第20話 ギルドへ向かう
「無事確保できた、私は今からこいつをギルド本部に
連れて行かないといけない。
慌ただしくてすまないがまた縁があれば会えるだろう。」
完全に気絶したロスウェルを担ぎながら、ロジャーがそう言った。
兎族は漏れなく高い魔法適正と聴力から魔法使いや斥候を得意とし、
逆に圧倒的に非力な所から近接戦闘には向かないはず。
なのに平然と自分より遥かに大きい男を担げていることに驚いた。
いつの間にか自己強化魔法を使ったか、
もしくは相当鍛えているのか、
いずれにせよ、アルカナに属するロスウェルをここまで圧倒するのだ、
間違いなく、ロジャーは見た目こそ幼いが、かなり強いはずだ。
「あ、すまないロジャー。1つ教えて欲しいことがある」
「むむ、私で分かることなら何でも聞いてくれ」
「ロスウェルから商業区に居るアルッセナ、という人に会う様に言われたのだが、
ここに来たばかりでどこに向かえば分からなくて・・・」
「そうか、なら少しばかりこの都について教えよう。
なに、獣人族の君は我が同士、遠慮することはない。」
担いでいたロスウェルを雑に投げ落とし、ロジャーは私達に向き直した。
ただその時にロスウェルの頭から『ゴッ』と鈍い音が聞こえたのが不安になる
「ここ首都タナトスはその広大な土地から、城壁内は大きく4つの区画に分かれる。
城門がある南のここは『交易区』と呼ばれ、
他国からの荷物や冒険者が持ち込む素材の売り買いが盛んな場所だ。
そして西が『商業区』、大工や医者、商人など様々な職業の者が
この地区で商売をしている。
東区は騎士団支部や国営の冒険者養成学校があって、
北にあるのが王城や貴族が住み、騎士団本部がある区域だ。
ちなみにギルド本部はこの都のちょうど真ん中に位置している、
周辺では一番巨大な建物だ、観光ついでに見ていくといいだろう。」
手に持つナイフで地面の土に簡単な地図を描きながら
ロジャーが事細かに説明してくれる。
「で、君が探しているアルッセナは商業区の冒険者ギルド支部長だ。
商業区の冒険者ギルドは城壁に沿ってこの大通りを歩けば見つかる。」
「そうか、細かに教えてくれて助かるよ」
「いいさ、大したことじゃない。また困ればいつでも頼ってくれ。では失礼」
よいしょ、と額にデカいたんこぶを作り、青ざめた顔をしたロスウェルを抱え直し、
手を振ってからロジャーは去って行った。
目的地は分かった、そこにはまぁとりあえず、私だけ行けば良いだろう
「テスは『いつも通り』だよな」
「はい、『いつも通り』ですね、あとで追いつきます」
『いつも通り』、私とテスだけが分かるやり取りだ。
テスはいつも新しい町に着くと、その町に関する情報収集をする、
国の特徴、有名人から著名人、特産品、戦力から他国の関係他色々。
とにかく得られる情報を集める、そう言うと膨大な時間がかかりそうだが、
テスの情報収集能力の高さは常人のそれとは違う、
なんというか、気が付けば『なんでお前そんなことまで知ってるの?』と言う
情報まで得ている。
ちなみにそんなんだから、私のプライベートな情報もテスは全て知っている、怖い。
「それにしても、人族の成長のなんと恐ろしいことか・・・」
歩きながら、22人の『人族の希望』と呼ばれる、アルカナという存在を
改めて思い返す。
ロスウェルは間違いなく強い、それは色々な解釈はあるが、
まず感じた事は『年齢不相応の強さ』だろう。
見た目の年齢はおよそ30歳前後、だが常人を超える身体能力もさることながら
『魔力で矢を作る』と言う芸当を、しかも『無詠唱』で行ったのだ。
これを出来るようになるまでに、昔であれば
優秀な魔法使いが長ければ十数年、集中して鍛錬することが求められる程の技術だ。
ロスウェルの素質か、あるいは相当数の修羅場を踏んだか、
いずれにせよ、それがロスウェルを『アルカナ』とする要因で、
これがあと21人も存在している、と言う事に改めて驚かされる。
「こりゃ、神様と言えどもうかうかしてられんな」
などと考えていれば、道のあちこちに店を構えてる場所が多くなってくる。
恐らくこの辺りから『商業区』と呼ばれる場所だ、
確かに『交易区』とは違う活気がある。
一通り見て回り、何処にどんな店があるのかを軽く記憶しておくとしよう、
しばらくはこの都を拠点に活動することになるのだから。
「やあ、そこの狐のお嬢さん、この辺りは初めてかい?」
「む、そうだが・・・?」
「そうかそうか、お母さんは一緒じゃないのかい?」
「・・・私1人だが、この辺りに冒険者ギルドの支部があると聞いて探してる」
店先で焼き立てのパンを並べるパン屋の主人に話しかけられた、
この見た目から、よく迷子だと思われる、既に慣れている。
そしてこの後よくあるのが、親切心から親を探してくれたり
迷子を保護してくれる役所等に案内してくれたりするんだ、何回も経験した。
その結果、先に目的地を伝えるのが私の中で最良の対応だと学んだのだ。
「あぁ!君も冒険者だったのか、失礼失礼。
ギルドならその道を行けばここよりもっと大きな道に出るから、
そこのすぐ見える場所にあるよ」
「そうか、助かる。今日この都に着いたばかりで土地勘がないものでな、
今後世話になるかも知れない、よろしく頼む」
「丁寧にどうも、折角だからこれを持っていきなさい」
店主が大きなパンを1つ手渡してくれる、
見た目はアンパンだが、普通のそれより何倍も大きく、
もしかすると私の顔より少し小さいか?と言うくらいだ。
「い、良いのか?と言うか、いくらだ?ちゃんと払う」
「良いんだよ、これからご贔屓にしてくれればね。
ようこそ首都タナトスへ、小さな冒険者に英雄の加護があらんことを。」
思わぬ贈り物に深く一礼すると、店主は気さくに笑って送り出してくれる。
一口齧れば焼き立ての熱と餡の香りが口の中に広がり、
少し、また少しと慌てるように齧り続ければ、ついに甘い餡を食べる事が出来た、
「・・・甘いし、温かいな」
やがてギルドの入口の前に辿り着く、
私は緩んだ顔を正すこともせず、その扉を開いたのだった。
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