【配信】その日僕は勇者になった【なぜ?】
@spa3
001 その日僕は勇者になった
スマホのアラームの音に目を覚ますと、
何度も鳴っては止まるアラームをほとんど無意識で数えて、
ほとんど寝たままの脳みそが覚醒したのは、リモコンの電源をつけたそのまま。どこかのチャンネルの朝のニュースを聞きながら、牛乳に浸かったコーンフレークをゆっくりともぐもぐ三口食べて、時間が経って噛む感触が柔らかくなり始めた頃だった。
何回かそのまま口に運ぶと、その違和感に内容が頭に入ってこないテレビの音をそのままに。テーブルの上にスプーンを置くと冷静になって一瞬考えて、すぐに考える無意味さに気付いて空きっ腹を埋めるように牛乳を
「ああ、俺勇者になったんだ。」
聞きようによってはとち狂った事をぼやきながら、何度も頭の中で
その日、僕は勇者になった。
§
「また明日、
放課後のHRも終わり、まごまごと鞄に教科書を詰めていると話しかけてくる耳にこそばゆい甘い声に顔を向ける。
「また明日、
見れば思っていたよりも近くに居た綺麗な顔の、いつまでも慣れないその魅了されてしまいそうになる笑顔に何でも無いようなふりをして、返事を返す。
「ええ。」
と、一言残して去っていく姿に後ろ髪を引かれながらも冷静になって、鞄を手に教室を後にする。
巨大な敷地が故の長すぎる外廊下を歩き、地下へと一度下って登って、別校舎の端から端へと若干疲れながらも歩き、職員室の前につくと鞄の中からクリアファイルに挟んだ書類を取り出すとノックをして中へと入る。
「すみま「あれ、どうしたの
学生証を開いて来る途中に何度も復唱していた定型文を話す前に、目的の担任の先生は入口近くのドリンクサーバーからマイカップに入れたのだろう湯気の立つコーヒーの入ったそれを手に、もう片方の手でスマホを操作しながらそこに居た。
「…小林先生です。」
「私?」
さっき会ったのだから言えばよかったのにと言わんばかりの意外そうな顔に言葉を返す。
「HR終わりに言おうとしたら、先生慌てて行っちゃったんで。」
「…あーごめんごめん、ちょっと急ぎの用があってね。」
あははと笑いながら、コンサートか何かのチケット購入画面が見えていたスマホの画面を消してスーツのジャケットに入れる姿を半目に、手に持っていた紙を差し出す。
「これを、提出したいんですが。」
「ん、宿題?」
大事に両手の指で挟んだ『ジョブ登録届』と書かれた、四月から大事にしまっていた為に
「おーおめでとう、ついに矢加茂君もジョブ頂いたんだね。これでついにうちのクラス全員ジョブ持ちだよ。」
とそこまで祝福するように言ったかと思うと、案の定というか肝心の記入内容を見て黙り込み、分かりやすく疑問符のついた言葉を出す。
「…勇者?」
「はい、勇者です。」
「何の…?」
「俺が聞きたいです。」
「ちょっと、こっち来てくれる。」
連れられるまま近くの仕切りで分けられた応接用の机で向かい合う椅子に座る。
「若く見えるかもしれないけど、これでも数年教師をやってるけど勇者なんてジョブは聞いたことないわ。」
「先生も知らないんですね。」
前半に触れる野暮はせずにそう聞くと、うーんと考えこむように手に持った紙を何度目かに見直す。
「勇者か、勇者かぁ。…多分体育科系のものだよね?」
「そうだと思います。」
スマホを取り出して検索をかけるもヒットしなかったようで、こちらに直接問いかけてくる。
「その他に書いてないけど、因みに今使える魔法は私に教えられる?」
ジョブ以外の内容が何も書かれていない記入項を指差してそう質問する先生を前に、
見せないと話が始まらないだろうかとすぐに「はい」と返事を返して、自分の頭の中に唯一浮かぶ力を行使するために無言のまま胸ポケットに入れていたボールペンを強く握って、力を込める。
すると、
「こんな感じに、力を込めると光ります。」
「おぉ…。」
まだ明るい中でも見ていればどこか神聖さも感じるその光に一瞬引き込まれるように魅入られた先生だったが、それ以上に何も起きないボールペンを見て焦れて聞いてくる。
「…それで、これでどうなるの?」
「さぁ?」
そう答えると、「え?」とでも言わんばかりにこちらを見る先生に真顔で返す。
こちらが聞きたい。
勇者ってなんだろう。
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