最強もふもふテイマーは卒業を決意するも
櫛田こころ
第1話
ずっと考えていた。
ずっと、決意したいと思っていたんだ。
その生活が今までの僕のすべてではあったけれど、それが本当のすべてはないことに気づいたんだ。最強とか最高とか、周りに言われたりしても……僕の価値だなんて大したことはない。
『みんな』がいてくれたから、僕は『最強』だったんだ。
なら、その彼らを解き放ってもいいだろうと決めた。
テイマーとしての能力を解放して、ただの人間になって一から再スタートしてもいいんだって。
なのに、
『いーやーだー!!』
『我も断る!!』
『あたしも!!』
その決意をテイマーしている魔物や精霊たちに告げたんだけど。まあ、反対されても仕方がないよね? 契約して数年経ち、ギルドとかの依頼も順調にこなしてきたのに……いきなり冒険者を『卒業』して、ただの人間になりたいとか言ったら。
「……そろそろいい時期だと思ったんだけど」
小さい頃から憧れていた、高ランクの冒険者になる夢は叶った。だけどそれだけでは物足りなくなったのは……今の年齢が二十も半ばになったからだと思う。恋い慕う相手も寄り添う相手もいない現実を見ると、結婚を機に引退していった先輩や同期とかが羨ましくなったんだよね? 子どもを授かってのんびりする生活に憧れのようなものが少しずつ、芽生えてきたこの頃。
だから、依頼とかの数が落ち着いてきた今だから引退するにはいいんじゃないかって。ただ、テイマーした彼らには反対されたけど。
『だってさ~、リュートはまだ若いじゃん? 俺からしたらまだまだ子どもだし!』
小型のフェンリルであるミュラーは、ちょっと失礼な物言いもするけど基本的にいい子。戦闘では真っ先に突撃してくれる我がメンバーのエースだ。
『そうさな。我もそう思う』
雲の精霊キエラも同じように相槌を打った。精霊だから人間のような脆弱な生き物の数倍生きているからこの発言は無理ない。
『あたしはもっとリュートといっしょがいい!』
最後の綿ウサギ、ライラも綿を振りまきながらぷんすかぷんだ。最後にテイマーされたからまだ僕らとの付き合いは浅いが、最低でも三年はいっしょなのに……僕のような人間と一緒にいたいと言ってくれるのは嬉しい。
だけど、僕は決めたんだ。
「みんなのおかげで、僕は最強のテイマーとか言われているけど……新しい生活で自分を見出したいんだ。ただの人間として、自分の力を試したい」
その決意をしたのは、思い出したことがあったからだ。冒険者を将来の夢にしたいと決意した時に……村の桜の木の下で、幼馴染みと約束した事。強くなって、またこの村に帰ってきてって。絶対だよって、約束したんだ。あれから十年以上経っているのに、約束を果たせていない僕は大馬鹿者だ。
今更だけど、その約束を果たすためにまずは村に帰りたい。
村では人手不足は予想できるし、男手として一員に加わっても邪魔者扱いにはされないはず。それに、何も出来ない人間として一からスタートするにもちょうどいいと思う。
その内容を伝えても、三人は不満の表情で僕を見つめ返してきた。
『『『納得出来ない』』』
「……えぇ? だめぇ?」
『その約束を果たすのに、わざわざテイマーを引退して……我らを解放する意味が分からない』
『そうだよ! 俺ら仲間じゃん! リュートにとって、俺らは邪魔なの?』
「そんなことないよ!? けど、つまんない生活かもしれないんだよ?」
『そんなの行ってみないとわかんないじゃん! あたしは行きたい!』
『俺も!』
『我もだ』
「えぇえ?」
ちょっと予想外の返事が返ってきたんだけど……ギルド登録では引退することは出来ても、能力解除には至らなかったのだった。
なので、三人を連れて村に……山奥のニルビス村へ一緒に帰ることとなった。急いだ方がいいだろうとギルドへ手続きに行ったら、まあ、ギルドマスターからも渋い顔をされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます