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「ねえ、セックスってどんな感じ?」
私が懲りずに諒ちゃんに訊いたのは、高校1年生の冬の昼間だった。諒ちゃんの部屋は、暖房をつけなくても、日当たりが良くて暖かい。その、温かい日差しに照らされた諒ちゃんは、ぽろりと煙草を取り落した。
「え?」
「セックス。」
「ちょっと、待て。」
諒ちゃんの言う通り、私は黙った。諒ちゃんはフローリングに転がった煙草を拾い上げて咥え直し、うーん、と唸った。
「真希、彼氏いたの?」
「ううん。いない。」
「じゃあ、相手は?」
「咲ちゃんの友達。」
咲ちゃんとは、高校は違うのだけれど、それでも時々遊んだ。おととい遊んだとき、咲ちゃんは、真希もいつまでも処女じゃあつまんないよ、と言った。そして、いい男の子、紹介してあげる、とも。それから昨日、電話があり、そのいい男の子、とやらを明後日、……つまり明日だけれど……、紹介する、と言ってきたのだ。
「咲ちゃんって、あの、塾講と付き合ってた子か……。」
「うん。」
諒ちゃんは、腕を組んで、また、うーん、と唸った。私は痺れを切らして、座っていたソファから立ち上がって、諒ちゃんの隣に移動してその腕をゆすった。すると諒ちゃんは、ふう、と息をつき、煙草を口の端に引っ掛けたまま、大したことじゃないよ、と言った。
「大したことじゃないよ、時と相手を間違えなければね。」
私は、何年か前に同じ台詞を聞いたことを思い出した。あのときは、セックスではなくてキスだったけれど。
「でも、順は追った方が良いと思うよ。」
「順って?」
「よく知りもしない人と、いきなりセックスするなってこと。」
「諒ちゃんはいつも、よく知ってる人としかセックスしてないの?」
相変わらず、女のひとをころころ変えている諒ちゃんは、言葉に詰まった後、首を横に振った。それから灰皿に煙草を押し付けて火を消すと、軽く肩をすくめた。
「でも、俺、大人だし男だからな。」
「なに、それ。私は子どもだし女だから違うって言うの?」
「まあ、そういうこと。」
私は、諒ちゃんのその言い振りに、腹を立てた。女だから、とか、子どもだから、とか言われるのは嫌いだったし、諒ちゃんはそんなことを言ったりしないと思っていたので、余計に腹が立った。だから、腹立ちまぎれに身を乗り出して、諒ちゃんの口に自分の口をくっつけた。キスなんてしたことないから、やりかたはよく分からなかったけど、形としてはそれっぽくなっていたと思う。
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