ある朝起きたら、視界が歪んで見えた。


 真っ直ぐな筈の物には不規則な波、

 人の顔のパーツは有り得ない配置、

 なだらかな婉曲は弾けたようにギザギザ。


 そういえば、こんな絵を描く画家がいたなぁと思い出す。

 綺麗な長方形であった筈の鏡を覗くと、平凡な顔がおかしなことになっていた。

 小さな目は大きく拡大され、左右の大きさもばらばら。

 低い鼻はさらに低く、普通の大きさだった口は鼻よりも小さい。

 耳もやたら大きいし、頭だって破裂しそうなほど大きい。


 違和感あるけど、普通に生活が出来るあたりが不思議だ。

 せっかく、こんな変な視界を手に入れたのだから、とあちこちを巡ってみた。


 世界は面白い程に歪んでいた。



 新しく出来たビルは真ん中からぽっきりと折れているし、

 新品の新札は誰が汚したのかやたら汚いし、

 街を歩く子供達の背後には常々真っ黒の手が後を付ける。



 面白かったけど、流石に気が狂いそうで、毎日元に戻してくださいと祈りながら眠った。

 一週間後の夜、目の無い神様が夢に出て来て、自分の眼をえぐり取って行った。

 その夢から覚めた朝に、視界は元に戻った。



 これでいいんだ。


 神様の目が欲しいなんて、願うもんじゃないね。

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