Part16:「ベヒーモス・ダウン・プラン」

 星宇宙は開けたモール前の広場空間を、巨大なL-39を抱えながらも軽やかに飛ぶように駆ける。


「――ッ」


 その星宇宙の頭上や近くを、散発的に襲い来る銃火が掠めて行く。オータント・フォートと共に随伴歩兵の様相で現れたオータントの群れや、元から周囲にたむろしていたオータントからの攻撃だ。

 掠めるそれに、顔を顰める星宇宙。


「グぁッ!?」


 しかし次には、点在していたオータントの一体が打ち飛ばされるようにして崩れ。


「ギャッ!?」

「グォッ、機関銃ダぁッ!」


 オータント・フォートに随伴していたオータントの群れへ。重々しい銃撃音を伴い、苛烈で強力な銃火火線が横殴りに襲い始める。

 それを見て、そして続けて背後側方をチラと見る星宇宙。

 今に見え始まったそれらは、他でもないファースやモカからの援護射撃だ。


 ファースは彼女(彼)の装備であるレーザー・アサルトをもって、星宇宙の近辺に存在するオータントを排除しての、露払いによる援護を。


 モカはまたMOD武器であり、以前のダウンユニヴ戦でも用いたMG34を出現させて装備。

 遮蔽物に二脚を用いて据え、射撃音を唸らせての容赦の無い掃射の銃火を、オータントたちに横殴りに浴びせていた。


「頼もしいッ」


 二人のその姿を見て、星宇宙はその顔に少しの笑みを浮かべつつ零す。

 同時に駆け続け、モール前広場を駆け抜ける。

 その際、オータント・フォートの方向に向けてL-39を二発ほど撃ち放つ。オータント・フォートの注意をあくまで星宇宙へと向けさせるため。

 これよりの、策のためだ。


 星宇宙はその先の低いステップ階段を飛び降りて、道路を越えてその向こうの広大な駐車場へと出る。

 その広い空間を少し駆けて、その先にあった倒壊して倒れていたモールの看板を踏み飛び越えて、その向こうにカバーして身を隠した。


「っと」


 配置に付き、L-39を備え付けのスキッド(ソリ)を用いて据え置き構える星宇宙。

 モカとファースと別れてここまで来たのには訳があった。


「――よし、こっちに食いついた」


 構えたL-39の照準の向こうに、ノシノシとこちらに迫るオータント・フォートの巨体を見る星宇宙。

 狙い通り、オータント・フォートは先の星宇宙の牽制射撃に気を引かれて、こちらを優先する敵と定めたようだ。合わせて数体の随伴するオータントたちも見える。


 そのオータント・フォートの進行方向。そこにあるのは放置され錆びついた、モールの利用者のものだったであろう車の並び密集する光景。

 それこそ、星宇宙の狙いだ。


「そのまま……そのままこっちに来るんだ……ッ」


 照準を覗きながら、願う様に零す星宇宙。

 そしてその願いは届いたのか。オータント・フォートはモール前広場を抜け切り、駐車場区画へと踏み入り。

 そして並ぶ車の元へと足を踏み入れ、その内の一台をその巨大な脚でグシャリと踏みつぶした。


「――今ッ!」


 瞬間、星宇宙はL-39の引き金を引いた。

 切り撃ちを繰り返して多数発を撃ち放ち、向こうの並び密集する車に、狙いもそこそこに乱雑なそれで叩き込む。


 鉄を貫き叩く音がいくつも響き、そして一拍置いて並ぶ各車から上がったのは炎。

 車に残っていた燃料に引火したのだ。

 さらに直後には、上がった炎は加速的にボウッと大きさを増す。


 オータント・フォートは巨体化の突然変異の影響か、頭の周りが良く無く、ゆえに多少の事では臆さず恐れないが。

 それでも上がり自信を巻く炎には本能的な危機を覚え、戸惑う様子を見せる。

 そして随伴していたオータントたちは、車より上がった炎が。それが招く結果結末を予想し、慌て散ろうとする様子を見せる。

 しかし、すでに遅い。


 ――次には、一つの爆発が巻き起こり。

 そしていくつもの爆発が連鎖、巨大な爆発となってオータント・フォートたちを襲い巻き込んだ。


 密集する車の一台が、引火から爆発。それを発端に密集する車が軒並み連鎖爆発を起こしたのだ。

 入道雲のように上がった爆炎が、オータント・フォートと随伴していたオータントたちを軒並み覆い隠す。

 爆炎の熱が星宇宙までの届き、飛び散った車の破片が周囲へ飛来し落ちてカンカンと音を立てる。


「ッ……――!」


 それにその整った顔を顰め堪えつつ、爆風にウサ耳を揺らしながらも。

 星宇宙は目を見開き、爆炎を、その向こうを観測するべく照準を覗き続ける。


 程なくして爆炎は散って晴れる。

 その向こうに見れたのは、鉄片と成り果てた車の残骸。それに混じって転がり散らばる、随伴していたオータントたちの体の成れの果て。

 そして――オータント・フォートの立ち姿。


「ッぅ……!」


 未だ立つオータント・フォートのシルエットを、晴れた爆炎の向こうにまず確認し。「まだ倒れないのか」と脳裏に台詞を浮かべつつ、苦い顔を作る星宇宙。

 しかし。

 グラ――と。

 そのオータント・フォートの巨体が傾いたのはその直後。

 よくよく見れば、致命的なまでにその身を焼かれていたオータント・フォート。その巨体は、次には踏ん張る様子の一切も見せず、足元の車の残骸にグシャンと崩れ突っ伏し。

 そしてそれを最後に、動く事はなくなった。


「――……ッぁっ」


 爆炎を身に受け浴びたことによって、オータント・フォートは事切れていたのだ。

 一瞬ではあるが、まるで弁慶のようにその最期を立ち姿で留まった様子に。星宇宙は肝を冷やしたが。

 それも崩れ、オータント・フォートの確かな無力化を確認し。

 星宇宙は安堵し脱力。声を零しながら、構えていたL-39の銃床部に抱き着くように突っ伏した。


《――うぉぉ……》

《盛大に上がった……!》

《ゲーム世界で車は脅威よ……》


 その傍らで表示されるコメントウィンドウでは、視聴者からの感嘆のコメントが流れる。

 そう、星宇宙の動きの狙いはこれ。

 このTDWL5は今見た通りのこと。戦闘を伴うゲーム世界では車は大爆発する仕様であることが、お約束として多い。

 星宇宙はそれを利用しての、オータント・フォートの無力化を狙い。今に見事にそれは成功したのだ。


「ロケーションに助けられたよ……っ」


 モールに車の残された駐車場施設があることが幸いした。

コメントウィンドウを傍目見て、それに答えるようにその旨を言葉で零す星宇宙。


「さて、モカとファースさんの方へ戻らないとっ」


 そして気を取り直し、行動を再開しようとする星宇宙。

 散発的に向こうよりは銃声が聞こえる。モカとファースがまだ残敵を相手にしており、それの応援に向かわなければならない。


 ――ドッ、と。

 鈍い、しかし爆破のような衝撃音が響き届いたのはその瞬間であった。


「ッ!?」


 それは、今先にも聞いたオータント・フォートが出現した時の崩落音に同じ。

 そしてそれが聞こえ来た方向は、モカやファースの陣取り配置している方向から。


「――星ちゃんっ!新手だよォっ!!」


 そして向こうより。モカの透り響く声での、しかし彼女の普段の調子に反した切迫した色での、張り上げ伝える声が届いたのは直後瞬間であった。

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