第10話東都物産役員室に

陽平は、佐々木家お抱え運転手の酒井が運転する黒ベンツに、社長健治と一緒に乗り、午前8時半に、東都物産ビル地下駐車場に到着した。

一緒に黒ベンツを降りると、若い女子社員が立って待っていた。

(その着ているスーツも、東都物産の一般の女子社員よりも、上質なもの)

(陽平は、役員室の人と、察した)


健治が、その女子社員を紹介した。

「役員室の花沢日奈子さんだ」

「細かなレクチャーを受けてくれ」


陽平は、東都物産の「コアな話」は、昨晩、健治から聞いて、相当程度理解した。

ただ、「秘書業務」については、全くの素人である。

「福田陽平です」

「不慣れと、ご迷惑をおかけいたします」

と、深く頭を下げた。


花沢日奈子は、小柄で童顔。

愛嬌ある輝く瞳を、さらに輝かせた。

「花沢です」

‘(花沢日奈子は、そのまま陽平の手を、しっかりと握った)

「こちらこそ、期待しております」



役員室は最上階だった。

地下駐車場から、役員専用のエレベーターに乗った。


花沢日奈子が、極めて豪華なエレベーターの中で、陽平にレクチャー。

「陽平君、社員証とパスワードで、エレベーターが動きます」

「パスワードも、その社員ごとに違って、その社員が設定するの」


陽平は、納得。

「セキュリティが強い、当たり前ですが」

(日本を代表する商社、東都物産役員室専用エレベーターである)

(誰でも簡単に乗れるようでは、確かに危険である)

エレベーターは最上階に達し、3人はエレベーターから出て、役員室に入った。


広い役員室だ。


東京駅が直近、よく見える。

また目を転じれば、まず皇居が見え、東京ドームが見えた。

その先に都庁、また、その向こうに雪をかぶった富士山も見える。

東京タワーも見え、その先には東京湾。

また目を転じれば、隅田川やスカイツリーも見える。


役員室の中に、社員の執務スペースとは他に、また部屋があった。

社長室、専務室、常務室である。


花沢日奈子は、一つ一つ部屋の中を見せて、説明をした。

「陽平君と私が社長秘書」

「昨日までは私一人だったけれど、社長の希望で、今日からは二人」

「専務秘書は、吉沢さん」

「常務秘書は、田中さん」

(陽平は、専務秘書吉沢と、常務秘書田中と、それぞれに自己紹介を行った)

(吉沢と田中は、30代前半の女性社員、二人とも、にこやかだった)


また別の男性社員が入って来た。

陽平は、その男性社員を見て、頭を下げた。

「土屋さん、お久しぶりです」

「陽平です、今日からよろしくお願いします」


陽平に「お久しぶり」と言われた土屋は、立派な体格。

豪快な笑顔で、陽平に握手を求めた。

「陽平君、待っていたよ、この日を」

(陽平は、握手の強さに、少し痛みを感じた)


陽平は、顏を赤くして、返した。

「子供の頃は、健治さん・・・いや、社長の屋敷でよく遊んでもらいました」


土屋は、陽平を抱き締めた。

「あの時は、佐々木家の執事で、今は役員室長」

「まあ・・・陽平君とは、血縁だよ」


陽平は、目を丸くしている。

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