第4話 魔女の称号

「ようこそ冒険者ギルドへ! 今回は如何なされましたか?」


「この盗賊たちを捕まえたので、そちらで引き取ってもらえないかなと思いまして⋯⋯」


盗賊たちを圧倒したルナエは一度王都に戻り、まだ人のいない朝の冒険者ギルドを訪れていた。


「風圧拘束までありがとうございます、ではこちらにどうぞ」


そう言われ、ルナエが連れていかれたのは冒険者ギルドの裏側だった。そこには地下へ繋がる階段があり、階段を降りていくと人のいびきが聞こえてきた。


「ここって⋯⋯」


「お察しの通り、留置所です。冒険者ギルドへ盗賊や悪事を働く者を連れてきた場合、一度留置所で身柄を確保し、国と連携して事実確認を取らせてもらった上で、釈放か罪が償われるまで国に管理されるかが決まる規則になっておりますので」


冒険者ギルドも昔と違って進化してるわねー! かなり厳重じゃない!


「ここです、どうぞこちらにその物たちを」

「分かりました」


受付の人⋯⋯悪人慣れしてて怖いわね。でもそれを見るに王都でも野蛮な人は多いみたいね、用心しなきゃだわ。


「それでは、留置所の者が起きる前に戻りましょうか──」


留置所を出て受付に戻ったルナエは冒険者カードを手に、手続きをしていた。


「盗賊十三人、確かにお預かりしました。では冒険者カードを拝見いたします」

「はい、どうぞ」


「⋯⋯こちらの冒険者カード、三十年前ほどに有効期限が切れてますね」

「あっ! そうだったわね、有効期限の事すっかり忘れてたわ」


「更新しときますねー!」

「お願いします」


それにしても人来ないわね、朝は新しい依頼が張り出されるから昔は争奪戦になってたって言うのに。本格始動は昼からなのかしら。


「確認できました、ウィクシナーさんでよろしいでしょか?」


あっ、これも三十年前から変えてなかったわね。


「いえ、ルナエ・アングレーでお願いします」

「冒険者カードの登録名変更はこれから五年間行えませんが、お間違えないでしょうか?」


「ええ、大丈夫です」

「ではこちらの鏡にご自身の顔を映してください」


鏡を手渡されたルナエは鏡に顔を映すと、鏡が真っ白い光に数秒間覆われ、少しすると光は収まっていった。


「ありがとうございます、ではお手持ちの鏡をご確認ください、あなたのステータスが記載されていると思います、お間違えないでしょうか」


「はい、大丈夫です」

「ではお預かりしていた冒険者カードをお返しします。そして報酬の件ですが、盗賊と確認が取れ次第、どこの冒険者ギルドでも報酬を受け取れるよう手配しておきますので、予めご了承ください」


なるほど、こういうシステムなのね、今の冒険者ギルドは⋯⋯なかなかいい所になったじゃない。


「以上で手続きは終了です、ありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました」


それにしてもあの子の処理魔法凄かったわ、風魔法と同時に使って昔の資料から私の履歴がないか漁ってくれてたわ。国から派遣された人っていうのは優秀ね。


そんなことを思いながらルナエは冒険者ギルドを後にし、ミーシャとカイルベルトが待っている馬車へ急いだ。



「お待たせー!」

「おかえりー」


「あっ、おかえりー」

「それじゃあこの話はまた後で。行きますよ!」


ミーシャに旅の話をしていた御者は話を止め、素早く馬車を走らせた。


「ミーシャ、さっき御者さんと何を話してたの?」


「御者さんが体験してきた旅の話! 妖精が治めている国があったり、とある湖で人魚を見たって話もあったよ!」


楽しそうに話すミーシャを前に、お父さんとお母さん、そして御者台の連絡窓から見える御者さんまでもが盗賊のことを一時的に忘れ、笑顔になっていった。


「それで、お目当ての十二時の魔女に関する話はあったの?」


「聞いてみたんだけど、あれはおとぎ話で作られた話だってさ、でももし本当に十二時の魔女が存在していたならまだ生きてるかもしれないって」


「あらそうなの? おとぎ話になるくらい昔の話なら、魔女たちはとっくに亡くなっているんじゃないの?」


確かに⋯⋯人間の寿命的に二百年や三百年も生きられないし。おとぎ話ならそれぐらい経っていてもおかしくはない、それよりもっと前ってことも有り得る。


「それがですね、魔女の称号を与えられた者たちは人の最大魔力量を大幅に超えていて、その多すぎる魔力によって体の衰えが遅くなり、寿命が少し伸びると言われている。だから物凄い量の魔力を持っていると言われている十二時の魔女たちは、容姿はそのまま、歳だけをとって生きているんじゃないかっていうのが説として最近出てきたんですよ」


「夢あるなー」

「本当なら会ってみたいわね」

「こういうことがあるから旅はするものなんだよ」


ミーシャがそう言うと御者さんは、いいことを教えてやろうと言わんばかりの顔をして問いかけてきた。


「なんだい旅に出るのかい?」

「それがずっと夢だったからね」


「なら耳寄りな情報を一つ、これから向かう領都ルインを出て、少し南へ行った所ある町には凄腕の魔法使いがいるって話だ。それとその町には時折、何処からともなく妖精が現れて甘い食べ物を買っていくそうだ」


うわ⋯⋯旅に出たらまずそこ行こ、そんなの聞かされたら妖精は見逃せないでしょ。あと凄腕の魔法使いもちょっと気になるし。


「それで御者さん、その町の名前は何?」

「古き妖精の町、通称フェアリーステイルだ──おっと、領都ルインが見えてきましたよ」





ミーシャたちが馬車を再度動かしてから五分後、少し血が滴った地面を見ている怪しい影が一人。


「あいつらは捕まってしまったみたい」

「ならもういい、引け」


「あと強力な魔法の痕跡がある」

「どんな魔法だ?」

砂の檻グリトリーゼ砂の槍グリトランス


「それだけ強力な魔法を扱えるのに隠蔽が下手とはな、簡単に足取りが掴めそうじゃないか」

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