2020美術館でこわい話を聞く会字幕.vtt

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みなさんこんにちは。わたくし、元落語家で今はホラー漫談家として活動をしております。馬刷亭 白対と申します。本日はお足元の悪い中、お越しいただきありがとうございます。えー、今回はですね、ミュージアムホラー・美術館でこわい話を聞く会、ということで。面白い企画を考えられますねぇ……。実は私も、こちらの美術館さんとは縁がありまして。うちの嫁さんがですね、以前に子供と一緒に来たことがあるそうなんですよ。あそこの目の前の公園で子供と一緒に遊んだことがあるらしいんです。いやー、ご縁ですねぇ。嫁さんも子供もこの公園のことが気に入ったそうで、インターネットに感想を書いたりしてましたよ。そうすて今度は亭主が呼ばれてお話をさせていただくってんで、いやー、本当に不思議なご縁ですねぇ。さてさて、私としましても、せっかく美術館でお話しますのでね、多少は美術に関係するお話をしようかなぁなんて思っております。それでは最初に、僕が学生だった頃、とある先輩から聞いたお話を皆さんにお話しようかと思います。


さて、その先輩。名前は田中さんって言うんですが、とある美術大学で彫刻を専攻しておりました。聞くところによりますと、大学で彫刻を勉強するってのは、なかなか大変なんだそうです。何が大変かって?それはですね、音がうるさいそうなんですよ。彼らは実習で、大きな木をノミで彫ったり、石を大きなハンマーで削ったりするそうんですが、これがまあ〜うるさい。ハンマーでノミを叩く音なんて、そりゃあもうカーン、カーン、って、めちゃくちゃうるさいんですって。なので、自宅で作業すると近所からクレームがきちゃうんだそうです。それでも学生さんは、夜遅くまで作業をしたいわけです。自分の作業場を借りられれば良いんですが、学生のうちは貧乏でそれも難しい。そこで一部の学生さんは、大学にバレないようにこっそり大学のアトリエにベッドや寝袋を持ち込んで、夜遅くまで泊まり込みで制作をするんだそうです。田中さんも同じように、よく夜の大学アトリエに忍び込んでは、夜遅くまで制作をしていたそうです。


その日もバイトが終わった田中さんは、制作をするために大学の自分のアトリエに向かいました。アトリエは6階建ての幅広の大きな建物で、大学の敷地の奥にあります。建物は、各階は一本の長い廊下が通っているような作りで、そこに教室やアトリエが並んでいます。田中さんのアトリエは4階にあるのですが、夜になると節電のためにエレベーターの電源が落とされるので、階段で自分のアトリエに向かいます。日中はたくさんの学生がいて賑やかな校舎なのですが、夜になると誰もおらずになんだか空気まで重い感じがします。電気が消えた廊下に自分の足音だけが、かつーん、かつーん、と響きます。田中さんは、1階、2階とフロアを上がっていきます。各階の階段は、廊下を横切るような形になっています。3階の廊下を横切って4階への階段に足をかけた時、田中さんは廊下の奥に違和感を感じて立ち止まりました。


ん?誰かいる?今、横切った3階の廊下の突き当たりに、誰かが立っているように見えます。じっと目を凝らしてみますが、廊下は薄暗くよく見えません。目を凝らしてしばらく様子を伺ってみたのですが、輪郭ははっきりとせず、かといって動く様子もなく、薄ぼんやりとそこに立ち尽くしているように見えます。田中さんは背筋にぞくっとするものを感じました。直感的に、やばい!と思った田中さんは、すぐにその場を離れました。階段を駆け上がり自分のアトリエに入ると、すっかり制作する気も失せてしまい、しかしあの廊下を横切って降りる勇気もなく、その日は無理やり寝てしまうことにしたそうです。


その日を境に田中さんは、夜になると廊下で人影と遭遇するようになったそうです。なるべく気にしないようにしていた田中さんでしたが、流石に連日遭遇すると精神的に参ってしまったそうで、当時、仲の良かった大学の助手さんに相談したそうです。助手さんは、しばらく、うんうんと先輩の話を聞いていました。一通り田中さんの話を聞いた助手さんは「なるほどな」と一人納得すると、その人影について教えてくれました。助手さん曰く、あの人影はたぶん幽霊で、数年に一度“見える”学生が現れるんだそうです。助手さんは「俺が知ってるのは部分的な話だけど……」と前置きして、田中さんに話しを始めました。助手さんが言うには、あの幽霊はもともと20年くらい前に在籍していたこの大学の学生で、描いている絵のことで悩みすぎた結果、アトリエで手首を切って死んでいるところを発見されたんだそうです。


「事件の後、お前みたいに“見える”学生が定期的に現れるようになったから、それで大学の関係者はみんな知ってるんだよ。ただ大学の関係者があまりこの事件を話したがらないのには理由があって。事件があった当時、悪い週刊誌に事件を嗅ぎつけられちゃって、あることないこと面白おかしく掻き立てられたらしいんだ。それはもうひどい書き方だったらしいよ。教授と不倫関係にあったとか、有名な画家に遊ばれたんだとか……そのうち学生たちの間でも変な噂が広がり始めて、現場には自分を弄んだ教授を呪うための絵が立てかけてあったとか、自分の血で絵を描こうとした途中に出血多量で死んだとか、そりゃあもう、いろんな噂があったらしい。大学も噂を鎮めるのにすごく苦労したみたいだ」


そう一息で話すと、助手さんは周りをキョロキョロと見渡し、周囲に人がいないことを確認すると、再び田中さんの方を向き直りました。「……ところで、これはここだけの話にしてほしいんだけど……」声のトーンを落として、助手さんは話を続けます。「これはあくまで噂なんだけど、実は騒動の最中に死んだ学生の遺品だった絵が消えちゃったらしいんだよ。調べてみたけど、犯人は分からなかったそうだ。大学としても、学内で自殺者が出た上に遺品の紛失だろ?それ以上マスコミにバレたら大変なことになる。……それで、“これは不幸な事故だから、これ以上話題にしないように”と大学関係者に通達があったらしい」


それ以来、紛失した大切な絵を探すために、夜な夜な現れてるんじゃないか?と助手さんは言いました。その後、助手さんは田中さんを連れて近所のお寺にお祓いに行きました。それ依頼、田中さんはその幽霊を見ることは無くなったそうです。ちなみに、未だに遺品の絵は見つかっていないそうです。その子は自分の絵を探すために、今でもその大学に出没しているのかもしれません。作品というのは“作家の分身”とも言いますからね。何十年も自分の絵を探し続ける、悲しい女の子のお話でした。ありがとうございました。それでは次のお話ですが―――


―――――――――

「白対さん、本日はありがとうございました。お話とても面白かったです!」


「ありがとうございます。こちらこそ、貴重な機会をいただきありがとうございました。いつもは怪談バーとかで話すことが多いので、こういう場所でお話ができて新鮮でした。それにしても、閉館してしまうなんて残念ですね……こんなにいい場所なのに、新しい市長も酷いもんだ!」


「そう言っていただけると、職員も救われます。最後に白対さんをお呼びして、面白い企画ができてよかったです。本当に……ちなみに、もしかしてあの話のモデルって〇〇美術大学ですか?」


「あ、そうです!よく分かりましたね!」


「やっぱり!実は私、卒業生でして。6階建てのアトリエって聞いてピンときたんです。そんなアトリエがあるのは、都内だとあの大学だけですから。幽霊が出るという話も友人から聞いたことがありますよ。ただ、白対さんがお話しされたのは、私が知っている話と少し違ったので……」


「あ、いやいや、そうなんですよ。お話をするにあたって、内容は手直ししていますし、構成もネタ用に作り直してますから。尺の都合で端折ってる部分もありますしね」


「そうなんですね。端折っちゃうのも、なんだかもったいない感じがしますね」


「いやーそうですよね。ただ、みなさんの前ではあんなふうに話をしましたが、やっぱり現実をそのままお話ししても、あんまり面白くはないですからね……」


「そうなんですか?」


「はい。日本の警察は優秀ですからね。事件なんかあってもすぐに解決しちゃいます。あ、女の子が大学で亡くなったのは本当みたいですよ?ただ、実際はすぐに警察の調査が行われ、情緒不安定から自殺を図ったということで結論がでたそうです。不倫の話とか血で描いた絵があったなんて話もありませんし」


「そうなんですか……」


「それ以外にもいくつか端折った部分もあって……そうだなぁ……女の子が亡くなった後にも一悶着あったんですが、ご興味ありますか?」


「あ、聞いてみたいです」


「そうですか。それでは、えーと、確か……、女の子が亡くなってから、大学側も除籍の手続きを進めていたそうです。その子の荷物も大学に置いておくわけにはいきませんから、ダンボールに詰めて彼女のご実家に返却することで準備をしていたそうなんです。しかし、なぜか直前になってご家族が荷物の受け取りを拒否されたそうなんです。もしかしたら、娘さんが亡くなったことが受け入れられなかったのかもしれませんね。


そうは言っても、大学側もいつまでも遺品を置いておくわけにはいきませんので……ご家族と大学関係者がやりとりをして、結局、遺品は大学で処分することになりました。それでもやはり、本人の描いていた作品まで捨ててしまうのはどうか?という意見が大学内で出てきたそうで……それで、もしかしたら後で「やっぱり返して欲しい」と言ってくるかもしれない。一時的に大学の倉庫に保管して、四十九日が過ぎたあたりで再度ご連絡してみようかと言うことになったそうです。その後、彼女の絵を倉庫に運び込んで保管していたところ、倉庫の前で彼女の霊を目撃する生徒が現れるようになってしまったという話です。


これには大学関係者も困ってしまって。慌てて彼女のご家族を説得して、絵を引き取ってもらったところ、女の子の霊はそれっきり大学の敷地内で目撃されることはなくなったとか。学生にも何人か取材してみたんですが、学内では結構有名お話のようですね」


「あ!私が知っている話もそんな話でした。“倉庫の前に女の子の霊が立ってる”っていう」


「おもしろいですよね。大学みたいな場所でも、幽霊の対応に苦慮することがあるんだって。それで、ここからは私の考えなのですが、彼女は多分、自分の絵に取り憑いてしまったんじゃないかって思ってて」


「はい」


「ほら、地縛霊ってあるじゃないですか。あれって、自分が死んだことを受け入れられなくて、死んだ時にいた土地や建物などから離れられずにいるって言われてるんですけど。それだけじゃなくて、物体に取り憑くこともあるのかな?って。彼女も、物に取り憑くタイプの地縛霊になってしまったんじゃないでしょうか。なので、絵が運びだされたら、彼女も一緒についていってしまって……とか。まぁ、あくまで想像ですが。」


「なるほど、面白いですね。」


「そうなんですよ。……あ、タクシーが到着した?はい、はい、それでは、そろそろ失礼します。ホームページにアップする際はご一報いただければ、こちらのSNSでもシェアしますので。よろしくお願いします。ではでは……」


「あ、駐車場までお送りしますよ。どうぞこちらに……」


――――――――――

以上


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