人たらしな赤い星
聖家ヒロ
第一章 バーク、大地に立つ
第1話 ウワサの男は女の子
〈フォーチュナー〉軍の朝は早い。
そんな多忙な朝。燦々と輝く昇り始めの太陽に照らされた太平洋の大海原上空を、何か巨大な影が物凄いスピードで駆け抜けていた。
全長十メートル弱の人型兵器――〈ディノスドライバ〉。戦闘機のような飛行支援ユニット『アサルトウィング』を背負い、上空を駆る。
その機体は、秩序機構が保有する初期型の量産機――バークと呼ばれるものだった。
しかし、その屈強な戦士を彷彿とさせるフォルムは従来のものであるが、装甲色が無骨な灰色では無く、純粋な紅に染め上げられていた。
マゼンタのモノアイが、はるか遠くの何処か一点を見つめている。
「間に合うかなぁ……――あ、髪型ヘンじゃないかな?」
そのコックピットの中で、一人の女の子が自身の髪型を気にしていた。
まるで空のような色の、ストレートな長髪。同じ色の瞳は宝石のような輝きを孕んでいる。
純白の襟詰め軍服に身を包んだ、華奢ながらも筋肉質な体つきは、年相応の魅力を醸し出している。
「あ……!! あそこか……!!」
◇
調律機構 フォーチュナー
特別防衛隊基地 港
イルカのようなスタイリッシュな戦艦――『ドルフィヌス』の乗組員達は、入港した船の前にびしっと整列して、朝礼を行っていた。
純白の軍服に身を包む彼彼女らは、そこにいる誰もが〈ヘルメスプロセス〉と呼ばれる遺伝子解析による職業診断に導かれた者。
職業に対し不満は無いはずだが、朝は誰だって憂鬱なのだろう。
「えぇ……これにて朝礼は終了だが、追加で全員に連絡がある。
今日より我が『ドルフィヌス』に、新たなメンバーが加わることになった」
乗組員達の前に立つ艦長は、朝日の眩しさに思わず軍帽を深々と被りつつ、その場にいた全員にそう告げた。
整列する者たちが、途端にざわめき出す。
「……噂通りか」
「な、言ったろ? ”新入りが来る”ってな」
そんな中で、それを予想していたかのような会話を繰り広げる二人がいた。
涼し気な顔をするのは、艷やかな黒髪が特徴の美少年な日本人。なぜか調子に乗っているのは、金髪で筋肉質な米国人であった。
「名前は『ミハイル・バジーナ』。
階級は『大尉』で、役職はパイロットだ」
「……ちぇ、男かよ」
「よりにもよってパイロットか……」
二人はそれぞれの心情を吐露する。
周りも、『ミハイル』という名前からして男であることを推測して、勝手に失望しているのが見て分かった。
「……だが、見当たらない。遅刻かな」
艦長は肩を落としながら言った。
彼の言葉に、ハイドは何やら悪寒を覚えて、恐る恐る隣に一瞥を送る。
そこには、鬼のような形相で怒りに震えるルカの姿があった。美顔が般若のように変貌していた。
「遅刻だと……? 舐めているのか」
ハイドだけでなく、周りにいた誰もがその新入りを『気の毒に』と思った。
彼は筋金入りの大真面目で、曲がったことが大嫌い――遅刻などその最たる例だ。
今大急ぎで来ているであろう新入りに、巨大な雷が落っこちる事は火を見るよりも明らかであった。
「ご愁傷さま、だね」
ハイドの隣にいた中性的な顔立ちの兵士――サクラが、桃色に染めたボブカットを揺らしながら苦笑する。
「ホーリーシット……可哀想だぜ」
いくら男といえど、開幕ルカのような堅物に責められたら泣き言を漏らしてもおかしくない――下手すれば、トラウマになるかも。
そんな時だった。
何処かから、彼からすれば聞き覚えのある音が轟くのが聞こえた。
びゅーーん、というその音は間違いなく航空機か、もしくはそれに似た何かのものだった。
予想する間も与えられず、彼彼女らは激しい突風に全身を煽られる。
突風が止む頃、ルカが視線を上げた先に見た物は、巨大な真紅の巨人――突如飛来した一機の
彼のモノアイが彼らをぎょろ、と捉える。
「赤いバーク……?」
「結構な旧式だね」
兵士達を凝視していたモノアイはやがて消失し、真紅のバークは稼働を停止させる。
胸部のコックピットハッチから煙が吹き出て、中から一人の軍人が降りてきた。
ワイヤーを伝い足早に艦長の隣へとやってきた人物像を見て、そこにいた誰もが驚愕した。
「……紹介しよう、彼女が――」
艦長が口を開いた途端、美しい空色髪を持つ女の子は勢い良く敬礼を行った。
「遅れてしまい、申し訳ありません。
これより特別防衛隊所属艦『ドルフィヌス』の配属となりました『ミハイル・バジーナ』です!!」
彼女の明るく、弾むような軽快な声音がしんとした朝礼時の空気に響き渡った。
綺麗な空色髪と共に、右耳から垂れる、月の形を模したような高そうなピアスが揺れた。
ミハイルの額は、冷や汗が垂れるのを感じた。いくら向こうでの仕事が長引いたといえ、初日から遅刻は印象が最悪である。
「お、お気になさらず。とにかく、これにて朝礼は――」
艦長は何やら焦っている様子だった。
ミハイルが頭上に『?』を浮かべていると、ある一人の人物の接近に気がついた。
黒髪で美形な日本人の青年。
――何やら、とてつもなく怒っている様子だった。
察して訳を話そうとするも、あっという間に胸ぐらを掴まれて怒鳴られてしまう。
「初日から遅刻など、
至近距離で怒鳴りつけられ、ミハイルは思わず萎縮した。上官には見えないが、年上に怒鳴られるよりも幾分も怖かった。
「オーマイゴッド……」
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