Part4:「MODによる脅威、MODによる力」
二人の目に飛び込んで来たのは。ドラゴンのような巨大モンスターが、キャラバン隊を襲う光景だ。
「――は……はぁぁっ!?〝ダウンユニヴ・ディノサウルス〟っっッ!!?」
「だ、だねー……っ!?」
見えたそのモンスター自体については、星宇宙も知ってはいた。
モカも知識を有しているようで、それに困惑しつつも同意の言葉を返してくる。
ダウンユニヴ・ディノサウルス――それはこのTDWL5に登場する最強クラスのベヒモスモンスター。
本来なら主人公等のレベルのかなり上がった、ゲーム終盤に登場するはずの強敵。
二人が驚いた理由は、そんな最強クラスのモンスターが、こんな最序盤に登場している今の事実だ。
キャラバンを襲っているのは、本来であればせいぜい数十体の小型のモンスターの群れのはずなのだ。
そのはずと、まるで反する光景は二人が驚くには十分過ぎた。
《うっそマジで!?》
《なぜ!?》
コメント欄にもその事を知っての上であろう、驚くコメントが打たれ流れる。
「なんで……!?」
星宇宙もまた、その光景に目を奪われつつ驚愕と疑問の言葉を零す。
《星宇宙ちゃんさんコレ、‶DWA〟入れてない……!?》
しかしその直後、常時投影のコメントスクリーンにそんなコメントが打ち込まれて流れた。
「あっ……!!」
その問いかけに星宇宙は思い当たる所があり。
気づく色と同時に、一層のヤバイといった様相をその美少女顔に作った。
DWA――ダウン・ワールド・アジャストメント。TDWL5の全体難易度に調整を掛ける大型MOD。
星宇宙は自身のプレイの際に上記のMODを、モンスターの出現頻度範囲などを解禁する調整の上で導入していたのだ。
いや、実況プレイにおいてはバニラでプレイしようとは持っていたのだが。MODを無効にするのを忘れていたのだ。
《MODか!》
《DWAの高難易度設定ぽい?ヤバイじゃん……!》
視聴者も直後にその事を理解し。同時に今の状況からの難易度調整を推察して、危険を訴える。
《シャレにならん、一旦引いた方がいい!》
そしてさらに後退を訴えるコメントが流れる。
「ッー、だが……」
しかし星宇宙はそれに難を示す。
このキャラバン襲撃クエストを回避してもメインクエストの進行は可能だ。しかしそれは際序盤のこのクエストで得られる経験値や報酬を逃し、少なからずの痛手になる。
いや、それはいい。
今星宇宙が目を奪われているのは、向こうの光景だ。
ベヒモス級モンスターに襲われ、しかしそれに必死に抗い戦うNPCの人々。
それはこれまでの画面越しに見てきた光景と事なり、妙な鮮明さを、生々しさを感じさせた。
NPCと分かっていても、そんな襲われる人々を見捨てる事に、星宇宙は多分な抵抗を抱いてしまっていたのだ。
「星ちゃんマスターっ!キャラバンの人たちが!なんとかっ、なんとかならないかなっ!?」
横を見れば、モカもまたそれまでの天真爛漫な様子であった様相を変え。真剣な、そして悲痛な面持ちをその顔に作って、星宇宙に訴えてくる。
抱く思いは、モカも同じなのであろう。
「ッ――」
それを受け、考えを巡らせつつ。しかしそんな都合の良い手がそうそうある訳は無いと心の隅で思ってしまい。
星宇宙もまたその顔を多分に顰める。
「――ぁ」
しかし、直後に星宇宙は思いついた。
あるではないか。そんな――大変に都合の良いものが。
「星ちゃん?」
「待ってくれっ」
何かに気づく様子を見せた星宇宙に、モカは少し不思議に思い声を掛けるが。
星宇宙は片手間にそれに返しつつ、急き慌てる様子で自身の前に、一つのウィンドウスクリーンを投影させた。
それは、インベントリウィンドウ。
星宇宙たちの現在の所持品を記載表示する機能。
星宇宙はそれを急く動きでタップ、スクロールさせて。羅列されるアイテム名に視線を走らせて、その内よりあるものを探す。
「――やっぱり!あった!」
そしてその内からあるお目当ての一つの記述を見つけると。星宇宙は迷わずそれをタップ選択した。
直後瞬間――その星宇宙の腕中に、スっと静かにしかし突然に。
長大なある物体が現れた。
それは、銃火器――対戦車ライフルと分類される、大口径弾を用いる巨大な銃。
詳細にはそれは、フィンランドを製造国とする‶ラハティL-39対戦車銃〟と名称される対戦車ライフルをモデルとするもの。
そんな凶悪なまでの得物が、星宇宙の腕中に現れていたのだ。
TDWL5は科学と魔法の交錯する世界観設定のため、バニラ設定でも銃火器類の武器アイテムは多分に登場するが。しかしそのL-39にあっては本来はデータが存在せず、登場しない武器だ。
そのはずの武器の登場仕様を可能したそれこそ、またMODの力。
有志のプレイヤーによって作り出され、そして導入されたデータが。それを対戦車ライフルの武器アイテムとしてゲーム中に具現化、星宇宙の手に得物として出現したのだ。
《こっちにもMOD武器があったか!》
《すっごいの出て来た……!》
コメントスクリーンに、その得物を見ての反応コメントが流れる。
「――っと……うん、使えそうだっ!」
その今の美少女の体にあまりに不釣り合いな巨大な得物を、しかし星宇宙は両腕で下げる腰だめの形で構える。
本来であれば、その小柄な体では到底扱うことなどできないであろう対戦車ライフルだが。
そこはTDWL5のゲームシステムが助けた。
TDWL5はレベルや体格ステータスによる武器使用の制限が基本は無い。またMODによりそのリアリティを追求する事も可能だが、星宇宙はその辺りは好まないため制限を掛けてはいなかった事も幸いした。
「星ちゃんっ、それっ――!」
その巨大な得物を出現させて手にした星宇宙の姿に、そしてそれから予想できる星宇宙の意図に。横に立っていたモカは驚きの色を見せる。
「モカ、ここに居てッ!」
そのモカにしかし星宇宙は一言だけ告げると。
向こうに見えるキャラバンが襲われる光景を見――次に瞬間には、地面を踏み切り飛び出した――
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