【勝海舟】大日本帝国に「敗戦」の文字なし

 勝海舟はどんどんと近づいてくるメキシコを見つつ思った。「この状況ならいける」と。敵軍の軍艦は大量だが、勝海舟の作戦はそれを加味して考えられていた。何も慌てることはない。



「大砲用意! 撃て!」



 砲撃は敵艦隊に当たるが、ダメージは少ない。いや、少ないというより、敵軍が多いから、全体的に見ると被害が少なく感じるのだ。勝海舟はある程度予想はしていたが、このままらでは自軍の士気が下がってしまう。それだけは避けなければならない。



「第一陣、前進用意! 敵艦隊に切り込め!」



 3隻ほどの軍艦が一列になって敵陣に切り込む。しかし、敵も予想していたのか、一斉砲撃で対抗してくる。残念ながらこちらの軍艦は全滅に近い損害だった。しかし、心配することはない。数人の操縦者が乗っていただけだし、彼らも途中で小型ボートに乗って脱出している。いわば、無人軍艦による突撃だった。軍艦に載せていたダイナマイトが派手に爆発する。



 勝海舟は自身の作戦がうまくいくか、少し心配があった。構うものか、どんどん攻撃するしかない。突撃あるのみ。一度始めた作戦を変えることはできない。メキシコ艦隊との大砲の撃ちあいが長い間続いた。勝海舟は時計を見る。いよいよ作戦の第二段階のタイミングだ。



「全軍、後退開始! 敵を引き付けろ! けん制に程よく大砲を撃て。無駄遣いはするなよ!」



 しかし、当然ながらこちらに突っ込んでくる敵艦はいなかった。これでうまくいくなら苦労はしない。さすがに敵軍も馬鹿ではない。いや、これでいいのだ。これこそが勝海舟の望んだ展開だった。





 数時間後、大日本帝国海軍は完全にメキシコ海軍から距離をとっていた。互いに砲撃が当たらない程度の距離を。



 勝海舟が撤退を開始してから数時間後、メキシコ北部でもくもくと煙が上がっているのが確認できた。



「勝将軍、わが軍がメキシコの都市を陥落させた模様です」



 どうやら、陽動作戦は成功したらしい。勝海舟率いる海軍が本体と見せかけて陸軍が南下する。西郷に手柄を取られるのは癪だったが、これも我が国が勝つため。それに、海軍の本体はパナマ海峡を通ってメキシコ東部にいる。手薄だろう東部での海戦は、勝海舟の愛弟子である坂本龍馬が暴れているに違いない。報告を聞くのが楽しみだ。部下に活躍の場を与えて勉強させるのも上司である勝海舟の役目だ。演習と実戦は大きく違う。後進を育てなければ、海軍は衰えてしまう。



 今回の作戦を立てたのは勝海舟だ。陸軍の手を借りたとはいえ、自身の作戦がうまくいったことに、満足していた。これで、大日本帝国は北米、メキシコ、インドネシアを領土にしたことになる。次に目指す場所は伊藤博文に決めさせればいい。海沿いの国がいいな。海軍が活躍できる海戦がしたいから。

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