第61話 上級ダンジョン攻略・その壱

 光が止み視界が回復すると、そこには一面の広大な砂漠が広がっていた。空からは太陽の強烈な日差しが照りつけてくる。ここは本当にダンジョンなのか?

「それにしても……ここは暑いですね」

 顔を隠す為に外套を着ているアリスは特に暑そうだな。よし、それなら魔法で何とかしてみせようか。

 イメージはドーム状の空間。それを空気で覆う。

「ソニア。冷気を放つ魔法を頼む。弱めでいいぞ」

「わかったわぁ」

 ソニアの返事と共に冷たい風が周囲に発生した。冷気が逃げない様にする為の空気のドームというわけだな。

「あら? 急に涼しくなりましたわね。これは快適ですわ」

 涼しくなった事に気が付いたプリムラが、感嘆の声を上げた。

「魔物の戦闘時には魔法を解除するから、あまり当てにするなよ?」

 当たり前の事だが、戦闘時この魔法を使いながら戦うのは不可能だ。その時は大人しく熱気を浴びるしかないさ。

「旦那様、何者かの気配が近付いてきます。恐らく魔物かと」

 早速お出でなすったか! マリーの忠告を聞いて各自戦闘態勢を取る。

 だが、敵の姿が見えない。見晴らしの良い地形で敵が見えないなんて事はあり得ない。それはつまり敵は地上にはいない。砂の中に潜んでいるのだ! 

 砂の中から現れたのは「ソードスコーピオン」という体長一メートル程のさそりの魔物だ。手のハサミと尻尾が剣になっている危険度の高い魔物だ。数も多く、油断すれば即座に「死」が訪れるだろう。

「姿を見せないのはダメよぉ?」

 初手はソニアの魔法だ。ソードスコーピオン達が現れた地面を魔法で爆破する。爆音と共に砂塵が舞い上がると、砂の中に潜んでいたソードスコーピオンも宙を舞った。油断せずに伏兵にも注意する、素晴らしい判断だ。

 爆発の衝撃でソードスコーピオンの群れは統制を失っていた。ひっくり返っている奴もいるしな、これは好機だ。

「反撃を受けないというのは楽ですね」

 マリーがひっくり返っているソードスコーピオンを素早く仕留めていく。

「思ったよりも、柔らかい、ですわねっ!」

「……尻尾だけ……注意する……」

 プリムラが力押しで、リラが速さを活かして次々とソードスコーピオンを屠っていく。

「背中は私が守ります」

「うむ、元気があって宜しい」

 突撃する二人の背後を守る様に、俺とローリエが位置を変えながら戦う。

「私達は遠くの魔物を狙いますね」

「皆が囲まれないようにねぇ」

 後衛のアリスとソニアが前衛が戦いやすい様に離れた敵を魔法で穿つ。

「おや? 何処に行こうってんだい?」

 そして新加入のセフィラが、不利を悟って逃げ出すソードスコーピオンを戦追で圧殺して回る。完璧な立ち回りだ、これなら問題無いだろう。

 襲い掛かって来たソードスコーピオンの群れを殲滅し、魔石を集めていたその時、

「きゃっ⁉」

 プリムラの足元で突然流砂が発生し、バランスを崩して砂底へと誘われた!

「今助けるっ!」

 一番近くに居るのは俺だ! 全力で駆け出し流砂に飲み込まれる寸前にプリムラの腕を掴むことに成功した。そして思いっきり腕を引っ張りプリムラを流砂から脱出させ、俺の胸元に抱き寄せた。

「大丈夫か?」

「はい……助かりましたわ、あなた様」

 危なかったな、あのまま流砂に巻き込まれていたら、最悪窒息死もありえたな……。

「これが噂のトラップか? 誰か今の流砂に気付いたか?」

 俺が嫁達にそう問いかけるが、全員首を横に振るだけだった。もしこれが戦闘中に発生したら? 初っ端からやってくれる。このダンジョン、中々に手こずりそうだな。

 その後は流砂に気を付けつつ慎重に探索を進めた。そのせいで進行速度が著しく低下してしまった。早速課題を見つけてしまったな。

 そんな調子でゆっくりと歩いていると、砂ばかりのこの地形で木々の生えた小さな湖を発見した。オアシスだ。

「おっ! 転送魔法陣がある、ラッキーだな」

 この砂漠エリアのオアシスには二つの役割がある。一つは休憩所としての役割、二つ目は次の階層へと向かう階段代わりの役目だ。砂漠エリアは基本的にオアシスを目指して探索する事になる。

「湖のお陰かここは比較的涼しいですね、旦那様」

「ああそうだな。丁度いい、ここで少し休憩しよう。そしてこのエリアに関する皆の感想を聞きたい」

 アイテムボックスから水を取り出し、全員に配る。

「流砂に気付かず申し訳ありません。これは私の役目だと言うのに……」

「マリーさんの所為ではありませんわ。誰も気付けなかったのですから」

「あのような自然現象を利用したトラップは魔法でも分かりませんので」

「そうねぇ。物凄く集中すれば発見出来ると思うけどぉ、戦闘中にやるのは危なすぎるわねぇ」

「けど、そこまで危険なトラップじゃないんだ。「トラップがある」のを前提として戦えば、イケるんじゃないかい?」

「今はそれで良いかもしれませんが、これから先の階層では、トラップの危険度も上がってくるでしょう。その考えは危ないのでは?」

 俺は黙って嫁達の議論に耳を傾けていた。こうして嫁同士で問題点と解決策を模索するのは素晴らしい行いだな。前の世界で見慣れた社内の役員会議を思い出すよ。その時も部下同士で議論させていた。ワンマン経営は嫌いだったのでな。別にワンマン経営を否定する訳じゃない。それが成功している組織も沢山あるしな。俺の会社では合わなかっただけの事よ。

 それはそれとして、やはりトラップに関する専門家は必須か。深い階層になればトラップの危険度も増していくだろう。残り一つの召喚権はここが使いどころか。

「今回の探索はこのまま行こうと思う。トラップに慣れるには良い機会だ。だが慎重に行くとしよう」

 休憩を終え全員でオアシスにある魔法陣の上に乗る。すると恒例となる光が俺達を包み、次の階層に転移された。

 次の階層に着いたが、景色は相変わらず一面の砂漠だ。ここから再びオアシスを目指して進むわけだな。俺は魔法で空気のドームを展開し砂漠へと繰り出していった。

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