どこか不器用な俺たちが、ちょっと遅れた青春を過ごします

向井 夢士(むかい ゆめと)

第1章 

第1話 別世界

 大学はよく、人生の夏休みと言われる。休みが多い、大人になる前の準備段階、自由になる、20歳という壁を超えるなどと、様々な理由が挙げられる。


 だからこそというべきか、クズ人間が生まれやすい環境でもある。怠け、酒、タバコ、ギャンブル……と様々な要因があるからだ。節度を守る程度なら文句は言わないが、強要や謎のマウントアピール、限度を超えたりと見るに堪えない人もチラホラいる。

 俺はそんな大学生をどこか軽蔑しながら、今日も大学に通う。楽しいキャンパスライフとやらは、想像と大きく違ったみたいだ。

 まぁ俺の親友は、ただの変な強がりじゃないか? とか言いそうだが、実際その通りである。俺も、何も考えずにただ楽しい時を過ごしたいだけなんだろう。そのツールが人それぞれ違うだけの話だ。


 もう一年が過ぎ、早くも大学二年生になった。誕生日も四月の頭の方なので、もう二十歳になってしまった。徐々にだが、年齢を重ねるのも怖くなってくる。だんだんと時が経つのも、早く感じるようになってきた。


 この後もこんなダラダラな感じが続いて、俺は楽しいキャンパスライフを送る事はできないんだろうな、と思う。協調性やコミュニケーション力が特段あるわけでもないので、俺のせいでもあるんだが。

 それに将来の事を考えると憂鬱になるし、一人暮らしで一人の時間も大幅に増えたので、何か病みそうだ。

 そんな憂鬱な事を今日も思いながら、俺はまた適当に一日を過ごすのだろう……


 ◇◇◇



 俺は、有明ありあけ らく。広島の広山大に通う、一人暮らし中の大学二年生の男である。

 俺は小説を書いていて、高校卒業後は芸術系の大学に進学予定だった。ただ受験に失敗し、自分の性格や家庭の方針的にも浪人という選択肢はなく、勉強をしてある程度雰囲気が良さそうな広山大に進学した。     

 ちなみに俺の地元は香川で、地域的にある程度近かったことも、理由の一つになった。


 最初は大学生や一人暮らしというものに随分苦労したが、一年経つと流石に慣れるものである。まぁ一人で時間があるからといって、やる事は小説を書くか趣味を楽しむぐらいしかなく、どこか寂しい感じだが、そこは真面目に大学に通っている事に免じて許して欲しい。


 俺はバス停まで歩き、そこからバスに乗って大学に通う。学生が多くて混みやすいが、一年経つとどの時間帯が空いているか分かってきたので、そこについては心配ない。

 そしてバスを降り、ちょっとした坂を上ると大学に着く。ある程度通学しやすいのは、学生にとって非常に助かる。


「あ~俺さ、昨日オールで飲み会してさぁ」

「女の子三人とパーティーしたけどさ、マジ最高だったわ」

「昨日の新台入れ替えで、仕送りがなくなったわ。マジやべぇ」


 色々な学生の様々な聴こえてくる会話にどこかイライラしながら、俺は講義室に向かう。

 別に楽しむこと自体は否定しないが、こんな誇るようでもないことを誇らしげに言っているのが、イライラする原因なのだろうか。それとも、俺が大学生の気持ちになれておらず、俺だけまだ純粋な子供のままなんだろうか。アニメの見過ぎかもしれない。


 そんな事を思いながら講義室に入ると、後ろの方にゲームに熱中している俺の親友の、宿毛すくもあらたを発見した。俺は隣に座り、その親友に話しかける。



「よぉあらた。何してんだ?」


「おぉ、らくか。明日までのソシャゲのイベントがあるから、必死に周回してるわ」


「あーそのイベントか。とっくに俺は終わらせたぞ」


「色々やってたら、時間なくなってな。まっ、この講義の時間で終わるだろ」


 俺の親友の新は、何かと上手く人生を過ごすタイプだ。交友関係も広く、上手くサボりながらも成績が良い。それに人付き合いが上手く、コミュニケーション力が俺と違って非常にある。それに、どこか達観したというか大人びた雰囲気あるんだよな、こいつ……


 新とは一年の後期に知り合い、なぜかかなり仲良くなって、今に至る。交友関係が広い新にしては少し不思議だな、と思いつつも、ほぼボッチだった俺には助かったので、まぁ良いだろう。


「てかさ、楽。お前ゼミの親睦会というか、歓迎会的な奴行く?」


「あーなんか来てたな。まぁ俺はそういうの好きじゃないし、良いかな」


「そんな事言うなよ。多分、飯奢りだぞ」


 この大学では、二年から仮のゼミが始まり、三年からゼミが本決定するという流れだ。ただ変更する人も少なく、こうやって新しいゼミの親睦を深めると共に、同じゼミの先輩とも親睦を深めるといった、歓迎会が開かれることが多い。


「なぁ、新。大学生って、飲み会をする呪いでもかけられてるのか?」


「そんな事言うなよ。別に酒飲まなくても、飲み会は楽しいし」


「仲良い奴ならいいけど、知らない人ばかりだと気を遣うんだよな」


 人見知りな俺にとっては、知らない人だらけの飲み会は少し厳しい。どこか飲み会を嫌うサラリーマンの気持ちが分かったような気がする。


「でも飯奢りは大きいだろ? それに、交友関係を広めておくのはおすすめするぜ。いざという時に役に立つからな」


「新さ、人を駒だと思ってないか?」


「そういう考えもある、って話だよ。楽の事は親友と思ってるから、心配しなくていいぜ」


 今日はやけにグイグイ押してくるな……と俺は少し不思議に思う。それに、何かこいつの怖い一面も見えた気がするんだが、ここは無視しておこう。

 その俺の気持ちを見透かしたように、新が俺に向けて言ってくる。


「楽しい大学生活送りたいだろ? 物は試しで参加してみよーぜ。俺も行くからよ」


 そこまで言われると、俺も何も言い返せない。


「分かったよ。まぁ、参加してみようか」


 俺は誘いを承諾し、歓迎会に参加することにしたのであった。





 

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