第23話 過去と真相と
今から少し前。
これは冴月が綾崎市へ訪れる前の話。
坂城市という場所に出現した異能者を狩る為、そして異端の者を狩る為に焼却者としての初仕事に当たっていたのだ。
[反応を感じた。向こうに居る、用心せよ。]
「解ったッ!!」
冴月は中指に嵌めているステュクスへ話し掛け、その反応を頼りに向かったのは神社。そして悲鳴を聞いた彼女はその場で顕現法術を用いて姿を変えては階段を一気に駆け上がる。そこには地面へ座ったままの銀髪の少女、そして白いローブを纏った異能者がそこに居た。
「──見付けたッ!!だぁあああああぁッ!!」
彼女は階段の縁を右足で蹴って加速、間合いを詰めては振り向いた所を狙って大太刀で袈裟斬りによる一閃で斬り裂いた。黒く長い髪が舞うと同時に少女との合間に立つ形になると相手を見据える。だが相手は既に虫の息、死ぬのも時間の問題だろう。
「ぐぉおおッ!?バカな、おッ…お前はッ……まさか…ッ……!!」
「焼却者……アンタのその足りない脳みそにでも刻み付けなさい!」
刀を向けた直後、相手は黒い塵と化した挙句に消えてしまった。彼女は振り返ると震えたままの少女を見てから刀を収めては手を差し出した。
「……立てる?」
「うん…ッ……ありがとう…。」
それが百合と冴月の最初の出会い。
橙色の夕陽が冴月を照らしている暑い夏の日、そして蝉が鳴いている中…それが初めて彼女が人と関わった日でもあった。
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神社を後にした2人は冴月を先頭に階段を降りてから通りへ出るとそのまま歩いて行く。そこからは助けた少女による質問攻めが始まった。
「私の名前は綾辻百合。貴女の名前は...何て言うの?」
「……名乗る程じゃない。」
「お家は?何処に住んでるの?」
「…答えて何か意味が有るの?」
立ち止まり、振り返ると冴月は銀髪の少女を見つめていた。黒い髪が風に靡くと少女は何を思い付いたのか冴月へ話し掛けて来る。
「お名前!無いなら私が付けてあげる。」
「え?……別に要らない。」
「だーめッ!!そじゃないと私が困るの。お礼とかちゃんと言えないじゃない!!」
「はぁ...別に感謝される事なんてしてない、それに私の事は忘れた方が貴女の身の為になる。」
冴月はそう言い残して止めようとして来た少女の前から立ち去ってしまったのだった。
それから何年か経過し、こうしてまた出会った。
彼女は寝ているというより仮死状態といった方が自然かもしれない。冴月は彼女の頬を右手の指先で撫でてからその場を立ち去ると他の子供達を見て回る。すると引き戸が開いて桃色のナース服を着た看護婦が入って来ては冴月を見て固まった。
彼女...というよりは化け物と呼ぶのが相応しい見た目で、顔には顔を覆う白いマスクを付けていて手足の肌の色も異様な程に白い。
髪の毛らしき物は確認出来ず、何も無い。
「...?」
冴月が相手を見て警戒していた時、何処からともなく取り出した手術用のメスを右手に持ち、早歩きで近寄って来るとそれを彼女へ目掛けて振り下ろして来た。
「んなッ...!?くッ!!」
「キキキ...キキキキキ......。」
右から左斜め下へ、左から右へと振り回したかも思いきや今度は左から右斜め下へ振り回す度に冴月も身体を反らす等して躱すのだが室内のベットが邪魔で思った様に動けない。
「ちぃッ、何なのよッ...此奴ッ!?」
冴月は舌打ちし自分から廊下へ飛び出し、振り返ると相手も彼女を追い詰める様に廊下へ飛び出して来た。
[サツキ、この場で刀を用いるのは専決ではない。]
「解ってる!その為の体術でしょうッ!!」
そこから後退した冴月は素早い動きから左手を握って突き出し、右手も同じ形で握り締めてから胸元で構えてファイティングポーズを取ると相手の動きを再び注視し始めた。そして先に仕掛けたのは仮面のナース、メスを冴月へ向けて振り下ろして来たが彼女はそれを身体を右に僅かに傾けて躱すと反撃で相手の顔面の下側、つまり顎へ目掛けて右手を開いた状態から掌底突きを喰らわせる。確かな一撃と共に相手が怯んで後退した所へ今度は間髪入れずに右足を僅かに後退させた所に左足を軸にして、身体を左へ捻る形から思い切り右足を振り上げると相手の左側頭部目掛けて回し蹴りを放った。
「だぁああぁッ!!」
「ッ──!?」
冴月の整った綺麗なフォームにより繰り出された右足で蹴られたナースは鈍い音と共にコンクリート製の柱へ身体がぶつかると頭部を強く強打、そのまま柱に這う様に地面へ力無く崩れ落ちてしまった。
冴月も人から異能者へなった身であるが故に人間離れした力を出せるのは容易な事。
それは本来向けるべき力を正しい方向へ使った結果でもあった。
「...身体は鈍ってないみたい。」
[うむ、そうらしいな。この異様な空間から出る為には元を断たねば出られぬだろう...油断は禁物だ。]
頷いた冴月は異能者の持つ独特の気配を頼りに
院内を進んで行くのだがどの階の、どの部屋にも先程倒した気味の悪いナース達が徘徊していた。
気掛かりなのは百合を始めとする子供達の容態、そしてこの異様な異空間を作り出した本人の正体。
きっとロクでもない思考の持ち主なのは間違いないだろう。冴月は頻りに辺りを警戒しつつ、階段を上がって更に上へ進んで廊下を歩いて行くと、とある部屋の前で足を止めた。
「……手術室?」
[この部屋の前に来た途端、先程より瘴気が濃くなった…恐らくこの中に居るのは間違いない。]
「相手が誰であろうと手加減なんてしない。」
冴月がそう言い放って扉を開くと奥に続く扉が有る。
そしてその前に白衣を着た痩せ型の人物が立っていた。
「…おやおや、手術室は関係者以外立ち入り禁止ですよ?」
振り返るとそこに居たのは髪をオールバックにし額を出した中年の男性、白い肌が気味が悪い上に黒くハイライトの無い瞳がより不気味さを際立てている。
「…あの子供達はお前が集めたの?」
「あぁ……そうですか、貴女も見てしまわれたのですね。如何にも…この私が彼等を此処へ集めたのです。」
「何の為に。」
「何の為?そんなのは決まっている、私の実験の為ですよ…それに見た所貴女は唯の子供ではない……それも特別な雰囲気を感じますが。」
「そんなのどうだって良い……兎に角、お前が集めた子供達は全て返して貰う!!」
冴月が叫んだ直後、相手はニィイッと右側の口角を吊り上げて笑っていた。
「成程、成程……どうやら貴女を此処へ巻き込んだ事は私の誤算だった様ですねぇ…ならば此処で直ぐにでもバラバラにしてその魂を私が直々に喰らって差し上げましょう!!恐怖というのは食材と同じで鮮度が重要、泣き叫び、戦き、喚いた時が1番美味なのですから…我が名は[[rb:術者 > キャストール]]、貴女の悲鳴を私に聞かせて下さい!!」
「気色悪い…さっさと殲滅してやる!!顕現ッ──!!」
冴月が叫んで右手を振り払うと彼女は普段、異能者を始めとした異端の存在と渡り合う時の姿へ変貌する。
そして刀を呼び出さずに彼女は右手の拳を相手へ目掛け思い切り突き出すも空振り、相手が寸前で躱したのだ。
「おやおや、まさか葬具無しでこの私に挑んで来るとは!」
「うっさい!このぉおッ!!」
今度は左手を突き出して殴り付けたが再び避けられては拳が命中したのは相手の背後に有った壁でバゴォンッ!!という大きな音と共にそこが凹んでしまった。
舌打ちし冴月が振り返ると術者の姿はなく、足音が聞こえた事から廊下へ飛び出すと彼女の行く手を遮る様に仮面を付けたナース達が遮って来る。
「こっちは急いでるんだから邪魔しないで!!」
冴月が身体を右へ捻り、腕を曲げてから後方へ拳と共に下げると彼女は深呼吸し拳へ青い炎を纏わせ始めた。
そして頃合を見計らうと同時に一気に前方へ突き出した。
「このまま一気に焼き払う!烈火ぁあッ──!!」
凄まじい音と共に青い炎が一気に解き放たれたかと思えば火炎放射の様に一直線へ解き放たれ、目の前の白い仮面を付けたナース達を焼き払っていく。全てが焼き払われた後、壁や床は黒焦げになっていて何かが焼けた様な匂いが立ち込めている。
それから冴月は術者を追ってその場から走り去った。
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「冴月、本当に…大丈夫なのか?」
その頃、竜弘は外で冴月の帰りを外で待っていた。
何故なら突然彼女と刀姫が目の前から消えたからだ。
目の前には2人が争った痕跡だけが残されていて、地面を抉った痕や粉々に割れて散乱した病院のエントランスのガラス片がその激闘の激しさを物語っている。
周囲の状況を確かめていた時に足音が聞こえ、彼は自ずと自身の後方へと振り返った。そこに居たのはまるで教会の神父が着ているキャソックを纏った40代半ばの茶髪の男。そして竜弘と目が合うと彼は僅かに口角を上げて笑った。
「…こんな所で何をしている?」
「あ、えっと……友達の帰りを待ってるんです…。廃墟が好きな子でこういった所の写真を撮るのが趣味で。」
「…成程、些か変わった趣味を持っている様だ。ところで少年……インシネイターという存在は知っているか?」
「ッ……!?」
竜弘の鼓動が一瞬、強く脈打った。
彼は今間違いなくインシネイターと口にした。
冴月やレティシアの事を焼却者と総称しているのは竜弘も知っているが、目の前の男もまたインシネイターだと思うとハッキリしない。彼だけは異なる様な雰囲気を感じていたのだ。
「その様子…どうやら知っていると見た。案ずるな、仮に知っていたとしても安易に殺す気はない。」
「ならどうして…どうしてインシネイターの事を。」
「お前が右手に付けているその指輪は元を辿ればとある異術者が身に付けていたモノ…つまり狩られたという事だ、インシネイターによって。そしてお前は人間でありながらインシネイターと密接に関係している存在……違うか?」
男はそう口にすると竜弘を真っ直ぐ見たまま返答を待っていた。竜弘が黙っている所へ更に彼が話を続ける。
「そして少年…お前自身も少しずつ変わり始めている。我々は知っている...お前が死徒という存在に出会ったあの日から。」
「僕が……どういう事ですか!?」
「お前が身に付けている解術の指輪…そしてそれは時期に葬具へと生まれ変わるだろう。本来ならたかが道具が変化するなど有り得ない事なのだが…それを可能にしている事もまた事実。ヒトの世で言う運命のイタズラとはこういう事を言うのだろうな。」
「人を…超える……?」
「そうだ。人から別の存在へ生まれ変わる者…我々はそれを[[rb:特異種 > ゼロ]]と呼んでいる。」
「ゼロ……。」
「そして…ヒトの形を保ったまま、何れヒトでは無くなるのだ。」
竜弘が呆気に取られていた時、男は何かを察し振り返り右手を振り抜くと飛んで来た何かを弾き飛ばした。それは十字架の剣で竜弘にも見覚えがあった。そして右腕を左斜め上へ曲げた状態からレティシアが歩いて来ると門を僅かに超えた所で立ち止まった。
「…これ以上その子に余計な事を吹き込まないで貰えますか?異能者の上位種...そして最重要殲滅対象、[[rb:首謀者 > マインドマスター]]。」
「もう嗅ぎ付けたか...流石は隠世の犬だ、何処へでも現れる……確か貴様の肩書きは万雷の裁定者だったか。」
「憶えてくれていて光栄です。なら、せめてものお礼としてこのまま貴方を此処で消して差し上げましょう...ッ!!」
右手の指の合間に挟まっている剣を向け、相手を鋭く見据えるレティシアだが首謀者は鼻で笑うと竜弘の方へ僅かに振り返った。
「…さらばだ少年。次に会う時を楽しみにしているぞ?お前には素質がある……依代としてのな。」
彼はそう言い残すと竜弘の前から姿を消してしまう。
舌打ちしたレティシアは剣を消すと竜弘の方を見ていた。彼は自らの両手を見たままその場に佇んでいる。
「嘘だ...僕が、僕が人間じゃなくなるなんて……。」
「タツヒロ、怪我はッ──!?」
近寄って来たレティシアへ無理矢理に掴み掛かると彼は彼女へ話し掛けて来た。
「僕はこの先、どうなるんですか…僕もアイツら……死徒みたいなバケモノになるんですか!?」
「ッ……。」
レティシアは口を噤んだまま話そうとはしなかった。
恐らく冴月も彼の事を考慮し伝えなかったのは目に見えて解っていたから。誰だってそうだ、この先自分が人間では無くなると告げられれば動揺もするし、誰かに助けやせめてもの対策を乞いたくなるのは当然の事。
冴月が戻らない状態の中で言われもない沈黙だけがこの場に広がっていた。
(続く)
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