私たちの世界の神様探してるんですけど、どこにいるかご存知ですか?

野々宮 可憐

旅のスタート『タスート編』

第1話 出会い

多くの本が乱雑に散らばる室内で、月明かりに照らされながら本を読む少女は呟いた。


「この模様を見つければ、もしかしたら…」




とある世界には多くの民族が存在していた。


その民族たちは、各々の集落を作り、時に争い、時に共存し、生きていた。


そんな世界、ニューリアにキヤメは存在し続けていた。


「残念だけど、その腕と目じゃお客さんが気味悪がっちまうよ。他を当たってくれ。」 


「やっぱそうですよねー。ありがとうございましたっ。」


キヤメはパン屋の店主に礼を告げて、店をでた。


「また職探しかー。」


巾着袋を取り出し、中の銅貨の枚数を数えた。


「せめて長袖が買えれば…。というか今日の飯すら買えない…。」


ぶつぶつと呟き、巾着袋をしまい青空を眺める。


「そこのお兄ちゃん!寄ってかない?安くするよ!」


怪しげな店の女性店員に話しかけられたが、黒い腕を横にひらひらと振りながら賑やかな街を歩き出した。



ここ、タスートは数多くの民族が集まる商業の都であり、この世界を創造した神と密接な関係であった人の子孫が現在貴族として暮らす土地だった。


多くの民族が暮らすこの地ならば、多少奇抜な身体を持っていても問題ないだろう、とキヤメは考えたが、問題はあった。


「その腕と左目!何かの呪いにでもかかってるんじゃないの?」


「腕だけならまだしも、その模様の入った目は理由がつかない。人手が足りてないわけじゃないし、他を当たってくれ。」


「多くの民を見てきたつもりだけど、あなたのような人は見たことがないわ。見世物小屋の仕事なら紹介するわよ。」



「はああああ…。」


キヤメはベンチに座り込み、深くため息をついた。今後のことを考えながら、雑踏をぼんやり眺める。


「あの、もし、」


少女の誰かに話しかける声が聞こえた。キヤメに向けてではないと判断したため無視する。


「もしもし!お兄さん!!」


「黒い腕の人!」


自分が呼ばれていることに気づいたキヤメははっとして隣を見た。


「気づいてくださいましたね。こんにちは!」


絹のように白いさらさらな長髪を揺らす少女がキヤメの隣に座っている。


「こ、こんにちは?」


キヤメは戸惑いつつ挨拶をした。


「ちょっと失礼、あなたの目を見せてくださいね。」


少女がずいっと近づく。キヤメは跳ぶように避けた。


「ちょっと!なんで避けるんですか!少し見せてくれたっていいでしょう!?」


「よくあるもんか!!」


キヤメは叫ぶ。ざわざわとどよめく音が聞こえる。大声でやり取りをしたせいで、周りの人々の耳目を集めてしまったようだった。


「うわ、もー!お兄さんこっち来てください!」


少女はキヤメの黒い腕を掴むと、民衆を掻き分け走り出した。キヤメはされるがまま少女に引っ張られ続けた。

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