第34話 白の天使と写真

「はい、チーズ」


 午前中の当番が終わった雪はメイド衣装を脱ぐ前に廊下に出て瑠奈と写真を撮っていた。


「ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ」

「写真は後で送っておきます。八雲先輩は、白井先輩とのツーショットはいいんですか? 私、撮りますけど」


 遠くから見ている瑠奈に手招きされ、雪と写真を撮らなくてもいいのかと聞かれた。俺は大丈夫だと言おうとしたが、雪が先に口を開いた。


「晴斗くん、一緒にどうですか?」

「俺と?」

「はい」

「……瑠奈さん、お願いします」


 スマホを瑠奈に手渡すと彼女はニヤニヤしながらそれを受け取った。


「いいですよ。では、先輩方、撮りますので横に並んでください」


 撮るのは瑠奈に任せ、俺と雪は横に並ぶ。だが、お互い距離を気にしているため間が空いて仲が悪そうな感じに。

 

「白井先輩、もう少し八雲先輩の方に寄れます? 思いきって肩が触れあうぐらいまでいきましょ」

「は、はいっ」 


 雪は瑠奈に言われた通り、少しずつ俺の方に寄り、そして肩が触れあうぐらいにまで近づいた。


 ふわっとしたいい匂いがして、メイド衣装を着た雪がいるだけでドキドキしていたが、心拍数が上がった気がする。


「晴斗くん、ポーズはどうされますか?」

「ポーズ……シンプルにピースでいいんじゃないかな。何かやりたいポーズある?」

「いえ、ないのでピースでいきましょう」


 ポーズが決まると瑠奈は「いきますよ」と声掛けし、そして何枚か撮ってくれた。撮ったので瑠奈からスマホを返してもらうと思いきや彼女は持ったまま変なことを提案してきた。


「後、抱きついた写真も必要ですね。白井先輩、ぎゅーしちゃいましょ」

「ぎゅーですか、わかりました」

「わからなくていいよ!」


 瑠奈に言われたことをすぐに実行しようとするので俺は思わず雪の言葉に突っ込みをいれた。


「ここ私達しかいませんし、あまり人通りませんからやっても大丈夫ですよ」

「気にしてるのはそこじゃない。はい、スマホ返した」

「む~」


 瑠奈の手からスマホをスッと奪い取り、ポケットへと入れる。瑠奈がムスッとした表情でいる中、雪が俺の肩をトントンと叩いた。


「晴斗くん、後で写真送ってくれませんか?」

「あぁ、うん。送っておくよ」

「瑠奈さんも晴斗くんと撮りますか?」

「私はいいです。ですが、3人で撮りませんか?」

「いいですね、撮りましょう」


 俺は何も言っていないが、3人で撮ることになり、撮り終えると瑠奈は俺と雪に写真を送ってくれた。


「では、私はここで。先輩、午前中、一緒に回ってくださりありがとうございます」

「うん、こちらこそありがと」


 瑠奈はペコリと一礼するとクルッと背を向けてどこかへと行ってしまった。2人きりになると雪は自分の着ているものを見てから口を開いた。


「私も行きますね。着替えなければいけないので」

「あぁ、うん」


 着替えて、その後はお互い別々に昼食を食べてからまた集合するのだろうと考えていると雪は俺の服の袖をぎゅっと掴んだ。


「……あの、着替え終わるまで待っててくれますか? 今日も一緒にお昼を食べたいです」

「うん、わかった。約束してるから亮も一緒にいい?」

「はい、もちろんです」

「じゃあ、俺はここで待ってるよ」

「はい。素早く着替えてきます」


 雪はそう言って嬉しそうに更衣室へと走っていった。


 そんなに急がなくてもいいんだけどなぁと思いながら彼女の背中が見えなくなるまで見ていた。


 数分後。雪は2人分のお弁当を持って帰ってきた。


「お待たせしました。どうぞ、晴斗くんのお弁当です」

「ありがと」


 雪からお弁当を受け取ると2人で学食へ向かう。学食へ着くと亮は先に来ていた。


「よっ」

「よっ、晴斗。白井さん、こんにちは」

「こんにちは高宮くん。ご一緒させてもらっていいですか?」

「もちろんいいよ」


 3人で食べることになり、亮の向かい側に座ると雪は俺の隣に座った。


 雪が作ってきてくれたお弁当の蓋を開けると目の前に座る亮は不思議そうにこちらを見ていた。


「あれ、晴斗。お弁当箱変えた?」

「えっ……あっ……うん」


 雪から作ってもらった、なんて言ってしまったらニヤニヤされそうなので嘘をついたが、その嘘は秒でバレた。


「あっ、なるほど。白井さんに作ってもらったのか」

「! なんで」

「いや、だって、白井さんと晴斗のお弁当に入ってるもの一緒だし」

「あっ……」


 なぜこうなることを予測できなかったんだろう。わざわざ雪が俺と違う具をお弁当に入れるはずがないのに。


「まっ、食べようよ。で、食べた後自販機にアイス買いに行こうぜ」


 亮は、特にお弁当のことには触れずアイスの話をし始めた。


「いいな。白井さんはどう?」

「私も食べ終えたら買いに行きます」

「じゃあ、みんなで行くか」


 



***




 雪が作ってくれたお弁当はやはり美味しかった。これから学校のある日は毎日食べれると思うと幸せだなと思う。


 昼食を食べ終え、3人でアイスを食べた後は、文化祭午後の部が始まり、亮とは別れて、俺と雪は出し物を回ることにした。


「雪は行きたいところある?」

「そうですね。晴斗くんのクラスがやっているお化け屋敷は行きたいですね」


 行きたいということは雪は怖いのが嫌いというわけではないのだろう。苦手な人が自分から行きたいとはあまり言わないだろうし。


「じゃあ、お化け屋敷行こっか」

「はい、行きましょう」


 行き先が決まり、お化け屋敷へ行くとメイド喫茶よりは人が並んでいなかったが、思ったより今日もお客さんが来ていた。


「雪は怖いの大丈夫な方?」


 念のため入るために確認しておこうと思い、彼女に聞くことにした。瑠奈のように強がって大丈夫だと言う人もいるので。


「大丈夫ですよ。驚かされたら驚きますけど、ホラー映画とか見るのは好きです」

「へぇ、意外かも」

「ふふっ、晴斗くん以外には言ったことないので、極秘情報ですよ」

「ご、極秘……」


 口元に人差し指を当てて微笑む彼女にドキッとし、俺だけにしか教えたことがないという発言を聞き、夏休みのときに言われた特別という言葉を思い出した。


(特別って具体的に何だろう……)


 特別の意味を考えていると背後から人の気配がした。


「2人ともいらっしゃ~い」

「「!」」


 いつもより声を低くして、怖い雰囲気で後ろから近づいてきた未玖に俺も雪も驚いた。そしてその瞬間、雪は俺に抱きついてきた。


「雪、大丈夫か?」

「だ、大丈夫です……驚いただけなので」

「それなら良かった。未玖、背後から驚かさないでくれよ」

「ごめんごめん。2人がそこまで驚くとは思ってなかったからさ」


 未玖は両手を合わせて謝る。それに俺はいいよと許すと言い、雪はいつまでこうしているんだろうと疑問が浮かんだ。


 真っ正面から抱きつかれ、柔らかいものが当たっ……いや、気にしすぎるとダメだ。良くない。


「雪……さん?」

「! あっ、すみません、急に抱きついて」


 名前を呼ぶと雪はハッとして慌てて俺から離れた。その時の彼女の顔は真っ赤だった。





        

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