第17話
4者がそれぞれ異なる足音を響かせながら、来たときと同じ道を通って城門に向かって歩いていく。
夕日に照らされた道の端には大勢のホワイトウルフたちがホロウの旅立ちを見送るために集まってきている。
「なんだかこっちまで恥ずかしくなってくるね」
心なしか身を小さくしながら隣でつぶやくテナに、アリーザは「そうだね」と同意しながらも、「だけど」といつもと変わらぬ様子でテナにだけ聞こえる声量でつぶやいた。
「ここで私たちがおどおどしていたらそれだけ周りに余計な心配をさせちゃうよ。」
アリーザの言葉にテナはハッとして顔をあげる。
「それもそうだね。せっかくホロウちゃんの旅立ちなんだもん。わたしたちが緊張する必要ないよね」
そういうとテナは吹っ切れたように周囲のホワイトウルフたちに笑顔で手を振る。
その様子にアリーザは苦笑しながら自らも手を振り返す。
二人が振り返したことで周囲も一層声を強くする。
「姫のこと、まかせたぞー!!」
「ホロウ様―!!いつでも待っていますからねー!」
彼らの激励の言葉を聞きながら、ホロウは思う。
物心ついたばかりのころに両親と一緒に城の裏手にピクニックに行ったこと。
遊び疲れて家族三人そろって寝たこと。
同年代の仲間たちと街中を駆け回ったこと。
城でかくれんぼをしたとき誰も見つけられず勝ったと思って喜んだこと。
後になってそれがわざと負けたものだと知ってすねたこと。
そして、両親が死んだ日のこと。
それが受け入れられなくて一人閉じこもったこと。
落ち着くまで寝る間も惜しんでそばに居続けてくれた仲間たちのこと。
統率者になってからも支え続けてくれたこと。
どれもホロウにとって忘れることのできない記憶であり、いまでも昨日のことのように思い出せる。
城門に到着すると、リーダーは横に移動して三人が通れるように道を開ける。
「姫、我が同行するのはここまでです」
「そっか・・・」
どこか寂しそうにホロウはつぶやく。
この先、これまで支えてくれた仲間たちはもういない。
わかっていたはずだったのに、そのことが今になって現実味をおびてくる。
そんなホロウにリーダーはそっと顔を近づける。
「姫、あなたは一人ではありません。我ら一同、いつまでも姫の帰りをお待ちしております。どうか胸を張って出立してください」
「そう、だけど」
まだ迷いがあるホロウの瞳を、リーダーは優しく見つめる。
「姫、我のことを信じることができますか」
質問の意図がわからず、ホロウは戸惑いながらもうなずく。
その返事にリーダーは「でしたら」とホロウの後ろに目を向ける。
そこには 二人のやり取りを見守るアリーザとテナの姿がある。
「我が信じたあの者たちを信じてください」
たしかにいつか完全に一人になる日が来るかもしれない。だけどそれはいまではない。
「彼らはきっとこの先、姫のことを支えてくれるはずです」
「・・・うん」
ホロウは顔をあげてリーダーの顔を見つめる。
「絶対に、立派な誇れる統率者になって帰ってくるね!」
「ええ、姫ならきっとできます。さぁ、あの二人をこれ以上待たせないうちに」
「そうだね」
ホロウは小さくつぶやくと満面の笑みを浮かべて仲間たちの方を見た。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃいませ」
リーダーの言葉に続いて、その後ろにいるホワイトウルフたちも一斉に見送る。
「お元気でー!」
「いつまでもおまちしてまーす!!」
仲間たちの言葉を受けながらホロウはアリーザたちのもとへと駆け寄った。
「おまたせ!」
「もう大丈夫?」
アリーザの言葉に「うん!」と頷く。
「これ以上話してたら別れがもっと寂しくなりそうだから」
「そっか」
「それじゃあ」とアリーザとテナはそれぞれ手を差し出す。
「「行こうか!」」
一瞬目を見開き、すぐに笑みを浮かべるとホロウは差し出された手を取り答える。
「うん!」
二人に手を引かれ、ホロウは生まれ育った地から初めて外の世界へと足を踏み出した。
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