第3話 結局悩みって何なの?

 彼女の功績を聞いて和やかな空気が流れた所で、生暖かい目線を浴びて少し恥ずかしくなったのか、桂木が咳ばらいをして切り替えた。


「んで話し戻すんだけどさ、悟は別にハーレムしたいとか思ってないわけじゃん?」

「そうだな。例えしたくてもできないが」

「そりゃ当然っしょ」

「……ちょっとはカバーしてくれもいいんだぞ?」

「悟にはそーゆーの求めてないからいーの」


 どう捕えたら良いものか複雑な所である。自分にそんな甲斐性が無いことは自覚しているが、こうも言い切られると反抗したくなる。しかしその材料が全く思い浮かばないので結局沈黙するしかなかった。そんな俺に構わず桂木は質問を続ける。ちなみに俺の横で椎名さんがふんふんと話を真剣に聞いている。

 

「んでさ、好きな人とかいないわけ?」

「いないな。校内でハーレムに血気盛んな女子を見すぎて、うんざりしていたところだ」

「ふむふむ……、もしかして女子と一緒にいるの自体が嫌だったり?」

「そういう訳じゃないぞ。普通の子だったら歓迎だ」

「そっかー」


 普通の子……と呟いた椎名さん、何故かメモを取り始める。書き留めておく程重要なことは何も出てきていないと思うのだが、なんか可愛いのでそのままにしておく。


「じゃあさ、唯ちゃんって普通の子?」

「……ん? まあ普通に可愛い子だな」

「か、かわっ!? あっ……」


 俺の言葉に驚いたのか、何かを書こうとしていたメモとペンを落としてしまっていた。俺の足元に転がってきたペンを拾い、壊れていないかを確認しておく。


「今ので壊れたりはしてなさそうだな」

「……新田君はやっぱり、優しいなあ」


 俺の頭上から、嬉しい言葉が聞こえてきた。なんだかむず痒い気持ちが芽生えつつも、椎名さんに手渡そうとして見上げると、前髪の下から彼女の瞳と目があった。


「……やっぱ可愛い目してるな」

「ふぇええっ!?」

「やべ、声に出てた」


 つい口から出てしまった言葉を聞いた椎名さんは、一気に顔が真っ赤になった。拾ったペンを椎名さんに手渡そうにも、彼女は完全に固まってしまっていて受け取れそうにない。昨今ではこういう発言がセクハラだと捕らえられかねないから注意が必要なのに、迂闊だった。


「悪い、不快にさせちゃったかな」

「う、ううん! 寧ろもっと言ってほしい、です!」

「え、そうなの?」

「あ……!? い、今のは違くって、その……あぅ」

「どっちも声に出まくってるし。……なーんか相性も良いみたいだし、問題なさそーじゃん」


 俺と椎名さんの様子をボーっと見ていた桂木がボソッと呟いた。そしてそんじゃあ本題、と言ってから桂木は表情をキリっとさせてから俺にこう告げた。

 

「という訳で悟、唯ちゃんをこの学校から守ってあげて!」

「お、お願いしまひゅ!」

「え、どういう訳?」


「その、私……ハーレムアレルギーなんです!」

「知らない単語出てきた何!?」


 という訳で、俺は椎名さんを守る役割を仰せつかる事となった。……いや、何もわからないんだけれども。ハーレムアレルギーって何?

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