バイオドール

プロローグ

バイオドール‥‥起動！

　時（とき）は今（いま）、数多（あまた）なる星々（ほしぼし）よりも彼方（かなた）‥‥異（い）世界（せかい）にて、悪（あく）の総帥（そうすい）ドワーリンが、野心（やしん）を昂（たかぶ）らせています。

　本来（ほんらい）、ドワーフ族（ぞく）は、秩序（ちつじょ）側（がわ）の種族（しゅぞく）でした。

　ところが、悪の総帥（男性（だんせい））は、ドワーフの長（おさ）でありながら、聖女（せいじょ）を屈服（くっぷく）させて、自（みずか）らが勇者（ゆうしゃ）となり、強欲（ごうよく）を極（きわ）めるつもりです。

　――具体（ぐたい）的（てき）には、聖女の処女（しょじょ）を奪（うば）うことで、勇者に覚醒（かくせい）する魂胆（こんたん）でした。

　そこで、悪の総帥は、聖女を別（べつ）の世界から、召喚（しょうかん）しようと企（たくら）んでいました。

＃西暦（せいれき）２０２４年（ねん）５月（がつ）１３日（にち）（月（げつ）、先負（せんぶ））朝（あさ）、東京（とうきょう）都（と）――

　１８才（さい）の都立（とりつ）高校（こうこう）３年生（せい）『本生（もとじょう）優人（ゆうと）』が、実姉（じっし）で東京大学（だいがく）１年生『本生奈央（なお）』（７月で１９才）と、家（いえ）から駅（えき）までの道（みち）を歩（ある）いています。

　優人が、奈央に話（はな）し掛（か）けます。

「姉（ねえ）さん、大学って、楽（たの）しいのか？」

「楽しいよりも、充実（じゅうじつ）する場所（ばしょ）だな」

「そっか」

　優人は、姉（あね）の答（こた）えに、素（そ）っ気（け）なく返事（へんじ）をしました。

　ちなみに、優人と奈央は、無（む）自覚（じかく）系（けい）の美男（びなん）美女（びじょ）『姉弟（きょうだい）』です。

　ところが‥‥突然（とつぜん）、奈央の身体（からだ）が、輝（かがや）きます。しかも、足元（あしもと）では、光（ひかり）の紋様（もんよう）『魔法（まほう）円（えん）』が展開（てんかい）されていました。

　奈央が驚（おどろ）き、声（こえ）を出（だ）します。

「なっ！」

「えっ？」

　優人も、気（き）付（づ）き、声を発（はっ）した時には‥‥奈央の姿（すがた）は、消（き）えていました。

　この時、本生奈央は、異世界からの魔法で、時空（じくう）転移（てんい）させられました。しかし、転移魔法は、失敗（しっぱい）に終（お）わります。彼女（かのじょ）の肉体（にくたい）は、時空の狭間（はざま）で、消滅（しょうめつ）しました。

　けれども、惑星（わくせい）クリアージュの衛星（えいせい）軌道（きどう）上（じょう）で、奈央が転生（てんせい）‥‥新（あら）たなる肉体に、生（う）まれ変（か）わります。

　やがて、彼女が、オナテック社（しゃ）の工業（こうぎょう）用（よう）『無人（むじん）衛星』で目（め）覚（ざ）めました。

　ところが、彼女は‥‥全裸（ぜんら）です。また、新たなる肉体は、豪華（ごうか）グラマラスで、金髪（きんぱつ）も美（うつく）しいのですが、両（りょう）腕（うで）と両脚（あし）がありません。

　しかも、新たなる肉体は、遺伝（いでん）子（し）生成（せいせい）ＡＩから造（つく）られた商品（しょうひん）です。しかしながら、その顔（かお）には、前世（ぜんせ）『本生奈央』の面影（おもかげ）があります。

　彼女は、アダルト玩具（がんぐ）『バイオドール』の製造（せいぞう）ラインで、自己（じこ）認識（にんしき）をしています。

（わたしは、男性の性欲（せいよく）を、生命（せいめい）の悦（よろこ）びに変えて、昇天（しょうてん）させる器具（きぐ）‥‥

　オナテック社のアダルト通販（つうはん）アイテム）

　元（もと）・本生奈央は、手足（てあし）（腕脚（わんきゃく））の無（な）い『大人（おとな）の玩具（おもちゃ）』に、生まれ果（は）てました。

　その上（うえ）、彼女は、ロジックと恍惚感（エクスタシー）に、束縛（そくばく）されています。

（論理（ロジック）よ、おまえは、愛（いと）おしい‥‥

　バイオドールの論理（ろんり）は、美しい‥‥

　わたしは、誰（だれ）かの幸福（こうふく）に貢献（こうけん）できる事（こと）を、誇（ほこ）りに思（おも）う！）

　呆（あき）れるほど、彼女は、ロジック（論理）好（ず）きで‥‥バイオドールの自律思考（インテリジェンス）の原則（げんそく）『持続的（サステナブル）倫理性（エシカル）に基（もと）づく商用（しょうよう）アイテム規格（きかく）』に、心酔（しんすい）していました。

　挙句（あげく）‥‥彼女は、自分（じぶん）の記憶（メモリー）内（ない）に、自身（じしん）の開発（かいはつ）アプリを発見（はっけん）します。

（ここを、こうすれば‥‥

　‥‥わたしのサービス能力（のうりょく）が向上（こうじょう）する。

　それと、わたしの魂（たましい）を、バイオドールに完全（かんぜん）適合（てきごう）させて‥‥

　それから、女性（じょせい）器官（きかん）も、強化（きょうか）して‥‥）

　もはや、元・本生奈央は、身（み）も心（こころ）もオナホ‥‥アダルト商品（しょうひん）でした。

　‥‥人間（にんげん）を、辞（や）めています！

（論理が、整（ととの）ったら‥‥後（あと）は、実戦（トライ）あるのみ！

　わたしの販売（はんばい）が、楽しみだ～♪）

　けれども、彼女は、法定（ほうてい）検査（けんさ）で、魂が検出（けんしゅつ）されて、出荷（しゅっか）を中止（ちゅうし）にされました。また、そのトラブル調査（ちょうさ）段階（だんかい）で、彼女の魂から、効能（こうのう）『聖女』が検出されています。

　しかも、彼女の記憶（きおく）から、時間（じかん）認識（にんしき）の混乱（こんらん）なども発見されます。そこで、記憶の補正（ほせい）処置（しょち）が行（おこな）われました。

　これにより、彼女の時間認識は、西暦から【聖暦（せいれき）】に変わっています。

＃聖暦２０２２年５月１３日（金（きん）、仏滅（ぶつめつ））夜（よる）、奈央の実弟（じってい）『本生優人』（１８才）の自宅（じたく）自室（じしつ）――

　いきなり、優人の目前（もくぜん）に、通話（つうわ）ウインドウが開（ひら）きます。

『貴方（あなた）の実姉に、名前（なまえ）を付（つ）けてください！』

「なんだ？」

『名前を、言（い）ってください‥‥』

「本生奈央」

『名前の候補（こうほ）を、三（みっ）つだけ言ってください！』

「だから、本生奈央、もとじょう、奈央、なお、ナオ！」

『名前は「オナ子（こ）さん」に、決定（けってい）しました』

「なんでだ！」

　優人の罵声（ばせい）と同時（どうじ）に、鶏卵（けいらん）サイズの『銀色（ぎんいろ）の玉子（たまご）』が出現（しゅつげん）しました。

　すると、今度（こんど）は、銀色の玉子から、確認（かくにん）ウインドウが表示（ひょうじ）されます。

『オナ子さんを、起動（きどう）しますか？』

「‥‥します」

　優人が答えると‥‥銀色の玉子は、実姉の面影がある『金髪美女』（もちろん人間サイズ）に変化（へんか）しました。

　金髪美女は、風俗（ふうぞく）バニーガール姿ですが、手足どころか『腕脚』が無いので、アダルト奉仕（ほうし）用のシリコン腕脚（機械（きかい）義肢（ぎし））を装着（そうちゃく）しています。

　アダルト衣装（いしょう）の『オナ子さん』が、恥（は）ずかしそうに、優人に語（かた）り掛（か）けます。

「ご主人（しゅじん）さま、一緒（いっしょ）に、お風呂（ふろ）にしますか？

　それとも、聖（せい）なる母乳（ぼにゅう）『アムリタ』を吸（す）って、精力（せいりょく）を回復（かいふく）させますか？」

　オナ子さんは、そう言うと、恥じらいながらバストを裸出（らしゅつ）して‥‥優人に、見（み）せ付けました。

　優人にとっては、凄（すさ）まじいまでの性的（せいてき）インパクトです。

　優人が、赤面（せきめん）して、固（かた）まっていると‥‥オナ子さんは、ベッドの上で全裸となり、自らのシリコン製（せい）『両脚』を取（と）り外（はず）します。

　さらに、同（おな）じくシリコンの『両腕』も、抜（ぬ）け落（おち）ちるように解除（かいじょ）されて、頭（とう）部（ぶ）と胴体（どうたい）だけの極限（きょくげん）裸体（らたい）『アダルト器具モード』になりました。

　もはや、オナ子さんは、シリコン製の両腕両脚すら無い『無（む）防備（ぼうび）ヌード』です。

　そのため、彼女は、極限裸体による性的不安（ふあん）で、怯（おび）えながらも質問（しつもん）します。

「わたしで、童貞（どうてい）を卒業（そつぎょう）‥‥もとい、性欲を解消（かいしょう）しますか？」

「大変（たいへん）だ‥‥父（とう）さんと、母（かあ）さんに、知（し）らせなきゃ！」

　優人は、慌（あわ）てふためいています。

　優人が、両親（りょうしん）を呼（よ）んで来（き）ても‥‥いまだ、オナ子さんは、極限裸体『アダルト器具モード』のままで、恥じらいや不安からの涙目（なみだめ）をしていました。

　それを、目撃（もくげき）した途端（とたん）‥‥実父（じっぷ）『真人（まさと）（３８才）』と実母（じつぼ）『香奈（かな）（３６才）』が、現実（げんじつ）逃避（とうひ）して呟（つぶや）きます。

「そろそろ、孫（まご）の顔が、見たかったんだ‥‥頑張（がんば）れよ！」

「欲求（よっきゅう）不満（ふまん）を、解消したら‥‥勉強（べんきょう）するのよ！」

　両親は、そう言って、逃（に）げるように立（た）ち去（さ）りました。

　優人は、両親に呆れながら、決意（けつい）します。

「姉さんの処女は、俺（おれ）が守（まも）る！

　けど‥‥姉さんって、処女だよね？」

「前世も、いまも、処女‥‥です」

　オナ子さんは、涙目のまま、恥じらい赤面して答えました。

　優人も、赤面したままですが、安心（あんしん）して『爽（さわ）やかな笑（え）み』を浮（う）かべます。

　優人は、やさしい眼（まな）差（ざ）しで、オナ子さんを見（み）詰（つ）めていました。

　ところが、セクシー裸体を見詰め過（す）ぎたのか‥‥優人の『やさしい表情（ひょうじょう）』が、トイレを我慢（がまん）している感（かん）じに、崩（くず）れさって行（ゆ）きます。

　結局（けっきょく）、数（すう）十分（じゅっぷん）後（ご）‥‥優人により、オナ子さんは、処女喪失（そうしつ）の『使用（しよう）済（ずみ）』にされて、銀色の玉子に戻（もど）りました。

　銀色の玉子には｛洗浄（せんじょう）中（ちゅう）｝との３Ｄ表示（ひょうじ）が浮かんでいます。一方（いっぽう）で、優人は、すっきり爽快（そうかい）な表情（ひょうじょう）をしていました。

　優人に、銀色の玉子からの確認（かくにん）メッセージです。

『現在（げんざい）、オナ子さんの妊娠（にんしん）確率（かくりつ）は、最（さい）小（ちょう）値（ち）です。

　オフにすることも出来（でき）ますが？』

「現状（げんじょう）維持（いじ）で‥‥」

　優人が、逞（たくま）しい全裸姿のままで、答えました。つまり、優人は、オナ子さんで子（こ）作（づく）りをして、性欲を解消したのです。

「勉強しなきゃ‥‥」

　優人は、あっさりと、現実逃避しました。

　尚（なお）、オナ子さんは、優人との遺伝的関係（かんけい）を、転生によって失（うしな）っています。

　一方、銀色の玉子の中（なか）では、オナ子さんが、恥じらい震（ふる）えていました。

（論理は、完璧（けんぺき）だった‥‥実践（じっせん）も、完了（かんりょう）した。

　だが‥‥死（し）ぬほど、恥ずかしい！）

　もはや、手（て）遅（おく）れで‥‥オナ子さんの『恥ずかしい宿命（しゅくめい）』が確定（かくてい）していました。

　ところで、本生優人は、オナ子さんの効能（こうのう）『聖女』により、勇者に覚醒（かくせい）して、自己啓発（けいはつ）能力『ステータス管理（かんり）システム』を獲得（かくとく）しました。