4.魔獣の存在、危険な魔獣と友好的な魔獣
今僕が生きている世界は、魔法や剣みたいに大きな違いから、小さな違いまで色々あるけれど。もう1つ、地球とは大きく違うものが。それはこの世界で生きている人達、生き物についてだ。
小説の世界のように、人間だけではなく、獣人やエルフ、他にも様々な種族の人達が暮らしている。僕はまだ獣人にしか会った事がないけどね。
もっと大きくなって、自由に街の中を歩けるように、そして街の外へも行けるようになったら、他の種族の人にも会えると思う。
僕はまだ5歳だから、街の中を歩くのもパパ達と一緒だし。いつも行く場所は決まっているから、会う人も同じ人が多いんだ。
それから街の外へは、やっぱり小さいから出られない。ただこれは、街の中を自由に歩けるようになとしても、まだまだ出られない可能性がある。その理由は、街の外はもしかしたら、地球よりも危険な場所だから。
この世界の自然界、森や林、他の場所にも。小説や映画で出てくるような魔獣と言われる生き物が生きているんだよ。
前にママに図鑑を見せてもらったけれど、見たことがない生き物ばかりで。興味が湧かないわけもなく、3日間もその図鑑をみ続けてしまったくらいだ。
ただ、見たことがない生き物だと、楽しんでばかりはいられない。何せ僕達と友好的な魔獣ばかりではないからだ。それが僕達みたいに小さい子が、街の外へ出ない理由でもあるんだけど。襲ってくる魔獣がいっぱいいるんだよ。
それは大きさに関わらず、地球のネズミくらいに小さな魔獣から、ゾウよりも大きな魔獣まで様々で。
幸い僕が住んでいる街の近くには、世界中で危ないとされているような、レベルの高い危険な魔獣は住んではいなけれど。そこそこの力を持っている魔獣や、群れで襲ってくる魔獣もいて。
だからなるべく、本当に用事がある時以外は、僕達みたいに小さい子供は街の外へ出ないんだ。
街もそういった危険な魔獣達に襲われないように、街を大きな壁で囲んでいて、騎士さん達がいつも魔獣達を見張ってくれている。ついでに盗賊なんかも。
と、ここまでは危険な魔獣の話しをしたけれど。もちろん魔獣の中には、僕達と友好的な関係の魔獣達もたくさんいるんだ。もちろん友好的な魔獣は街に入ることもできて。
自由に街の中を歩いている魔獣もいるけれど、例えば神様から魔獣契約という力を授かると。心を通わせた魔獣と契約ができて、家族や相棒になる事ができるんだ。お互いが納得していれば、仕事仲間として契約もできる。
もちろん契約しなくても、ずっと一緒にいて、生涯を共にする魔獣達も。心を通わせることができれば、魔法なんて関係ないんだよ。
僕がこの魔法について聞いたのは3歳の頃だった。そしてそれを聞いた瞬間、なんて素晴らしい魔法があるんだって。そして魔獣と家族になれるなんて、こんなに嬉しいことはないって、そう思った僕。
実はその頃の僕は、自分の家の畑で、ある魔獣と出会っていたんだ。
「あっ! ムンラビットだ!」
カロリーナ、ムンラビットじゃなくてムーンラビットだよ。僕達がおままごとをしていると、畑を通って1匹のムーンラビットが僕達の所に。
「ムンちゃん!!」
カロリーナがムーンラビットを触ろうとする。だけどするっとその手を避けて、ムーンラビットは僕の方へ。そして僕の膝に乗り、肩に乗ると、最後は僕の頭に乗ってきて、しっかり座ると動かなくなった。
「どうしていつもムンちゃんはアーベル? あたしのあたまは?」
逃げられたカロリーナが僕の方へ来て、ムーンラビットを触ろうとしたけど。頭の上でムーンラビットの『チッ!』と鳴く声が聞こえた。今のはムーンラビットの威嚇の鳴き声だ。
「ほらカロリーナ。そうやっていつも急に触ろうとしちゃダメって言っているでしょう? だから魔獣達に逃げられるのよ。それとこの子に、勝手に名前を付けちゃダメとも言っているでしょう?」
「あたし、なにもしてない。まださわってない」
いや、触っていなくても、触ろうとしていたでしょう? しかも凄い勢いで。それに本当、この子はムンちゃんじゃないし。
カロリーナがカロリーナのママ、マーシアさんに注意されている最中にも、またムーンラビットの『チッ』という威嚇の鳴き声が。
ただ、今の『チッ』は、威嚇っていうよりも。面倒くさい子供が、勝手に自分に近寄るなって感じの、呆れている感じの『チッ』だった。うん、2年も一緒にいれば、それくらいの表現の違いは分かる。
今、僕の頭の上に乗っているムーンラビットと、僕の付き合いは2年になる。ほら3年前にママに図鑑を見せてもらって、魔獣との契約の魔法について聞く少し前に、僕とムーンラビットは、家の畑で出会ったんだ。
その日はママの畑仕事を見ながら、流石に2歳じゃ手伝いはできなかったけど。少しでも何かできればと思って、ママの近くで雑草を引っこ抜いていて。そうしたら畑の近くに生えていた草むらが、少し動いた気がしたんだ。
風が少ししか吹いていなかったのに、こう、変ん風に揺れた感じで。気になった僕は、すぐに草むらの方へ。そして草むらを掻き分けて見てみれば。
そこには酷い怪我をしたムーンラビットの赤ちゃんが。すぐにママを呼んだんだけど、ママはこの時薬を切らしていて。
だからお母さんは、お母さんの友人で、回復師をしている人に、ムーンラビットを診せに行ってくれて。それで何とか一命を取り留めたんだ。ちょっと右のお尻に、三日月型の傷跡は残っちゃったけど。
そうして自然に帰したムーンラビット。始めて深く関わった魔獣に、帰す時少し寂しかったけれど、もしかしたら親魔獣が待っているかもと。
小さい子供だからなのか、涙腺が緩くなっていた僕は、泣く泣くムーンラビットを自然に帰したんだよ。
でもそれは、ムーンラビットを自然に帰してから2日後だった。
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