小さな魔法使いさんの、出会いとキセキの旅日記

零5s4

第1話

 みなさん、初めまして!


 エミリ・シュツルと言います。今年で十三歳になります。


 ん? 誰ですかチビって言ったやつ。失礼ですね。140センチはあるんですからね! 


 ……なんでそんな目で見てくるんでしょうか。本当です! あります。あるんですからぁ!


 とりあえず、それは置いておきましょう。これ以上言及するのであれば、魔法で吹っ飛ばして仕舞えばいいだけですからね。


 閑話休題、今、私は魔法を教えてくださった、お師匠様の家に向かっています。孤独死していないか確認するためです。


 その道中なのですが、


「なんて綺麗なのでしょう?」


 やっぱり、この丘からの夕焼けの眺めは最高です。


「これが、俗に言う奇跡とかの類なんでしょうね」


 奇跡っていうのは、なんかこう、キラキラしたものです。うまく言い表すことはできませんが、そういうものです。


 丘の上に吹いた風は、私の茶色い髪を揺らしました。お師匠様もふわふわしていて可愛いと言ってくれたので、お気に入りです。


「と、また見惚れてしまって、野営場所を忘れていました」


 これでは、夜を越すのが厳しいかも知れません。もしかしたら、そのまま死んでしまうなんて可能性もあります。早急に対処しなければなりませんね。


 まあ、徹夜して襲ってくるモンスターを、魔法で倒し続ければなんとかなるんですけど。


 でも、もちろんそうしたくない理由があります。


 何って、眠いんです。寝る子は育つっていうじゃないですか? 別に、身長のことを気にしているわけではないですよ!


 と、とりあえず野営場所です。これを探さないとどうにもなりません。


 この丘の上でもいいのですが、なんせ見晴らしが良すぎてモンスターの格好の餌食になってしまうでしょう。この丘を下ると森しかありません。ですので森の、なんか良さげな場所を暗くなる前に見つけましょう。








 と、思っていたのですが、森の中には先客がいました。ドラゴンさんです。悠長に言ってるように見えるかもしれませんが、結構やばいです。なんたって、あの炎帝竜さんなのですから。少なくとも十メートルはあります。


「あ……あぁ。こ、殺すのだけはどうか……。やめてくださ──」


 私が溢れそうな涙を必死に堪えて、命乞いをしていると、炎帝竜さんが自前の爪を振りかざしました。


 やばいです。


 避ける術もありません。防御魔法を展開したとしても、粉々になってしまうでしょう。


「涙を堪えて」と言いましたが、実際は涙が溢れていたかもしれません。


 そもそも、収納魔法から杖を出すよりも先に吹っ飛ばされるでしょう。いや、吹っ飛ばされるくらいならいいです。もし真っ二つにされたらと思うと……。無駄な足掻きとは分かっていますが、少しでも可能性をかけてかがみ込みます。


「い、いやあああぁぁああぁぁぁあぁぁ!」


 周りの木々が薙ぎ倒され、危険が自分に迫ってくるのが分かります。そんな危険と共に暴風も迫ってきます。


 暴風が通り過ぎました。それで、私の涙も水滴となって遠くに飛ばされていきます。あ、私泣いているんですね。


 もういいです。泣き腫らしてやりましょう。


「うわああぁぁぁぁああ!」


 攻撃はまだきません。走馬灯っていうんでしょうか? 死ぬ前は時間がゆっくりになるんですね。


「あああぁぁ……あ、あれ?」


 暴風はもう通り過ぎています。衝撃はいつくるのでしょうか? もしかしてもう吹っ飛ばされていたり?


 パッと顔を上げると炎帝竜さんの爪は、もう振り抜かれていました。


 生きてます。なぜかは分からないですが、生きているようです。でも、なんででしょう?


 攻撃が当たらなかっただけですか? だったら逃げたほうがいいの? いや、そもそもドラゴンさんと遭遇したら、逃げるのが普通です。


 そんな思考を巡らして、動けないでいると、炎帝流さんと目が合いました。とても怖いです。目が合っていなくても体が動かなくなっちゃうのに、目なんか合ったら立ってさえいられるかどうか。


「──」


 ……なんでしょうか?


「──」


 気を付けろよ? 


 何にでしょう? 直接そう言われたわけではないですが、多分そう言っています。


 私は、昔から言葉を持たない生き物──猫ちゃんとか、牛さんとか。友好的ならば、モンスターなんかとも少し意思疎通ができます。


 お師匠様は、「お前の思い込みだろ」とか言うんですが、私はそうとは思えません。だって、今も私と目を合わせている炎帝竜さんは、何かを訴えかけているのですから。


 私は、目を合わせているのも少し恥ずかしくなって、横にそらしました。すると、視界の端に何かが映ります。


 それは、紛れもなく熊さんでした。でも、異様に大きいです。恐らくですが、モンスター化してしまった熊さんなのでしょう。


「あ、え。えっと。炎帝竜さん。ありがとうございました」


 なんと、炎帝竜さんは私を助けてくれたみたいです。私がお礼を言うと、一度喉を鳴らしてから、丸くなって眠り始めました。


 多分、今日はここで野営しても大丈夫そうですね。と言うか、そっちの方が安全そうです。炎帝竜さんが守ってくれますから。


 何かお礼をしておきたいのですが、何か出来るでしょうか? 炎帝竜さんが倒してくれた熊を焼いたら、食べてくれるでしょうか?


 それくらいしか出来ることはないですし、自分もお腹が空いてしまったので、そうしましょう。皮を剥いだりなんなり。結構な重労働になりそうです。


 でも、魔法の力でなんとかなるでしょう。お師匠様には、「魔法というのは、本当に必要な時以外使ってはいけない」と言われていますが、今回は使いましょう。





 目の前のぱちぱち言っている、炎の上のお肉からいい匂いが漂ってきています。お肉からジューッと音を立てて、脂が滴り落ちました。


 寝ていた炎帝竜さんは、お肉に焦げ目がつきだしたあたりで起きてきて、焼いているお肉を挟んで私の前に座っています。食いしん坊さんなのかもしれません。


「もう少しなので、待っていてくださいね」


 自分の四倍以上もあるようなお肉を木の棒に刺したり、それを魔法で浮かせたり、とっても苦労したのですから、是非とも一番美味しいところで食べて欲しいです。


 そろそろかな? というところで、自分の分のお肉を切り出してみます。これは、無属性魔法の応用です。


 しっかりとした焼き色がついており、中まで火が通っていそうです。こんなに大きなお肉を焼いたことはないので、分かりませんが。


 炎帝流さんのお腹は人間と違うので、少しくらい生でも大丈夫でしょう。それに、新鮮なのでレアの方が美味しいかもしれません。


「うん! 出来上がりました!」


 ちょうどいいところに、炎帝竜さんが私を助けてくれた時にできた、木の切り株があります。なので、そこに浮遊魔法を使って大きなお肉を置きました。


 炎帝竜さんとお肉が並ぶと、ちょうどいい大きさに見えますね。それを見て、失礼ながらも笑ってしまいました。


「どうぞ。召し上がってください」


 そう言うと、炎帝竜さんは美味しそうにお肉を頬張り始めました。私も食べてみることにします。


「んん〜〜!」


 なんと美味しいのでしょう。引き締まった赤みが口の中でほろっと崩れます。そして、甘い脂が口の中を。


「これは、わさびが欲しいですね」


 でも、ないものは仕方がないです。東の方の国の希少品でもあるので、滅多に食べられるようなものでは無いんですけど。


 それから無我夢中で食べ続けました。食べ終わった炎帝竜さんは眠ってしまったので、私も後片付けをして、火を消したら寝ることにします。


 今日は少し寒いので、すやすやと寝ている、炎帝竜さんのお腹に寄りかからせてもらって寝ましょう。


 ここからお師匠様の家までは半日ほどです。なので、明日は朝早くここを出発した方が良さそうです。


 そうしないと、お師匠様が寝てしまっているかもしれないので。あの人、寝るのだけは早いんですよね……。


 久しぶりにお師匠様の家に帰ったら、なんて言われるでしょうか? 「おお。久しぶりだな」とか、「よく来たな。おかえり」とか?


 いや、もしかしたら「大きくなったな」って言われちゃったり? そんなことを考えていたらすぐに寝てしましました。少し、疲れが溜まっていたのかもしれません。

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