第28話 白の天使は時々小悪魔

 今日は1日中外にいた。帰ってきたのは夕方頃でそこから未玖と雪が夕食を作ってくれた。


「先輩、本当にいいんですか? 私、手伝いますよ」

「大丈夫だよ、瑠奈ちゃん。先輩に任せて」

「……ありがとうございます」


 手伝った方がいい気がして瑠奈はキッチンへ行くが、未玖に大丈夫だからみんなと待っててと言われてリビングへ戻る。


「るーちゃん、みんなと質問で会話が弾むゲームやろうよ」

「……何それ?」


 聞いたことのないゲーム名に瑠奈は気になったのか早見さんの元へ行く。


 何それと言っていたので隣でカードを人数分に分けていた俺は彼女に教える。


「そのまんまだよ。カードに質問があるから渡された質問に答える」

「なるほど、楽しそうですね」


 夕食ができるまで俺たちはゲームをし、出来上がった時だけは運ぶのを手伝いに行った。


 皆、好きな量を取り、美味しそうに食べている中、亮はふと思ったことを呟く。


「そう言えば夜に花火するって言ってたけど、誰が買ったんだ?」


「「…………」」


 亮の言葉におそらく皆、誰かが買っているんじゃないかと思っていた。だが、シーンと静まり返り、買ってあるよとは誰も言わない。つまり誰も買っていないのだ。


「未玖先輩が買ってるのかと思ってました」


 花火をやろうよと言っていた未玖にそう言ったのは瑠奈だ。未玖が買ったと思っていたのは瑠奈だけではなく俺もだ。


「私、買ってないよ。高宮くんが買ってるのかと思ってたから」

「俺、買ってないよ」

「えっ、そうなの? じゃあ、じゃんけんして2人ぐらいでこの後買いに行く?」

「そうしよ」


 亮に続けて皆、未玖の提案に賛成したのでじゃんけんして負けた2人が花火を買いに行くことになった。


 じゃんけんは強い方だと思っていたが負けたのは俺と雪だった。


(まぁ、雪とだし負けて良かったかも……?)


 夕食を食べて少しゆっくりした後、俺と雪は手持ち花火を買うために近くのコンビニに行くことにした。


「先輩方、そのまま帰ってこなくてもいいんですよ?」


 行く際に瑠奈からそう言われたが意味がわからない。俺達が帰ってこなければ花火ができないというのに。


「帰ってくるが?」

「なぜです? 白井先輩とイチャイチャできるチャンスなのに」

「しないから。雪、瑠奈の言うことは無視して行こっか」

「は、はい……行ってきますね、野々宮さん」


 よくわからないことを言う瑠奈は無視して俺達は家を出てコンビニへ向かう。


 コンビニへ行くと売っていた手持ち花火を2パック買い、レジへ行こうとしたが、雪がスイーツコーナーから離れない。


(もしかしてお腹空いたのかな……)


 彼女の背後に立ち、並ぶスイーツを見てから俺は彼女にある提案をした。


「みんなには内緒で何か買って食べようか」

「いいんですか!?」


 バッと後ろを振り返った雪は満面の笑みだった。予想通りどうやら本当にお腹が空いていたらしい。


「俺はプリンにしようかな。まとめて払うけど雪はどうする?」

「私は……このカスタードシュークリームにします!」

「わかった」


 花火とスイーツを買うと、店から出て海の近くにある階段の下で先ほど買ったものを食べることにした。


「シュークリームといえば雪、図書館で食べてたなぁ……」

「食べてませんよ」

「……あー、食べてなかったな」


 そうだ、俺は雪がシュークリームを食べていたところを見てないことになったんだっけ。


「ん~美味しいです。幸せ……」


 シュークリームを食べて幸せそうにする雪は、頬に手を当てていた。


 スイーツを食べるときの雪は本当に幸せそうだ。見ているこちらまで幸せな気持ちになり、そして癒される。


 買ったものを完食すると俺と雪は家に戻ることにした。


 帰りが遅くなると瑠奈に怪しまれるが、スイーツを食べるのにそこまで時間はかかってないし大丈夫だろう。


「手持ち花火なんて久しぶりかも」


「そうなんですね、私は初めてです。大きな花火は見たことがありますが」

「えっ、初めてなの?」


 そこまで驚くことではないが、そう尋ねると雪はコクりと頷く。


「初めてなので楽しみです。手持ち花火でもいろんな種類があるそうですね」


「そうだね、買ったやつにも何種類かあったし」


「……突然なのですが、晴斗くんの誕生日はいつですか?」

「ほんとに突然……」

「すみません。気になってたので」

「いいよ、教えるぐらい。誕生日は9月17日」


 誕生日を教えると雪は「覚えておきます」と呟いた。


「雪は?」

「私は12月3日です」

「冬か……覚えておくよ」


 生まれが冬だったから名前が雪なのかな……。偶然なのかもしれないけど。




***




 家に帰ってくるとすぐにまた外に出て海の近くで花火をすることになった。


 手持ち花火の種類は、ススキ花火、スパーク花火、線香花火の3種類。


「雪、これでどっちが火の玉が長く続くか勝負してみないか?」

「楽しそうですね。そちらはどういった花火ですか?」

「線香花火だよ。どんな感じかはやってみた方がいいかも。はい、雪の分」

「ありがとうございます」


 火をつけるとみんながいるところから少し離れ、俺と雪はそこで線香花火をすることにした。


「パチパチしてます。綺麗ですね」

「……そうだね」


 花火も綺麗だが、隣で花火を楽しんでいる雪が綺麗で見とれてしまった。じっと見ていると雪がこちらを見て目が合った。


「晴斗くん、お願いというか、わがままなんですが、来年もこうして一緒に夏を過ごしたいです」


「……俺でいいの?」


「はい。晴斗くんとこうして来年もまたここでゆっくりとした時間を過ごしたいです。ふ、二人っきりで良いのでしたらそれでも……皆さんを誘うのもありですし」


 そんなことを言われてしまったら勘違いしてしまいそうだ。雪は俺のことが気になっていると。


 そんなわけがない。『白の天使』は、友達として俺といたいと思っているんだ。


「そうだな……また来年もここに……って言っても受験生だから勉強会とかになるかも」

「ふふっ、そうですね。それでもいいです」


 1年後、俺と雪との関係がどうなっているかなんてわからない。けど、今と変わらずいられたら……。


「あっ、消えた……勝負は俺の負けだな」

「ふふっ、勝ちました」


 嬉しそうに喜ぶ雪にドキッとし、顔が赤くなっていくのを感じて立ち上がる。


「晴斗くん、勝ったので少しお願い聞いてもらえますか?」


 勝ったら何かあるというのは初耳だが、一応聞いてみる。


「お願い?」

「はい、お願いです。少しだけ目を閉じてもらえますか?」

「わ、わかった……」


 ま、まさかな……と思いながらも目を閉じると頬に柔らかい感触がした。目をゆっくりと開けるとそこには手を口元に当てて微笑む雪がいた。


「ふふっ」


(…………えっ、頬にキスされた?)


 しばらく何があったのか状況が読み込めずにいた俺を見て雪はニコッと笑うのだった。







        

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