第2話 【映画評】水俣曼荼羅(2021.11.29記)
【水俣は国のまほろば】
1.作品データ
監督;原一男
製作;小林佐智子、原一男他
公開;2021年
上映時間;372分
製作国;日本
2.兎平亀作の意見です
水俣って、どういう所なんだろうと、ずっと思っていた。
コマ切れに編集された報道番組では食い足りない。かと言って、活字情報は想像力をかき立てて、欲求不満を募らせるばかりだ。
この映画は、尺はたっぷり取ってある。姑息な編集は必要ないほどだ。ゆったりした作りなのだ。
だから、本作からは水俣の風を感じることができる。水俣の汐の香りが漂って来る。水俣の魚が、銀色のウロコを輝かせて跳ね回っている。
そういう水俣の地に生まれ育った人々の体を、近代化学工業の毒が冒した。
誰の目にも明らかな被害が生じた一方で、目には見えない障害を被った人々もいた。
不可視の脅威は酸のように人の心を溶かす。恐れは偏見と差別の母だ。分断と排斥の父だ。
かくて水俣は、水俣病について公然と口にするのが憚られる町になってしまった。
なお、水俣病裁判の争点の一つに、国が定めた水俣病患者認定基準の当否がある。線引きが厳格過ぎて、ある時期以後は申請者のほとんどがふるい落とされるようになったのだ。この運用は、水俣病患者に対する偏見と差別に「お墨付き」を与える結果になった。
未認定患者の川上敏行さん(2020年、96歳でご逝去)は、40年近い歳月と、1千万円を超える受取補償金の全てを注ぎ込んで、たった一人の裁判を戦い抜いた。その風貌は、私の目にはクリント・イーストウッドそっくりに見えた。
金輪際、得にはならない裁判だ。愛する人を守るためでもない。
川上さんはきっと、プライドのために戦っているんだろう。歌の文句にある通りに。
(引用、はじめ)
頑なまでの 一筋の道
愚か者だと 笑いますか
気まじめ過ぎた まっすぐな愛
不器用者と 笑いますか
堀内孝雄「愛しき日々」
(引用、おわり)
いや、笑わない。節操を尊び、進退に潔い日本人にふさわしい、堂々たる人生だと思います。
この映画に出て来るのは、こんなアッパレな人たちばかりではない。
水俣病研究者の浴野成生教授および二宮 正医師は、とってもアクのお強い凸凹コンビで、人によって好き嫌いがハッキリ分かれそうなタイプである。
この映画、このブルース・ブラザーズを、何だか妙にフィーチャーするなあと思っていたら、ある公式の場で、エルウッド、いや二宮大先生が、とんでもない醜態を曝してしまう。ネタばらしになるから、詳細は伏せておくが、私は大爆笑してしまった。
いやはや、奥崎謙三と言い、井上光晴と言い、原一男監督は「へんなおじさん」が良く良くお好きとお見受けした。
そうだ。コロナが収まったら、私は水俣に旅しよう。あの海と山を見るだけでも、足を運ぶ価値はある。
私のパワースポットだ。
水俣は国のまほろば。水俣しうるわし。
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