉を交わす。


「勉強できるから夜に談話室に、と言ったのはこの事ですか……⁉」

「そうだよぉ? ノアちゃん仲間外れは可哀そうかなって。でもバカ正直に言ったら真面目ちゃんのノアちゃんは来ないじゃん」

「っぐ、それは、そうですが……」


 悪びれなく笑う先輩の一人に言葉を詰まらせると、別の先輩が勢いよくノアの肩に腕を回した。


「まーま、落ち着けって。それにほら、見てればわかるが、全く勉強にならないって訳でもないんだぜ?」

「そうそう、ほら、一緒に見よ」


 宥めすかすようにもう片方の肩にも腕を回され、穏やかに諭されたノアは漸く言葉を飲み込み、渋々画面を覗き込む。

 薄暗い画面には、鮮やかな閃光や嫋やかに燻る紫煙が、まるでショーのように煌めいていた。


「わぁ……」

「教えてやるよ、新入生」


 美しいそれに息を飲んだノアの顔を覗き込んで、にやりと先輩は笑う。


「クィーンロゼの問題児の魔法は、俺たちにとって最も価値のある教科書だ」

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