第5話 三大プリンス

 次の日。わたしは重い足取りで学校に向かっていた。


 断るとは決めたけど、やっぱり気が重い。頼まれたものを断るって、勇気がいるよね……


「……、音……音葉!」


 急に名前を呼ばれて、驚いて振り返る。後ろには仁奈が立っていた。ぼんやりしているうちに、学校についていたみたい。


「どうしたの? ボーっとしてたけど」


「あー……実はね……」


 わたしは、断ろうとしている事を仁奈に話した。


「なるほどね~……確かに、断るのって勇気いるよね」


 仁奈はうんうんと頷いた。


「仁奈も、ママから頼まれたこと断るの大変だし」


「……それ、違う意味でじゃない?」


 断るの大変っていうか、やらないだけなんじゃ……


「あ、バレた?」


 テヘッと笑った仁奈は急に真剣な顔になった。


「仁奈もついていくよ。一緒に断ろう」


「仁奈……ありがとう」


 仁奈と一緒なら、大丈夫な気がする。ちょっと元気出たな。


 ――頑張ろう。ちょっと申し訳ないけど、わたしは、軽音部には入れないから。



「安西? 今日は来てないけど」


 教室の入口近くで喋っていた男子が、首を振る。


「そっか……ありがとう」


 安西くんのクラスの三組に来ていたわたしと仁奈は、一組に戻っていた。


「どうしてこういうときにいないんだろうなぁ」


 仁奈がはぁっとため息をつく。


「……とりあえず、放課後にまた行ってみよ」


「うん」


 わたしがうなずいたとき。突然、「キャーッ!」と声が聞こえた。


 な、何!? 誰の悲鳴!?


 驚いてあたりを見回すと、廊下の端の方に人混みができているのが見えた。


「あー……またあの二人なんだ」


 仁奈が迷惑そうに顔をしかめている。


 見ると、何人もの女子学生が二人の男子学生を囲んでいる。


「『あの二人』って?」


「え!? 音葉知らないの!?」


 すごい驚かれたんだけど……そんなに有名人なのかな?


二条にじょう蒼汰そうたくんと坂田さかた瑠輝るきくんだよ。あの安西くんと幼馴染で、天川中学校三大プリンスって言われてるの。ファンクラブもあるらしいよ」


 さ、三大プリンス……


 でもそう言われると、坂田くんは人に好かれそうな優しい笑顔だし、二条くんは坂田くんの後ろに隠れてるけど、結構かっこいい。


 ……あれ、二条ってもしかして……


「二条くんは、あの二条グループの子どもなんだって。それであんなにイケメンなんだから、そりゃモテるよねぇ。本人はすごく人見知りらしいんだけど」


 仁奈はあきれたような顔をしている。


 二条グループって……あの、このへんではすごく有名な大金持ちだよね。食品とか建築とか、文房具にも『二条』って入ってるの見たことあるよ。


「だからと言って、廊下を防ぐほど人が集まるのも迷惑だけどね」


 仁奈ははあっとため息をついた。


 確かに、人だかりのそばに、迷惑そうな顔をした生徒が数人いる。廊下を通れなくて困ってるみたい。


「ほら音葉、行こ? 次理科室だよ」


「……うん」


 わたしと仁奈はなんとか人だかりの横を通って、教室に戻った。

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