ドリーム名鑑 赤い機人と原子力教団

Dr.カワウソ

00. 奇襲

 大空を飛んでいる白い機体。


 その姿は美しく、現実世界の人間がそのフォルムを見た場合『白鷺しらさぎ』を連想させたかもしれない。


 機体の形状は人型。全長が8メートル程度で、全身のカラーリングは『白』。首から下、縦に青色の細いラインが入っている。


 頭部にだけは黒い部分があり、切れ長の眼と感じられるレンズと、閉じてはいるが、口のような線が横に入っていた。


 『白い機体』の左腕部分には、一目で武器とわかる筒形状のものが付いており、腰部分にも剣を納める鞘が装着されていた。


 なによりも、その美しさを強調させるのが、機体の背中に付いている羽のような飛行ユニット。


 大きく翼を広げたような形状からは、後方へ向かって、光のスジが遥か彼方にまで伸びていた。


 天空を飛び進むその機体の直下には陸地があり、それは前方の遥か先まで続いている。


 だが、向かって陸地がある、左側の風景は異なっていた。


 左側の陸地の先。途切れた向こう側に見えるのは、青く広がる『大海原おおうなばら』ではない。


 ――そこから先に続いているのは、ひたすら見渡せる『大空』だった。


 そして、左手の上空を見ると、その上空には、テニスコート程度の小さな島があり、それは「空に浮いて」いた。


 そう……ここは『ムーカイラムラーヴァリー』と呼ばれる天空世界なのだ。




 天空を突き進む人型の白い機体。その機体の中には一人の『機士きし』がいた。


 無精ひげが目立つ黒髪の中年男性。端正な顔立ちをしているが、くせ毛の上に髭があるせいか、見た目は大きく損なわれている。着ているものは、服というよりも『鎧』。西洋風で、皮作りの軽ヨロイと呼ばれる物を身に付けている。頭には何もかぶっておらず、素手で左右の操縦レバーを握っていた。


 機体の中からは、前後左右、上下全てがスケルトン状態で外の様子が見渡せる。


 操縦席の足元にはフットレバーがあり、右足で強く踏みつけていたが、その足先の周りだけがぼんやりと光っていた。


 カチッ。


 男が左手を伸ばして、操縦席前のコンソールのスイッチを上に上げると、機体の足裏からも光が伸び出る。


「敵の王都まではあと半分くらいか。ここからさらに速度を上げると……」


 男の声に合わせるように、機体の速度がさらに上がる。


「思っていたよりも、かなり出力がアップしているな。この『機人』と、この速度なら言われたように間に合うかもしれん......」


 男は、考え深い顔つきになる。


 それにしても、18歳のときに団に入ってからすでに20年……。平民出身の俺が団の副団長にまで出世して、まさか、こんな策を行うことになるとはな。


 間違いなくあいつがいなかったら......ここにはいなかっただろう。


 男は、前方に広がる大空を見ながら、昔のことを思い出す......。




 俺の育ったところは、国の端にある小さな村だった。


 100人程度しかいない村民。子供も少ないせいか遊ぶ相手もいない。


 けれども、俺が10歳のときに、山の中で一人の青年と出会った。


 小さい村だと、10歳ならば重要な働き手だ。しかも、俺は身体能力を向上させられる『オーラ』を使えたのでなにかと重宝される。その日も、村の収入源となる「虫」を山へ捕獲しにいく途中だった。


 しかし……自分の不注意で崖から落ちてしまう。


 気がついたときには、小屋の中に寝かされており、そばには助けてくれた青年がいた。


 その青年の年齢は、当時の俺よりもだいぶ年上で、長い黒髪。20代なかばくらいに見えたが、年齢を聞いても彼は教えてはくれなかった。


 彼は一人、山の中で生活をしていると俺に告げる。


 とは言え、山の中には危険な動物や「虫」もいる。最初聞いたときには、とても信じられはしなかった。


 ケガでなんとか動けるようになるまでの数日間。俺は彼、名は「クロー」に世話してもらった。


 一度、一人で小屋の外を歩いているとき「虫」に遭遇した。虫は当時の俺の背丈くらいで「それほど大きくはなかった」が、一人で戦うには危険すぎた。


 俺は逃げようとしたが間に合わない。虫が大きく口を広げて飛びかかってきた瞬間に俺は目をつぶる。そのとき、大きく地面を蹴る音が聞こえた。


 俺はうすく目を開けると、目の前の虫の頭を槍の矛先が貫いていた。


 それは、クローが常に持ち歩いている木製の槍だった……。


 虫は群れで、他にも数匹いたが、クローは素早い動きで簡単に仕留めてしまう。


 彼の持つ木製の槍はもろいはずだ。当時の俺が使っても虫の外殻は硬くて貫くことなどできはしない。だが、クローが持つ木製の槍は、虫を貫くときにだけ一瞬光り輝く。


 その光は強い『オーラ』の光……。その光を無駄なく制御している証だった。



 それ以来、俺は村に戻ってからも、仕事の合間合間にクローの住む小屋に通うことになる。


 その際、クローと約束したことは一つだけ。村の人間にはクローのことを秘密にしておくこと。


 「なぜ?」とクローに聞いたら「ここで静かに暮らしたい」との返答が返ってきた。


 俺は、もちろん彼との約束を守る。その代わりに俺はクローに武術を教えてもらった。『オーラ』の制御に関しては、彼にも教えるのが難しいみたいだったが、俺はそれでもクローのオーラを盗み見て、自分の感覚で訓練を行った。


 状況が変わったのは6年後。俺が16歳になったとき。なぜだかわからないが、クローのオーラが急激に減少した。


 それ以来、クローはだんだんと動けなくなっていく……。


 それから、彼が亡くなるまでの数か月。俺は様々なことを彼から聞いた。普通の人間なら、到底とうてい信じられる内容ではなかったが、俺は彼を信じた。


 この世界の人間は、亡くなると死体になるのがほとんどだが、ごくまれに光る宝玉に変化する。


 クローもその宝玉になった。

 

 俺は18歳になり『オーラ』の力も増えたが、その噂が付近の村から王都へ流れたらしい。村へ『機士』がやってきた。その機士に会い、推薦を受けた俺は王都へ行き、機士団への入団試験を受けることになる。


 辺境の小さい村。さらに平民出身なのでそれなりの扱いを受けたが、入団した後は機士団の方針もあり、手柄により出世していった。まもなくして『機人』をる『機士』にもなれたし、他国への遠征に参加したこともあった。王への覚えも悪くない。その代わりに、貴族たちへの覚えは悪くなったが……。


 ――ここまでこれたのは、全てはクローのおかげだ……。



 前方、陸地の先にちらほらと建物が見えた。


 ひときわ高い塔の横を過ぎ去った。塔の上にいた兵士らしき人間は、この『白い機人』を目撃しただろう。


 ここからは、いつ戦闘になってもおかしくない。とは言え、この機人の速度についてこれる機体は、ここには無いはずだ「あの機体」は今、別の戦場にいる……。


 

 まだ距離はあるが、王城と大きな城下町が見えてきた。


 遠目にでもわかる。上空には敵部隊が上がってきていた。


 ここからが本番だった。


 鞘に納まっていた『機人』の剣である『ソード』を引き抜く。


 レバーから手を離して、機体の内側に触れた。


「行こうか。クロー……」



 前方の敵部隊から、この『白い機人』へ向かって、一斉に砲撃が放たれた。


 機体を左右上下に振りながら敵の砲撃をかわす。なるべく移動せずに最短距離で進むために、紙一重でかわしているので、敵から見たら、砲撃がすり抜けているように見えているかもしれない。


 前方に敵の機人や『空飛ぶ戦車スペイゼ』がいて進行方向を塞ぐ。


 俺が駆る『白い機人』の左手に装備されている筒状の先から砲弾が発射された。


 放たれた砲弾は、前方にいた戦車に命中し爆発。その爆発に巻き込まれないために、周りにいた味方が離れる。


 『白い機人』は、爆発に生じたそのスキマに突っ込むが、その際近くにいた敵の機人を腰のあたりからソードで切断した。切断された敵の機人は、二つに分かれて地上へ落ちて行く。途中で爆発したが、切断した方からは見えてはいない。


 前方に、新たに現れた機人が複数いるのを確認できる。先ほどの機人とは装甲が違うし、フォルム自体が異なる機体も存在した。


「10体以上はいるか。第一王子の親衛隊。これは骨が折れそうだ……」


 声に出して呟く。


 敵の機人が一斉に襲ってきた。


 『白い機人』は、敵の砲撃を大きく迂回。砲撃をかわしながら敵の機人へと近づく。


 近距離の敵に向かって『白い機人』が砲撃した。


 敵はその砲弾をかわすが、そのタイミングで敵機人に近づき、その背をソードで切り下げる。背にある飛行ユニットが破損して飛べなくなった機人は地上へ落下したが、落下途中で味方の機人に助けられた。


 『白い機人』の頭上からは、敵機人のソードが振り下ろされる。『白い機人』は、それを自分のソードで打ち払いながら敵機人の肘を下から切り飛ばす。


 横からも敵の攻撃がやってきた。ソードではなくスピアでの突き。紙一重でかわしたが、スピアの先端が装甲をかすった。


「こちとら、最速で飛んできたせいで装甲が薄いんだよ!」


 『白い機人』はバランスを崩したが、機人の足で相手の機人を蹴り飛ばした。


 男は、下方向からの気配を感じた。目を下に向けると、空飛ぶ戦車が遅れて上空に上がって来ている最中だった。


 『白い機人』は自重で落下。上がってきた戦車の上から機体の足で踏みつける。さらに、踏みつけたその反動で近くの戦車にジャンプするように飛び移る。


 飛び移るといっても、踏まれた戦車はたまったものでは無い。しかも、その動作を続けて2度繰り返した。


 次々と落下する戦車。最後は敵機人の頭部でそれをやったので、操縦席内部のスピーカーから敵の声が漏れ出る。


「化け物……」


 すでに乱戦と言ってよい状況……。


 次々と増える敵の援軍。


 『白い機人』はその乱戦の中でも目立って見える。なぜなら、機体からはにじみ出るように、白い光が出ていたからだ。


「キィアァァアァアァァァァーー!!!」


 突然、戦場全体に響く鋭い鳴き声。


「キィアァァアァアァァァァーー!!!」


 その声は『白い機人』の頭部から出ていた......。


 頭部の口が開き、声が響いている。


 白い機人がソードを振るった。


 その一閃で、周囲にいた敵の機人3体が同時に切断される。


 その信じられない光景に圧倒されたのか、一瞬戦場が停止した。


 そのタイミングを逃さず『白い機人』は敵を突破して先に見える王城へ飛び進む。


 だが、王城の前に壁を作っていた空飛ぶ大きな船が、白い機体へ向けて砲撃を開始した。


「キィアァァアァアァァァァーー!!!」


 再び鳴く『白い機人』......。


 敵船の砲撃は『白い機人』に命中する寸前。全てが「何か」に弾かれて消滅する。


 『白い機人』は、前方の大きな船に向かって、ソードを一閃した。


 ソードの剣先は船には触れてはいない。


 だが、剣先から伸びる白い光は船を貫いた。


 大きな爆発音とともに、地上へ落下する船.....。


 『白い機人』はその先へ進む。



 『白い機人』を駆る男は、王城のバルコニー上空までくると、バルコニーから戦場を観覧していた明らかに華美な服装で『王』とわかる者。そして、その横にいる同じく華美な服装の『王子』を見すえた……。



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