卯辰山
卯辰山は金沢市内に在る山です。
山上に設けられた土俵では、高校相撲の大会『黒鷲旗』が開催されます。
金沢環状線工事が進捗しておらず第七餃子の近くで道が途切れており、山腹を貫くトンネルも無く田圃が広がっていた頃。
週末の深夜二時。
卯辰山を越えた天神町周辺に住む同僚を自宅に送るため、助手席に乗せて山の上町交差点から卯辰山に車を進めました。
街灯以外灯りはなく誰も居ないカーブの多い道を、ハイビームにして上がって行きます。
何度目かのカーブが視界に入った時、カーブの角。山に分け入る細い入口と一本の標柱が目に入りました。
何度も通っている道なのに、初めて気がつきました。
「なんだあれは?」
通り過ぎる時に目を向けると、『金沢大学医学部検体墓地』と記されていました。
時間も時間でしたから、ちょっと嫌なものを見ちゃったなと思いカーブを抜けて直線に入った時。
山上へ続く一本道を上って行く、小太りなお爺さんの後ろ姿をハイビームが照らし出しました。
墓地の至近で、水戸黄門が持つ杖を手に歩く老人。
助手席の同僚も驚きの声を上げます。
じわじわ縮まるように感じる、お爺さんとの距離。
二人の目はお爺さんに集中します。
もうすぐ追い抜く!となった時に見えたんです。
お爺さんが肩から掛けた鞄?に入る新聞が。
新聞配達のお爺さんが四、五部の新聞を抱えて、ゆっくりと歩いているのを追い抜きました。
でもね。そこから上には喫茶店と石川動物園に、廃病院があるだけだったんですよ。
喫茶店だから全国紙・地方紙にスポーツ新聞を取るでしょうが、配達員は各社別々ですよね。
一人の老人に託すものですか?
同僚を送り届けてから、同じ道を辿って山の上町交差点まで戻ったんですが、その時はお爺さんの姿は無かったんですよ。
お爺さんの速度と喫茶店や動物園までの距離と、同僚宅までの時間を考えると、すれ違うはずなんです。
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