ある春の日 4

 あさひくんと登校中、「そういや昨日うちで飯食ってったよ、勇太」って。やっぱりお昼にメロンパン1個じゃ足りなかったんだ。

 ご飯をがっついる姿を見たかなちゃん(あさひママ)が問いただした結果、雷が落ちたらしい。よく動いてよく食べる育ち盛りが菓子パン1個で済ますんじゃない、なんでわたしたちを頼らないのか、そのためにわたしたちがいるんでしょ、って。



「親から食費貰ってないの?」

「貰ってる」

「足りないの?」

「足りる」

「菓子パン1個じゃ腹の満たしにもなんないでしょ?朝も食べてないんじゃないの?」

「朝はちづから貰ったおにぎり食べた」

「勇太、自分でつくる気ないの?おにぎりくらいだったら簡単でしょ」

「つくるくらいだったらコンビニ行く」



 勇太くんは自分の部屋以外ではなるべく存在を消すようにしているらしくて、家にある食材や消耗品にも手をつけず、必要なものは毎月渡される生活費から買っているって言ってた。確か、中学生の頃に。

 何か手伝えることはないか、ママに言ったら買ってもらえるかもよ、と三人で聞いたら、大事おおごとにしたくないから言わないでほしい、何もしなくてもいいって。

 だからといって何もしないわたしたちじゃなく、各々が家から必要であるだろう消耗品をコソッと勇太くんに渡していた時期があった。「家で余ってたからあげる」とか理由つけて。まぁ、ママたちにはすぐバレて、みんなで説教くらったけど。

 わたしたちの親と勇太くんの親で何度か話し合いもあったらしいけど、いつの日かママから「もし、勇太が困っていたり悩んでいたり、お腹が空いていたり、お家に帰りたくないって言ったら、柚のお家やあさひのお家に連れてきてね」と言われたことがある。



「自分でメロンパン1個じゃ足りないって思わなかったの?」

「腹に入れば膨れるかなって」

「膨れなかったから、いまこんだけ食べてるんでしょうが。あさひも、勇太がこれだけで足りるわけないって思わなかったの?」

「え、なんで俺?」

「足りなそうにしてたら自分のご飯くらい分けてあげればいいでしょ」

「俺が足りなくなるじゃん」



 あさひくんから聞いた以外にも軽く一悶着あったみたいだけど、あとは適当に流しといたって。

 きっと言っても聞かないやつら、って諦めたんだろうな、かなちゃん。可哀想。

 結局、勇太くんのお弁当はかなちゃんがつくることにしたらしい。出世払いで。

 元々入学前にもそういう提案があったみたいだけど、勇太くんが自分でなんとかするって言っていたから様子を見てたらしい。その結果がこれなんだけど。



「まぁ、それならちーちゃんも安心だね」

「親がちづと連絡とってたけど、朝はちづ担当らしい」



 朝はちづ担当?どういうことだ?

 ちーちゃんと合流したときに、すぐに「朝はちーちゃんが担当ってどういうこと?」って聞いたら、「あ、聞いた?昨日、かなちゃんに勇太のお弁当つくった方がいいかなって連絡したら、お弁当はつくるから大丈夫だよって。でも絶対朝ごはん食べずにつくってもらったお弁当を早弁してまたお腹空かすことになるんじゃないかな~って思ったから、昨日みたいに朝ごはんにおにぎりつくってくることにした!」って。



「え、ちーちゃん大変じゃない?」

「ん~、べつに?純也も朝はおにぎりの方が食いつきがいいから、そのついでにつくるような感じ!まぁ、無償じゃないけど!代わりに買い物とか手伝ってもらう!お米とか油とか買うとき!あとスタバの新作出たら買ってもらう!」

「ちゃっかりしてんな」

「足りないくらいだよ」

「ま、まだ本人にはなんも言ってないけど。笑」



 かなちゃんもちーちゃんも一度決めたら終わりがくるまで何が何でもやり遂げる人だから、たとえ勇太くんが全力で拒否してもつくることはやめないし、渡し続けると思う。勇太くんもそんな(引かない)二人を知っているから諦めて受け取る、わたしはそう賭ける。

 そして相変わらずギリギリにやってくる勇太くんに呆れつつ、ちーちゃんがおにぎりを、あさひくんがお弁当を渡すと「あざます」と言って軽く一礼。

 ちーちゃんの「お礼は買い物の付き合い、スタバの新作って決まってるから」というついでの一言に鼻で笑う。「わたしもね!」と乗っかってみると「あ~たはなに係よ」と突っ込まれる。

 でも、あれ。勇太くんのこの返しの感じ、気分が良いときのやつだ。普段はあさひくんと同じく何を考えているか分からないけど、こういうときは分かりやすいくらい表情が明るくなる。本人に言ったらスンッとなるから何も言わないけど。


 学校に着くまで、わたしはなに係にしようか考えていたことを勇太くんは知らないであろう。あさひくんには「何考えてるか分かる気ぃする」と呆れられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る