第二章:18話 パリの混沌と崩壊する美
傲慢のダンジョンの魔力制御炉の結果停止は、単なる機能不全以上の影響をもたらした。ロードの魔力によって維持されていた「完璧な美の結界」が解除された結果、ダンジョン内はもちろん、パリ市内の随所に、それまでロードの力で抑えつけられていた「醜悪な魔力」と「無秩序な魔物」が溢れ出し始めた。
Aランクパーティ「テンプラー・ブレイド」のリーダー、エミール・ルブランは、その異変の中心に立たされていた。彼は、ダンジョンの外壁を飾っていた純白の大理石が、一夜にして黒い汚泥と腐食性の苔に覆われた光景を、信じられない思いで凝視していた。
「な、何だこれは!私のダンジョンが……!この醜悪な汚染は、何だ!」
エミールは、普段の冷静さと優雅さを完全に失い、錯乱していた。彼にとって、このダンジョンの崩壊は、自らが信奉する「完璧な才能と美」の哲学が否定される、存在の危機だった。
「リーダー!中層階の警備が完全に機能停止しました!ロードが、魔力制御炉の停止に激怒しています!今まで抑えられていた『低級な魔物』が、無秩序に街へ向かっています!」パーティのタンク役が、血相を変えて報告した。
「嘘だ!ロードの完璧な管理が、こんな『無価値な不純物』の流出を許すはずがない!」
エミールの脳裏に、以前カフェで耳にした「汚染」と「卑屈な逃亡者」の噂が蘇る。彼は、これまでその噂を「醜い嘘」として無視してきた。しかし、目の前の現実は、その「無価値な存在」が、自分たちの信じる「世界の美しさ」を根底から破壊したことを示していた。
2. 「卑屈な逃亡者」への憎悪と現実
エミールたち「テンプラー・ブレイド」は、急遽、街に流れ出した低級魔物の迎撃に駆り出された。彼らの戦闘スタイルは、優雅な剣戟と高度な魔力制御が特徴だったが、相手は「不格好で、数だけ多い」低級のゴブリンやゾンビ。
「くそっ!剣の切っ先が鈍る!こんな汚い魔物、私たちの才能の対価にもならない!」コレットが、吐き捨てるように叫んだ。
彼らは、美しく強大な敵との「優雅な戦闘」を信条としてきた。しかし、今の戦いは、泥にまみれ、不格好に群がる魔物との「泥臭い掃討戦」だ。彼らが最も嫌悪する「無秩序な努力」を強いられていた。
エミールは、剣を振るいながら、怒りに顔を歪めた。彼の怒りは、ロードへの不満ではなく、この「醜い混沌」を生み出した、名もなき裏の存在へと向かっていた。
(あの噂の卑屈な逃亡者の仕業に違いない!我々の完璧な日常を、最も卑劣な方法で汚した鼠め!英雄として戦う勇気もなく、裏側からコソコソと!)
エミールにとって、恭平の行動は、「臆病な才能」ではなく、「許しがたい道徳的な犯罪」だった。彼は、恭平のような「汚い存在」が、自分たちの「完璧な世界」に影響を及ぼすという事実そのものが、耐えられなかった。
3. チキンソードの噂の拡散と恐怖
混乱が広がる中、エミールたちの耳に、具体的な情報が入り始める。傲慢のダンジョンの警備隊が、敗走する中で漏らした噂だ。
「魔力制御炉を停止させたのは、『チキンソード』という魔導具を持つ、卑屈な東洋人だ!」
「そのチキンソードの能力は、『魔力制御炉の特定の周波数を強制的に停止させる、無駄な逃走技術』らしい!」
冒険者たちは、その情報に戸惑った。「チキンソード?英雄の装備ではなく、逃走用の失敗作だと?」「そんな『地味な道具』で、ロードのダンジョンが機能崩壊したのか?」
彼らの間に広がるのは、恐怖だった。自分たちが信奉してきた「完璧な美」が、たった一人の「努力嫌いの逃亡者」が持つ「卑屈な道具」によって、いとも容易く破壊されてしまったという現実。それは、世界のトップに立つ彼らの価値観を根底から揺るがした。
エミールは、自らの剣に、かつてないほどの怒りの魔力を込めた。
(卑屈な逃亡者よ。お前が次にどこへ向かおうと、『醜悪な存在』であるお前を、必ずこの私が探し出し、最も完璧な方法で排除してやる!)
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