【結婚四年目】 沙織の転勤 妊娠と…流産

はじめに…今までのタッチと変わることお許しください。重い話なんですがこれも夫婦の歴史なので。


俺、三月と妻の沙織は異業種結婚の共稼ぎ夫婦。この頃は「ダブルインカムノンキッド」なんて言葉で言われていたな。何が言いたいかというと…珍しかったんだ。


これ、かなり昔の話なんだけど、沙織は日本社会でも超初期の民間女性キャリア社員だったんだ。


今なら考えられないことだと思うんだけど、沙織の勤める会社は、結婚した女性キャリアに踏み絵を掛けた。

つまり「転勤」。

役職への登竜門として「転勤」オファーして、躊躇するなら退職を勧める。


ひどい話だ。


負けず嫌いの沙織は当然のように転勤したがったんだけど、古い時代だったんで、仲人さん(秋男じゃないよ?本物の)筆頭に猛反対が来てさ。


「女は家庭に入るべき」って時代だったしね。


俺は、仕事が大好きで負けず嫌いなところも含めて、沙織が大好きだったから、全面的に沙織の側に立った。

沙織も信頼出来る上司と打ち合わせを重ねて、勤務地は比較的近場の名古屋、口約束だけど一年で本社復帰を勝ち取ったんだ。


当時、結婚四年目の春、沙織もアラサー。

初めての別居生活開始にあたり、俺は沙織と約束事を決めた。


「お互いお休みが違うのを利用しよう。お金が掛かってもお休みにはお互いの家に行こう。そしたらさ、俺たちの休日体系なら夜はほとんど一緒だよ」


最初は「心配しすぎ」「あたしたちには愛があるから大丈夫!」とか言っていた沙織もなんだかんだで最後は賛同してくれた。


まあ、俺の浮気を心配しているのがありありと分かったけど(笑)。

夫婦は過剰なほど努力してやっと維持出来るものってのが俺の持論だったんだ。


沙織は仕事の兼ね合いさえ無ければ、律儀に毎週帰ってきた。

もちろん俺もね。

JRには、本当に感謝しろよ!ってくらい、新幹線代を払っていた。

『子供が出来たみたい』沙織がはにかんだように報告してきたのは、やけに暑い7月だった。


今年の2月に子供を作ろうと話し合って生を解禁して、転勤で慌ててコンドームを復活させたんだけど遅かったみたいでさ。


「安定するまでは、沙織は帰って来なくて良いからね!」

沙織「え~寂しいよ~」


この決断が正しかったのか、今でも夢に見ることがある。


沙織「今週末に部内の暑気払いがあってさ~、今までは金曜日の飲み会って断っていたんだけど、今回は出よっかな」

「おいおい(汗)、無理はしないでくれよ?」

沙織「分かってるよっ!」


「みっちゃん、みっちゃん!助けて!!お腹が痛い!なんか変だよう!!」


俺の仕事は、業態として土日がメインになる。

日曜日の大口顧客の折衝準備をしていた俺のところに沙織から入った連絡はどうしようもなく…


あわてて名古屋の病院に駆けつけたときには、もう全てが終わっていた。


もう沙織の中には…命の痕跡は無くなっていたんだ。



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