第32話 『万物編集』

ドン、ドン、アーシュは扉を2度叩く

しばらくして扉が開く、その瞬間に皆が顔をしかめる。


酒気だ、それもかなりの臭いが扉が開くと共に一気に出てくる。

出てきたのは1人の若い男の兵士、しかしその顔は

はっきりと酔っていると分かるくらい赤色に染まり、目は虚ろだ。


「おーう、やっと来たのかよ鈍間がよぉ、

 先輩、やっと物資が届きましたよぉー」

「あぁん?お、可愛い女も一緒じゃねぇか、

 よっし、そこの胸のデカい姉ちゃんと田舎くせぇ嬢ちゃんは俺だ、

 そこの獣人はお前にやるよ」


奥からもう1人、不細工な男が出てきたと思えばそんな事を言って笑いだす。

かなり不快だが、元々こういう奴等だったのか、

それともこの境遇がこいつらをダメにしたのか、

それは分からないが、少なくともこのような場所を任されてるんだ、

少なくともまともな奴らではないだろう。


「おい好き勝手言ってんじゃねぇよ。

 俺もこいつらも、お前らを接待する為に来たんじゃない、

 さっさと荷を受け取って、領収のサインをしろ」


秒でブチ切れアーシュ君が背負った荷をその場において

若い兵士に紙を突きつけた。

若い兵士は2度3度、瞬きした後に笑ってその紙を奪い取り、

あろうことかそれを真っ二つに破って水路に向かって放り投げた。


「その態度気に入らねぇなぁ!

 俺達はこの国を守ってる兵で、お前らは駆け出しの雑魚冒険者だろ!

 もっと敬えよ、なぁ!?普通は『お願いします』だよなぁ!?」

「おいおいあんまり虐めてやるなよぉ?

 ここで泣かれたらうるさくて仕方ねぇよ」

「てめぇら・・・!!」


アーシュが武器に手をかける。

すかさず、私はその行動を手で制した


「お、そっちの獣人は立場弁えてんな?

 そりゃそうだよな、庶民は仲良くしてるみたいだけど、

 本当は俺らに尻尾振るだけの奴隷なんだからよ」

「事を荒立てても解決せんからな、ともかく荷は置いたんだ。

 アーシュ、これ以上こんな場所に居ても仕方ない、帰ろう」

「・・・おっと、そういえば今日は視察が来る日だったな。

 おい冒険者ども、仕事をくれてやるぞ!」


不細工の方が地面に小銭を落とす、ざっと銅貨10枚程度か。


「俺達はちょっくら酔い覚ましに町に行くからよ、

 その間にここら辺の掃除やっといてくれや。

 サボったり帰ったりしたら、お前らのギルドに苦情出すからな、

 そしたら誰が困るか、なぁ、分かるだろ?」

「お前らいい加減にしろよ!そんな脅しが通じると思ってんのか!?

 外に出ろよ、お前らぶっ潰してやる」


居る居る、こういう奴

プライドしか残ってないがゆえに、ちょっとでも格下と思ったら

金と脅しで思い通りにしようって奴、

なんか絵に描いたような『だからここに左遷されるんだよ』って奴。


流石に上司っぽい不細工をシメた方が良いか、

そう考えたが、別の妙案を思いついた私はテスの方に視線を向ける。

それも、悪戯を考えた童の顔をしながら、だ。


「良いだろう、ここら一帯を『綺麗』にしたらいいんだな?」

「はぁ!?おいララァ、なんでこいつらの言う事なんか聞くんだよ!?」

「まぁまぁ、アーシュさん、ここは私とララァ様に任せてください」

「・・・えっと、えっと・・・アー君・・・」


どうにかアーシュを宥め、私達の返事に気をよくした2人の兵士は

ご機嫌な足取りでその場を去って行った。

去ったのを確認して、私とテスは向かい合って微笑み合った。


奴等は知らない、私とテスの『神の悪戯』、その脅威を。


「よし、テス。ひと思いにやってくれ」

「承知しました」


テスの瞳が暗い空間でもはっきり分かるほどに光り輝く、

そして水路に詰まったゴミの山に手を向け、言葉を紡ぎ始める、

それが、テスの『固有技の発動』を意味する行動だった。



「【範囲指定】【対象確定】【削除】」



瞬間、ゴミの山はテスの目の色と同じ緑色に光り、そして消滅する。


「は・・・え・・・えっと?」

「なんだなんだなんだ!?今、消えッ・・・!?」


アーシュとリエルが驚きで言葉を詰まらせる、

その新鮮な反応に、私もテスもしたり顔で笑う。


これが、テスの固有技だ。

正真正銘の『理に反した能力チート

あらゆる物質を好きな場所に生成、もしくは消滅させる能力。


万物編集オールエディット』それがテスの固有技の名だ。


凄いよな、まじでほぼ何でもどこでも作れる。

壁に大穴を開けたり、吹雪と溶岩を同じ場所に生み出したり。

固有技を絡めた真剣勝負であれば、私はテスにほぼ勝つ見込みはない、

体を捉えられたら即【削除】、そんな感じで一瞬で終わるわ。

・・・ただ、【削除】だけは可能な大きさに制限があるらしく、

それを超えた物質を【生成】しないように、テス自身が制限をかけているらしい。

流石に、火山を造って消せないから放置します、と無責任な事は出来ない訳だ。


「さぁララァ様、どんどんやりますよ」

「行け行け!ここら一帯更地にしてしまおう!

 あ、アーシュとリエル、テスの力については他言無用で頼むぞ」


2人は無言で何度も縦に頷く。

念押ししたが、まぁ実際喋ったところ信じる人は居ないだろう、

それほどに、今目の前で起きている事象はあり得ない物なのだから。


「ララァ様、ネズミが出てきました、対処をお願いします」

「よし来た、行くぞアーシュ」

「お、お・・・おう!」


テスがゴミを消し、何処からか出て来たネズミを私とアーシュが倒す、

何度かその繰り返しをすれば、いつの間にか水路に山積みになっていた

大量のゴミはその姿をほぼ完全に消え去っていた。


「さて、それではこれが『最後のゴミ』、そうだよな、テス」


コンコン、と私はある物を軽く叩く


「え、そそそそ、それは流石に・・・」

「エリン、私達はここら一帯を綺麗にするようにと、

 兵士に依頼されたんだぞ。アーシュはこれ、ゴミだと思うか」

「ゴミだな」

「アー君まで!?えと、うん、皆がそう言うなら、ゴミ・・・かな」


では遠慮なく、とテスはすぐに『兵士の詰め所』を消滅させる。

中にあった何から何まで諸々が消え去り、そこはまるで

『最初から何も建ってなかった』というくらい広い空間が出来上がった。

これで完全に『掃除』は終わった、あとやるべきことと言えば・・・


「【生成】」


テスが一言呟くと、手のひらの上で1枚の紙が生み出される。

それには先ほど若い兵士が破り捨てた『受け取り確認の書類』、

そう、テスにかかれば完全な複製品も簡単に作ることが出来る、


しかも『受領印付き』でな。


「さて仕事は終わった、さっきの銅貨は正当な対価だからな。

 拾って帰りに何か買い食いでもするか」

「あの、テスさんに、ララァ。

 ありがとう、な、俺とリエルだけだったら、絶対喧嘩になってた」

「違うよ、アー君は私達を・・・」

「そうだぞ、仲間を守るのが戦士の務めだ。

 勝てない戦いでも、誰よりも1歩前に出ないと行けない、

 怖くても、逃げ出したくても、それが出来る奴は凄いんだ。

 私の仲間に、そういう奴が居たから分かる」

「ララァ様・・・」

「ほらほら、帰るぞ、早く帰らないとさっきの兵士が帰ってくるからな」



私が3人を急かし、帰り道に向かおうとした時、

先ほどの兵士達が帰って来たのだった。


しかも、どう見ても兵士ではない2人組を連れて、だ。






 







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