第3話
『『『リュート!?』』』
みんなのことも置いて行ってしまったが、そんなのを気にしている余裕はなかった。
だって、あの時の約束を守って十年も独り身にさせてしまったのは……他でもない僕だから。そんな無謀な約束をさせただなんて、早く謝りたい!
そして、伝えよう。ついさっき思い出した、僕の気持ちを。
走って村の広場を過ぎた時に僕の名前を呼んで引き留めようとする声がしたが、そんなの気にしていられない。僕は自分のしでかした事を反省しつつも、急がなくちゃいけなかったんだから!
「ルーノ!!」
少し古びていたが、ほとんど変わらない僕の実家がそのままあり……扉を勢いよく開ければ、中にはひとりの女性が掃除をしているところだった。
「……リュート……?」
箒をカタンと落とした女性は、十代の面影を少し残した美しい人だ。今外で咲き誇っている桜の花と同じピンク色の髪は伸びていて、綺麗なストレートだ。
その人は僕の顔を見ると、目尻に涙をためて……少し見つめ合ってから、僕の方に駆け出してきた。
普通なら、ここで再会のハグをグスタフおじさんの時みたいにするだろうけど。
「ルー……」
「遅いわ!! リュー坊!」
手前で膝蹴りするんだから、相変わらずだと僕は急いで避けた。まだ冒険者を辞めて二日も経ってないから、身のこなしは衰えてないもんね!
「相変わらずのキレの良さ!」
「そういうあんさんかて! あたいが鍛えた以上にキレッキレやないか!? なんや、冒険者の途中で里帰りか?」
「違うよ。もう引退してきたんだ。帰って来たんだよ、ルーノ」
「……は?」
話し方も相変わらず方言丸出しだけど……これがルシアーノだ。男勝りで彼女らしい……だから、冒険者になる前も組手の相手とかしてもらったんだよね。
「ランクは辿り着いたよ。けど、君との約束を果たそうと決意したんだ。帰って来たんだよ」
「……マジなん?」
「マジマジ。僕かて、おまんとの約束を反故ふるようなあほんだらになりとうない」
僕も久しぶりに方言でしゃべったけど、なかなか忘れないもんだね。しっかり言い切ると、ルーノはぽかーんと口を開けたと同時に今度こそ涙をこぼした。
「……マジで?」
そして、今度こそ腕を伸ばして僕に抱きついてきたんだ。
わあわあ泣きながらも、ぎゅっと抱きしめてくる力は強い。けど、昔ほどの強さじゃない。男勝りでもこの人は女性だから、そこは僕の方が上なんだろう。とにかく、僕も抱きしめ返してあげた。
「……ただいま。ルシアーノ、愛しとるで」
「うちもや、リュート」
で、ここで顔を合わせてキスでもしようとしたんだけど。
『ちょぉっと待て!?』
『待った待った!?』
追いかけてきたらしい、ミュラーたちがちょうど割り込んできて僕らをべりっと引きはがした。しかも人型になって。
「おん? 誰なん?」
『俺らはリュートがテイマーした魔物だ。あんたが、リュートの幼馴染み? いや、もう恋仲?』
「お、おん? そ……うなんや?」
「だ、だね?」
告白もしたし、受け入れてもらえたから間違ってはいないかな? そう言えば、キエラだけはいないけどどうしたのかな?
『ふむ。悪くない見目だな。リュートの番に相応しいではないか』
とか思ってたら、ルーノをじーっと観察していた!? 雲の精霊だから気配立ちうま過ぎる。ちょっと気を抜いてたから僕も感知できなかったけど!
「だ、誰なん? えらいイケメンやけど」
『我は雲の精霊キエラにて、リュートの従僕。分かりやすく言えば、テイマーされた精霊だ。そちがルシアーノというだな。主の番として我は認めよう』
「つ、つがいってなんなん?」
『俺がさっき言った恋仲の上級……人間で言うなら、夫婦じゃね?』
「ふ、夫婦!?」
『婚姻の申し込みをリュートがしたようなものではないか。リュートはそこまで薄情な事をせぬだろう?』
「……はい」
反対していたのに、ルーノが思いのほか美人に成長して僕と似合いだと認識してもらえたからか……意見を変えてくれたようだ。ライラ以外は。
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