おにさんこちら

 少し悩んでいることがある。


 それは我が家での出来事。

 大きめの部屋に一人暮ししているのだが、どうやら住人が僕以外にもいるようなのだ。


 部屋でくつろいでいると突然浴室からシャワーの音がしたり、トイレから出て電気を消して暫くするとまた電気が点いたり、キッチンに立っていると靴箱を開け閉めする音がして、玄関を見ると靴が散乱していたり。

 自分の頭がおかしくなったのか、と疑ったが、実際問題異常は起き続けている。


 そんなある日、リビングで食事をとっていたらベットの上ではしゃぐような声がしたのだ。

 微かだか、確かに女の子の声がする。

 今までの異常は物を通して起こる事がほとんどだったが、第三者の存在が明白であるような事は初めてだった。

 気になってしょうがなく、ベットのある部屋を謎の第三者に気付かれぬよう、こっそり覗いた。


 いた。

 黒い髪の、白い飾りのないワンピースを着た、中学生くらいの少女。

 やたら可笑しそうに、ベットの上で跳びはねている。


「だ、誰だ! お前!」


 反射的に声が出た。

 その声に、少女はぴたりと動きを止め、真っ黒い瞳をこちらに向けた。

 光のない、少女の瞳が異様に恐ろしかった。

 目が合ったまま、動けない。怖い。


 無表情の少女の顔に、少しずつ変化が現れる。

 目を細め、口端をつりあげ、少女が微笑む。そして、


「見つかっちゃった」


 透き通るような声。嬉しさを含んだ音。


「次は私の番ね」


 そう言った少女の姿が見えなくなる。


「何の事だよ!」


 慌てて叫んだ。

 しかし少女の姿はもう見えない。

 何の事だか、さっぱり分からない。

 食事の続きを取ろうとリビングに戻ると、僕は絶句した。


 リビングのテーブルの上の食事を、先程の少女が食べている。

 そして、その周りをぐるりと囲むように、7~8人の人間が立っていた。


 僕は叫び声を上げた。

 その声に、少女以外が反応してこちらを向いた。


「うるさいぞ」

「まったくだ」

「馬鹿なやつだな」

「状況解ってないんじゃない?」

「あぁ、そうか」


 7~8人の人間はこそこそ相談すると、僕の方を向いた。


「隠れ鬼さ。今まではあんたの鬼。今はその子が鬼」

「みんな鬼になりたいのさ」

「だからみんな騒ぐんだ」

「それだけさ」

「そう、それだけさ」

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