スイッチ

 部屋の掃除をしていたら、奇妙なスイッチが出てきた。


 玄関などに設置するインターホンのようなスイッチで、よく見かけるものよりも一回りか二回りほど小さい。


「こんなの持ってたっけ?」


 どうも記憶にない。

 何のために買ったのか、そしていつからあるのかも分からない。

 とりあえず押してみた。


 スカッ。


 空を切るように虚しい、ただ出っ張りが引っ込む時の何の手答えもない音がするだけで、特に何か光ったり、どこかが鳴ったりするわけでもない。


「電池入ってないとかかな?」


 スカッ、スカッ。


 二度押した。何も起きない。

 何のスイッチなんだろうな、と思いながら、四度目を押す。


 スカッ。

 プップー!


 ボタンを押してすぐ、外からクラクションの音がした。

 道路に面した家の中なので、ちょうど通った車が鳴らしたらしい。

 何というタイミングだろう。

 もう一度押した。


 スカッ。

 パッパー!


 またクラクションの音がした。今度は違う車の音。

 偶然が続くと面白くなってしまう。

 もう一度押した。


 スカッ。

 プーー! プップー!


 やたら激しくクラクションが鳴った。

 偶然とはいえ面白い。

 もう一度押した。


 スカッ。


 おや、今度は何も起きない。

 まぁただの偶然もここまでだろう。

 そう思った矢先。


 キキー! ドンッ。


「え?」


 急ブレーキの音と、何かがぶつかる音。

 やにわに道路のほうが騒がしくなる。


「え、いや。偶然、だよな?」


 しばらくして、ピーポーピーポーと救急車のサイレンが聞こえてきた。

 何が起こったか知りたくなくて、その日はもう外には出ていない。


 謎のスイッチは、翌日燃えるゴミの日に捨てた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る