第48話 地面と尻
「・・・おい、おい・・・おーい、大丈夫か?」
畦道を少し外れたところに牛車を止め、
私は偶然目に留まった『ある物』に対してコミュニケーションを図る。
見たままのそれについて説明すると、『地面から生えた尻』だ。
尻、は少し語弊がある、尻からつま先までが、
地面が少し小高く盛り上がってる場所の、横向きに開いた穴から生えている。
見たところ子供か、体格はそこまで大きくはない、私よりも小柄。
服は黒と白のゴシック調のドレス、上等な布に見えることから
それなりに裕福な家柄と予想できるが、泥と土砂でまぁ見事な汚れっぷりである。
「事件か・・・?だが死体を遺棄するにしてもいくらなんでも雑過ぎるだろ」
「誰が死体ですって?」
尻がピクリと動き、言葉を発した。
「お、おお・・・良かった、生きていたか」
生存を確認できたことで、少しだけ安堵する。
だからと言って事件性が無くなったわけではない、
酔っぱらった結果の奇行か、もしくは本当に生き埋めされそうになっているのか、
・・・いや、そのどちらだとして、些か冷静過ぎはしないだろうか?
「たまたま通りがかったら人が穴に埋まってる・・・?のを見かけてな、
困ってるなら助けるが、どうする?」
「あら、親切にありがとう。そうね、自力で抜けれないの、助けてくれるかしら」
「分かった、少し痛いかも知れないがその時は言ってくれ」
私はそう言い、体を引っ張る為に尻を両手で掴む
「あっ・・・」
「あぁ、えっと、すまない、痛かったか?」
「・・・なるほどね、助けるのはやることやってから・・・と、
そう言う事ね、良いわ。私も冒険者のはしくれだもの、
こういう目に遭う事くらい、覚悟はしているわ」
「え、なになになになに?怖い怖い怖い怖い」
「でも体は好きにできても心までは貴方の物にはならないわ、
それだけは覚えておくことね」
「わぁすっごい・・・助けたい気持ちが無くなっちゃった」
まさか助けようとしている女性から痴漢扱いされることあるか?
覚悟してるならせめてこのタイミングで言わなくない?
「まぁ、良い・・・か。とにかく少し我慢しろ、
一度入ったなら抜けることもできるはずだ、引っ張るぞ」
「そう、貴方はこういうのは好きじゃないのね。
相手の顔が見れないと燃え上がらないタイプなのかし・・・、
あ、待って痛い痛い痛い痛い痛みで死ぬ死んじゃう意識薄れちゃう。」
ポンッ、と言うまるで瓶の栓を抜く音と共に
引っ張る力が一瞬で軽くなる。
突然のことで私は尻もちをついて倒れたが、
尻の女性は私の少し後方まで飛び、転がってしまった。
「あーっと、大丈夫か?」
心配し、駆け寄って尻の女性の顔を見て、私は驚いた。
兎だ、しかも獣人族の上位種の方だ。
薄紫色の長い髪、赤い瞳、人の姿で頭部に白いロップイヤーを生やしている。
どうやら意識はあるが自分の身に何があったかは理解していないらしく、
無表情で仰向けに倒れたまま、全く動く様子がなかった
「大丈夫よ、少し吹き飛んで驚いただけだから。
・・・あら、貴方も私と同じ獣人族なのね、
兎は狐には勝てないわね、こうなってはあとはされるがまま・・・」
「いや何もせん何もせん、無事だったらそれでいいのだが・・・、
お前、どういう状況でああなったんだ?というか何者だ?」
「自己紹介したいところだけど、長旅とトラブルで少し疲れたわ。
すぐそこに停めてる貴方達の馬車に乗せて貰えるかしら」
「おぅん、若干会話通じない上に図々しさがすっごいのね、この子」
・・・ん?と、私は首を傾げる
それは彼女の最後の言葉に、少し違和感を感じたからだった。
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