【伊藤博文】すべてを解決するものは

 アメリカの一部を領土にしてから数日。大日本帝国は沸いていた。一方で、メキシコと折半であることに対する不満も噴出し、連日デモ行進が行われていた。



 しょうがなかったのだ。伊藤博文はそう自分に言い聞かせた。メキシコと戦争になるよりは遥かにマシだ。他で結果を出せば黙るに違いない。今の所、これといった考えはないが……。



 ノックの音がしたので、「どうぞ」と返事をすると、大久保利通が入ってくる。自分からやって来るなんて珍しい。顔色がいいし、胸を張っている。いつもと違い自信に満ち溢れている。



「それで、今日は何の用だ? いい報告なんだろう?」



「ええ、もちろんですとも。結論から申し上げます。アメリカから奪い取ったアイダホ州で金鉱が見つかりました!」



 金鉱!? すでにアラスカに金鉱が見つかっているのに!?



「正確には『アメリカが採掘していた金鉱を取り上げた』ですが」



「そんな細かいことはいい。それで、アラスカと比べて大きいのか?」



 伊藤博文は思わず前のめりになる。



「さすがに、すぐには分かりません。しかし、アメリカで産出される金の20%はあるとのことです」



 十分すぎる数字だった。この20%は大日本帝国の経済を潤すだけでなく、アメリカの手痛い損失にもつながっているはずだ。金鉱の存在を知らなかったから、もしメキシコに渡していたらと思うとゾッとした。



「これは戦争時の出費を補って余りあるんだろう?」



「もちろんです。それに欧米は先の不況で混乱しております。つまり、我が国の一人勝ちです」



 そうか。欧米はドイツが銀貨の取り扱いをやめたことで、混乱しているんだった。これは好都合だ。



「よし、下がって大丈夫だ。詳細が分かったら報告するように」



 大久保利通は恭しく礼をすると去っていった。後ろ姿はいつもより意気揚々としていた。



 さて、どうするか。経済を発展させるか? それとも軍備を拡大するか? やはり、経済優先だろう。ここで国民の心を掴んでおくのだ。国の強弱は国民の貧富と相関関係がある。伊藤博文は側近を呼ぶとこう告げた。「群馬県の富岡市に製糸工場を作るように」と。

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