緒晴 梵 の 京都 徒然日記。

@JULIA_JULIA

第一話 京のモーニングでも、どないです?

堺町三条の十字路から南へ行くさがると、ちょっとして老舗喫茶の本店が現れる。三条どおり側から見たら、手前は落ち着いた感じの横長の日本家屋、奥は洒落た感じの白い建物になってる。


店先に人の姿は有らへん。これやったら すぐ入れそや。行列が出来とったら、そばの支店 行こ 思とったんやけど。


──今日はいてんなぁ。ついてるわ。


真っ白なカッターシャツとシックな黒のパンツスタイルで颯爽と歩いて、その喫茶店の前まで来たウチ。


・・・あ、パンツ言うてもパンティーの事や有らへんよ? カッターシャツとパンティーで歩いとったら、流石に捕まるやろから。えっと、ズボンの事やからね。




ウチの今日の朝ゴハンは、ここのモーニングセット。値段は1500円を越える、中々に高級なえげつない代物やわ。でもまぁエェ、たまにはエェ。そう自分に言い聞かせて店内へ。


重厚な雰囲気を漂わせる内装。洗練された店員さん。ウチは優雅に歩みを進めて真っ直ぐ奥へ。


時刻は午前8時前。すでに常連らしきオッチャンらがチラホラ。みんな新聞 読んではる。スゴくえらい遠ざけて読んでたり、逆にスゴくえらい近付けて読んでたり。


──相変わらず、みんな目ぇ悪いんやな。


常連らしきオッチャンらがチラホラ、とは言うたけど、お客さん自体はメチャメチャ多い。ほぼ満席に近いわ。ほとんど観光客。この店は観光スポットの仲間入り してんねやわ。


一面ガラス張りになってる店の奥。その前には幾つかなんぼかの円卓が並んでる。そ中で空いてる円卓は1つ。ウチは円卓の選択をする間も無く、そこ席に着く。


円卓1つにイス4脚。ウチはガラス越しに外の景色が見える席に座った。大きいガラスの外には、青々とした木々が。


──緑が目に心地エェなぁ。


そないな気分のまま、やって来た店員さんに注文する。


「京のモーニング、1つ」


「コーヒーには、ミルクと砂糖をお入れしても宜しいですか?」


「はい、普通でぇ」


店員さんが去り、そっからは至福の時。料理が運ばれてくるまでの時間もエェ気分。


──ウチは今から、京都の有名老舗喫茶店で豪華な朝食を食べるんや。


そない思ただけで、心が豊かなる。


ちょっと 時が流れて お目当ての料理が目の前に。


スクランブルエッグ、ハム、サラダ、フルーツ。そんでクロワッサン。更にはオレンジシュースも有って、メインとも言えるコーヒー。


ここのコーヒーは、基本的には最初からミルクと砂糖が入ってる。たしか、〈長話に夢中になってる お客さんが冷めてしもたコーヒーに、ミルクと砂糖を入れても よう混ざらんし、美味しない〉って事で、最初から入れてはんのやとか。まぁ、知らんけど。ちなみに現在いまは、注文の時に確認してくれはる。さっきも そやったやろ?



大層ごっつい 立派な朝食を、幸せ気分でペロリと平らげたウチ 。流石にエェ値段してるだけあって美味しかったわ。ウチの気分は更に上がり調子。けど この後、ちょい沈む。そや、お会計おあいそや。




財布が結構ないかついダメージを受けてから、ウチは店の外へ。見上げると、青い空には小ちゃい雲2つ。


──今日もエェ天気やなぁ。


5月の空から視線を外し、ウチはしもへと歩き出した。




清々しい陽気に誘われて、テクテクと歩く美女ウチ。ちょい行くと公園が。


ここは東洞院蛸薬師の北東の角に在る御射山みさやま公園。そこそこの広さに幾つかなんぼかの遊具。現在いま 人は居いひん。


貸切状態の公園に入ってブランコに手ぇ掛ける。そのまま引き寄せて、右足 乗せて。そしたらほんなら立ち漕ぎをスタート。7往復半のアトラクション。最後は華麗なジャンプで締めくくり。おわっ、危ない。柵にぶつかるトコやった。みんなは真似せんように。ほな、今日の運動はこれにて終了。


──エェ汗 かいたわ。


右の前腕うでおでこを拭う。けど白のカッターシャツに染みは有らへん。そりゃそうや、あんな程度で汗は かかん。


「おい、なんしとんねん」


ウチの左耳に聞き覚えの有る声が届いた。思わず右向け右で、退散の準備。蛸薬師どおりを西に逃げよ、と試みる。けど残念。


「どこ行く気や!」


その声と同時に背後からカッターシャツの襟を掴まれてしもた。ウチが顔を上に向けたら、そこには鬼のような顔。スゴいえらい形相で睨まれてる。


ウチの背ぇは170センチ。女子にしては、まぁまぁ 高め。けど そんなウチの上から顔を覗かせてる この大男は、一体 何センチなんやろか。


「朝からこんなトコで、ブランコ立ち漕ぎ かい。オマエは子供か」


汗は かかんが、恥 かいた。知り合いにブランコの立ち漕ぎ 見られてしもた。ちなみにウチは21。そんな20歳はたち過ぎのカワイイ女のコピチピチギャルの口からは、切羽詰まった一言が。


「誰か助けてぇ! 誘拐されるぅ!」


ちゃうな、二言か?


「アホな事 言うとんな。ほら、帰るで」


鬼のような大男は、ウチを肩の上に担ぎ上げる。ウチは2つ折り みたいな格好で、お尻を正面に向けてる始末。そんで大男はそのまま蛸薬師どおりを東へと向かいおった。


──ウチは米俵かっ! あぁ、恥ずい。みんなに見られてる。たぶんお尻を見られてる・・・。っていちゅうか、この光景 どっからどう見ても、〈人さらい〉やないの? 誰か助けてんか。




ウチが連れて来ら・・・ じゃなくてやのうて、運び込まれたんは、とあるビルの一室。その中に在るベッドの上に放り投げらほかされた。


ベッドの上には可弱い美女ウチ。そんでそ近くには屈強な大男アホ。密室で2人っきり。こんなこないな状況やと、先の展開は決まってる。


──あぁ、ウチ・・・ もう純潔を無くしてしまうんやね・・・


ウチは少し曲げた左の人差し指を軽く噛んで、覚悟を決めた。


「おい、なんか変な妄想してへんか?」


大男が怪訝な顔してる。怪訝やし、奇妙けったいな顔してる。


「・・・え? ウチ、今から 貴方あんさんに抱かれ・・・」


貴方あんさんって、オマエは祇園の芸妓げいこか。 仕事や、仕事が入ったんや」


まぁせやな。関西弁 丸出し やけど、流石に〈貴方あんさん〉なんて言わへんわ。


「今日の昼に、伏見の狐が来るさかい。オマエも話 聞かんかい」


奇妙けったいな顔で、奇妙けったいな事を言うた大男。


狐が来る? 話 聞く? コイツは何を言うとんねやろ?


そう思うなかれ、これはホンマの話。




実はウチ、〈あやかし〉の困り事を解決しとる、京都市内ここらじゃ かなりちっと知られた存在やねん。




挨拶が遅れて すんません。〈緒晴おはれ そよぎ〉と申します。


ほな、今後とも宜しゅうに。



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