【伊藤博文・勝海舟】やっと出番がきましたか

 イギリスとの同盟が成立してから、大日本帝国の次のターゲットはオランダ領東インド(現在のインドネシア)と決まっていた。オランダは東南アジアまで援軍を出すのに時間がかかるに違いないし、簡単に落とせるはずだ。伊藤博文は早くも勝った後のことを考えていた。



「勝、待たせたな。いよいよ、お前の出番だぞ!」



「やっと、海軍の出番ですか。北米では西郷将軍率いる陸軍が暴れ回りましたからね。今度は我々海軍の番です」



 勝海舟は腕まくりをする。



「どうだ、落とすのにどれくらいのかかる?」



「そうですね、3日あれば十分かと思います」



 勝海舟が豪語する。話を盛るのはいつものことだ。まったく、困ったものだ。



「それで、本当のところはどうなんだ? あまり長いと国民への負担が大きくなる」



「数ヶ月はかかるでしょう。なにせ、我が国から遠いですから。現地への物資補給も問題です。戦争をするだけなら、すぐに片付くのですが……」



 勝海舟は打って変わって真面目な表情で言う。



「それなら、インドに拠点を作るのはどうだ? もしかしたら、イギリスが協力してくれるかもしれない。私から話をしておこう」



「そうなれば、オランダ領東インド(現在のインドネシア)を陥落させるのも容易いでしょう。ぜひ、お願いします」





 イギリスに相談すると「こちらも海軍を出しましょう」と意外な返事がきた。「領土も譲ります。代わりに、フランス領インドネシア連邦(現在のベトナム、カンボジア)の攻略時には手を貸して欲しい」という条件つきで。答えはもちろん「イエス」だった。



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 勝海舟は敵陣が見えてくると、鼓動が高鳴るのを感じた。アメリカのシアトル攻略戦以来の海戦だからだ。久しぶりの戦いで勘が鈍っていないか、不安があった。伊藤博文から指示を受けた時から脳内シミュレーションはしてきたが、実際の戦いでうまくいくとは限らない。



 それに、今回はイギリス艦隊との共同戦線だ。しっかり連携してしなくては。もし、万が一、友軍を撃ってしまったら……。考えるだけでもゾッとした。勝海舟一人の命で片付く話ではない。イギリスとの全面戦争になる。いけない、弱気になっては駄目だ。リーダーがしっかりしていないと、味方の士気にも影響する。



「勝将軍。今回の戦い、勝てるのでしょうか?」



 部下の一人が心配そうに聞く。もしかしたら、勝海舟の顔に不安が見えたのかもしれない。



「そんなわけあるか! 我が軍は無敵だ。それに、イギリスの助けもある。これで勝たなくては、笑いものにされてしまう。勝てるかじゃない。勝つんだ。何がなんでも」



 部下は納得していない表情だったが、そんなことはどうでもいい。勝てば分かるに違いない。勝海舟の考えが正しかったと。





 イギリス海軍の活躍は素晴らしかった。さすが「日の沈まない国」の海軍だ。数日もかからず海戦は終わった。大日本帝国の勝利という形で。あとは陸軍に任せればいい。勝海舟は物足りなさを感じた。もっと、手強い相手と戦いたいというのが本音だった。いつか、イギリスとも戦うことになるだろう。その時は、必ず勝ってみせる。



 これで、オランダはアジアから締め出されたことになる。条約だの賠償金だのは伊藤博文に任せればいい。勝海舟の心配事は「次の海戦がいつになるか分からない」それだけだった。戦争だけが生きがいなのだから。

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