Extra1:「その人もまたTS美少女」

「――そういえば、ヴォートさん――あっ、寿有亜さんって……」

「あぁ、こっちでは基本ヴォートで通してるが」

「じゃあ、ヴォートさんってその身体は現実と同じなんですか?」


 互いの協力を確かに確約し、決意を改めたところで。

 星宇宙がヴォートに向けてそんな、ふとした質問を向けたのはその次だ。


「うん?あぁ――この姿は、自分の現実の姿を反映したものだったが」


 その質問に、端的に答えるヴォート。彼に在ってはこのゲーム世界に飛ばされた時には、その姿は現実のものと同一であったとのこと。


「あぁ、もしかして君のほうは」


 その質問からその意図、含むところを察し。ヴォートは星宇宙に探る言葉を返す。


「うん、そう……アバター?いや自分が設定したものじゃないんだけど、転移したらこの姿に変わってて……俺の正体は、その……男なんだ……――」


 それに答え。星宇宙は少しバツが悪そうに、というか気恥ずかしそうにしながら本当の所を白状する。


「あぁ」


 しかしそれにヴォートが見せたのは、特に驚くでもない反応。


「すっごく萌えるよねーっ?星ちゃんマスター、中身はすっごくかっこいいのに、見た目はこんなに可愛いなんて反則級だよーっ♡」

「わぁっ」


 そんな所へ割って入り、そして星宇宙に抱き着いてきたのはモカ。それは見るに明らかな、自分の愛らしいマスターを知り合った者に向けて自慢するようなムーブ。


「も、モカ……」

「まさに世界一の可憐で可愛いマスターってカンジ?」


 戸惑う星宇宙をよそに、がっつり抱き着きベタベタしながらマスター自慢の台詞を紡ぐモカ。

 それを、淡々と少し生温い様子で見守るヴォートだが。

 その背後で、彼の相棒たるヨロズが少し「むっ」とした様子気配を見せたのはその時だ。


「しかし……なんか、ヴォートさんあんまり驚かないね?」


 それに気づかず、そして抱き着くモカをさておき。星宇宙は、あまり驚いた様子もしかし訝しむ様子も見せないヴォートに声を返す。


「ん?あぁ、それは」

「見せてやんなよ、寿有亜」


 それに答えを紡ぎかけたヴォートだが。その言葉を遮り、ヨロズが出張ってきてそんな促す言葉を割り入れて来た。


「ヨロズ?」

「そのほうが手っ取り早いし、その子も安心させられるんじゃない?」


 少し驚きつつ言葉を返すヴォートに、ヨロズはと言えば続けてそんな促す言葉を向ける。

 しかしそこには何か含みが、「何かを見せつけてやろう」と企むような気配が見えた。


「まぁ、構わんが――」


 それを少し訝しみつつも、しかしヨロズのそんな促しには賛同するヴォート。


「「?」」


 不思議に思う星宇宙とモカを前に、ヴォートはソファーより立ち上がって軽く立ち構える。

 そして手元手首や首元を、軽く動かして慣らすような仕草を見せたと思った瞬間。

 ――それは始まった。


「!」


 目を剥く星宇宙たち。

 その前で、ヴォートの身体の〝変化〟が始まった。


 ヴォートのその体躯の良い身体は、直後には色付きの眩い光に、演出のようなそれで包まれた。

 星宇宙等が投影できるウィンドウスクリーンの発光と、同系統の眩い光。それが成すベールがヴォートの身を隠し、しかしシルエットを浮かびあがらせる。

 そしてその内で見えるは、みるみる内にそのシルエットを変貌させていく、ヴォートの姿。


「――ふぅ」


 そして。

 その光のベールが収まり消え、そこに吐息を合わせて改めて現れた人の身体。


 ――それは、一人の美少女のものであった。


 正確には、美少女から美女の間といった年齢層の女子。

 端麗で、釣り気味の目元を持つ理知的そうな顔立ちがまず目を引き。その顔は、切り揃えながらも適度に遊ばせ飾った前髪の、長く美麗な黒髪に飾られている。

 女子としては気持ち高めのその身長体躯は、RP AFの行動作業服(フィールドジャケット)。しかしご丁寧にそのサイズは美少女にあったサイズへと変わり。

 そしてきっちりと着用された行動作業服で隠しきれない、ワガママなバストや、豊かな尻太腿周りが服越しに主張していた。


 そこにあったのは、そんな美麗な黒髪美少女。

 星宇宙の勝手な感想を言えば、「理知的なボクっ娘」キャラが似合いそうなビジュアル。


「ヴォート……さん?」

「あぁ」


 そして、驚きつつ尋ねた星宇宙に。黒髪美少女が返した返答によって、その正体は判明する。

 そう、その美少女の正体は性別を転じた――ヴォート、寿有亜自身であった。


「せ、性別を……?」

「あぁ、これは私も気づいたのはまったくの偶然だったんだが。性別を自在に変えられ様なんだ」


 引き続き驚く星宇宙等に、一方の黒髪美少女となったヴォートは、その通る美麗な声色でなんでもない事のように返す。


「私はコンソールコマンド機能の一部を、ゲーム側から簡易に操作できるようにするMODを入れていたから、それの影響で可能になった事かもしれない。憶測でしかないが」

「あー……」


 そしてその理由と思しき所をヴォートは推測がてらに述べ。星宇宙もその所から一応の納得の言葉を零す。


「まぁ、そういう事だ。君だけが変わっている訳では無いと思う、そこまで気に病むこともあるまい」


 そしてヴォートは、星宇宙が自分の性別変化を気にしている所を察して。そんなフォローの言葉を紡いで寄越した。


「しかし……」

「ふぉぉ……美少女……」


 それとして。

 目の前で性別を転じ、美少女になって見せたヴォートの。その容姿はかなり可憐なものであり、星宇宙とモカはそれぞれ思わず吐息を零してしまう。

 星宇宙の手元のコメントウィンドウも、星宇宙側の視聴者の驚きのコメントがポツポツ流れている。


「どう、見惚れるっしょ?」


 ヴォート自身はそれに無自覚な様子であったが。

 そんなヴォートの背後から飛んで来たのはヨロズの声だ。


「?」


 美少女に転じながらも、引き続き淡々とした立ち振る舞いのヴォートに。

 ヨロズは背後に立つとその体を密着させ。自身の顔を、顎をヴォートの肩に乗せて、ヴォートの腰回りに手を添えて飾る様に支える。


 それはまるで、ヨロズのマスターたるヴォートを見せつけ、自慢するような様相。


「ふふーんっ♡」


 そしてそんな様相と並行して。ヨロズの眼と表情は艶を含んだ様子で、はっきり言ってしまえばその気の強そうな顔を、しかしいやらしさ・下心丸出しのそれに染めて。

 ヴォートに視線を流して向けている。

 おまけにヴォートのその豊かな腰尻や太腿回りを支える手付きも、サワサワといやらしい。


 気の強そうでクールそうなヨロズは、しかしその実態はムッツリスケベ少女であった。


「どうよ?ウチの寿有亜、マジのガチにカワイクない?これこそ宇宙一っしょ?」


 そしてその顔を下心を引き続き見せつつも、不敵な色に変え。ヨロズは星宇宙とモカに向けてそんな言葉を向ける。


「むむっ」


 星宇宙にあってはヴォートの完璧美少女っぷりに異論は無かったが。

 その横でモカが、明らかに不服そうな声を零したのは直後だ。



「そうかナー?ヴォートさんも可愛いとは思うケド――やっぱり最強具合では星ちゃんが突き抜けてるっていうかー?」

「え?」


 そしてモカは、そんな張り合う様子マンマンの言葉で。再び星宇宙の身にギュッと抱き着いて、星宇宙の存在をアピールする。


「むっ、言うじゃんモカ……っ」

「ヨロズちゃんと言えども――これは負けられないねっ」


 そして互いの美少女(中身は男性)マスターを主張しながら。モカとヨロズは互いにバチバチを視線をぶつからせ火花を散らす。


「え、ちょ、何してんの二人とも……っ?」


 それに困惑の様子を見せる星宇宙。


「?」


 一方のヴォートは、二人が何を張り合っているのかイマイチピンと来ていない様子。


《嫁ならぬマスター自慢対決が始まってしまった……》

《うん、ごちそうさま》

《どっちもがんばぇー(棒)》


 そしてコメント欄には、視聴者の皆の呆れつつも生温く見守るコメントが流れていた。

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