第184話 アナウンサー

「密着取材ですか」

「はい、番組のほしい絵を撮るために取材者が現場に来て、インタビューなどをします」


翔太と橘はドキュメンタリー番組に向けて打ち合わせをしていた。

番組としては、神代がIT業界で活動している姿を撮影したり、インタビューをしてコメントを拾ったりしたいとのことだ。


「なんとなく状況はつかめましたが、俺関係あるんですかね?」

「これは梨花のこだわりなんですが、技術的に間違った発言を残したくないそうです」

「あぁ、なるほど」


翔太には監修の役割を期待されているようだ。


「それに、取材者も業界の知識はありませんので、インタビューに際してのアドバイスなどがほしいそうです」

「そうなると、俺も神代さんに密着するってことになりますか」

「そうですね、柊さんが写り込むってことはないと思いますが、対策はしたほうがよさそうですね」


***


「メトロ放送の二宮円香にのみやまどかです。よろしくお願いします!」

テレビ局の会議室で、明るく清潔感のある雰囲気のある若い女性が、多くの男性を虜にするであろう魅力的な笑顔であいさつをした。


翔太は異性が苦手な神代に配慮して、この女性がアサインされたのだろうと推測した。


「え、えっと……」

「アナウンサーの方です」

橘はすかさず翔太をフォローした。


「た、大変失礼いたしました。皇と申します」

「あの、失礼ですが私のことをご存知ではなかったということですよね……」


二宮と名乗った女性は落ち込んだ様子を見せた。

見た目の年齢は神代と変わらないように見えるため、若手であることは間違いなさそうだが、その口ぶりからは相当有名なアナウンサーだと思われる。


後で確認したところ、ナレーションや対談の司会なども彼女が担当していることがわかった。

番組のメインは神代だが、二宮の役割もかなり重要であることがうかがえる。


「申し訳ありません。テレビを持ち合わせておりませんので……これは言い訳にはなりませんが」

「えっ! そんな人がいるんですか!?」

(未来には結構いるんです)


二宮は翔太を覗き込むように、ぽぉーっとした目で見つめてきた。

(マズイ、珍しい属性で変な興味を持たれたか……?)


「あ、あのっ! 神代さんとはどのようなご関係ですか?」

「コホン」

「はっ! 失礼しました」


本題に入らない二宮を橘は視線で制した。

翔太はこの業界での立ち振る舞いが未だわかっていないため、橘がいるだけでかなり心強かった。


「私はIT業界に明るくありませんので、神代さんの活動内容を中心に私なりに整理してみました」


そう言って、二宮は一冊のノートを差し出した。

ノートには業界の勢力図や主要な技術などがまとまっており、事前にかなり勉強していることがうかがえた。


「間違えている点や、ほかに押さえておくべきことがありましたらご教示ください」

「はい、それでは――」


このメトロ放送を舞台にした、壮絶な戦いが控えていることを、今の翔太は知る由もなかった。

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