第106話 切り札
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「俺と俺で現世の覇権をとりにいく」の第36話と同じ時間軸です
https://kakuyomu.jp/works/16818093081647355813/episodes/16818093083645124006
全体の時系列情報は下記を参照してください
https://kakuyomu.jp/users/kurumi-pan/news/16818093086120520701
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「声優をやっている長町です」
「こ、この場に長町さんが来られたということは……」
利根川はその意味を瞬時に理解した。
長町が出演したゲームはすべてヒット作となり、ゲーム界では『長町伝説』と呼ばれている。
「はい、御社のゲームに興味があります」
長町は晴れやかな表情で言った。
ゲーム制作の現場において、プロデューサーと声優では圧倒的に前者のほうが立場が上だ。
しかし、この場では長町が利根川を見下ろしているかのように見えた。
「長町さんに出ていただけるなら話は別です。ぜひキリプロさんの新人の活躍の場にしてください」
信濃はたい焼きを焼くように手のひらを返した。
「長町はそんな時間が取れないだろ? そこはどうするどうするつもりだ?」
霧島の発言に、一同は静まり返った。
「モバイルゲームの音声なら、負担が少ないのではないでしょうか?」
翔太の提案に信濃と利根川は思案した。
モバイルゲームでは、掛け声や挨拶などの短い音声しか収録できない。
したがって、フルボイスのゲームと比べると音声のボリュームが大幅に少なくなる。
この場合、長町のネームバリューがどこまで反映されるかは未知数だ。
「そのモバイルゲームで、ある条件を満たせば、アストラルテレコムが御社に出資する意向があります」
「ええぇっ!?」
翔太の発言にMoGeの関係者は驚愕していた。
「そ、その条件とは……」
アストラルテレコムの資本は、この場にいる二社とは比較にならないほど巨大だ。
ゲーム開発には多額の費用がかかるため、アストラルテレコムの資本は喉から手が出るほどほしいだろう。上場を目指しているならなおさらだ。
「一つは長町のような当事務所の所属タレントが関与することです、これはゲームのユーザー数をできるだけ増やすためです」
アストラルテレコムにとっては、モバイルゲームのユーザー数が多ければ通信量が増えることに伴い、それが売上に直結する。
「もう一つはGPSを使ったゲームにすることです。
アストラルテレコムはGPS搭載した携帯電話を一斉に投入し、他社との差別化を図ろうとしています」
「な、なるほど……」
これは姫路からの依頼である。
「具体的にはどんなゲームになるんですか?」
長町は興味深そうに翔太に質問した。
「ゲームの世界と現実の世界をリンクさせます。
たとえば、現実世界でゲームのファンイベントの場所に移動したら、ゲーム内でレアな敵と戦えたり、限定アイテムを獲得できるという感じですね」
「すごく面白そうですね!」
長町は興奮した表情で反応した。
「こ、これは……どの会社もやっていないと思いますので、業界に与える影響も大きいですね!」
利根川はいくつかのヒット作を手掛けている経験から、このアイデアが売れると直感した。
翔太の提案は元の時代に存在した位置情報ゲームを参考にしている。
この時代ではGPSをゲームに使う発想がなかったため、この場の参加者にとっては斬新なアイデアだった。
「アストラルテレコムに出資の意向があるのは本当ですか?」
信濃の疑問はもっともだ。
翔太はこの場に霧島プロダクションの一員として参加している。
芸能事務所が携帯電話キャリアの資本動向を把握している理由はないだろう。
ましてや翔太は出向している身であるが、これはMoGeの関係者は知らないことだ。
「はい、この名刺の方にコンタクトを取っていただければ、ご確認いただけます」
翔太はアストラルテレコムの広報責任者である高槻の名刺を差し出した。
最終的な出資の決定をするのは姫路だが、高槻が窓口を務めている。
信濃は目まぐるしい展開に口を金魚のようにパクパクさせていた。
事前に話を聞かされていなかった長町は、驚きながらキラキラとした表情で翔太を見つめていた。
「このお話を聞いてしまったら、お断りする理由を探すほうが難しいですね」
信濃は感服しながら言った。
「ではお互いの利害は一致しましたね。過去のことは水に流して協力していきましょう」
神代のこの一言がダメ押しとなり、両社の資本提携が成立した。
霧島と信濃はがっしりと握手した。
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