転生したら森の魔女への生け贄にされるショタだった
新原
第1話 供物
放任主義が行き過ぎた無関心。
毎日のご飯がまったく用意されない生活を強制された小学生の僕が、栄養失調から体調を崩し、気付けば心音の弱まりを感じながら床に倒れ込んでしまったのは必然と言えるのかもしれない。
昼休みの廊下がざわついて、通りかかった先生が僕の名前を何度も叫ぶ中、子供心にもう長くはなさそうなことを悟りつつ、もし次があるならその人生はもっと長く生きてみたいと思った。
長く、長く。
しわくちゃのおじいちゃんになるまで長く、長く。
そのために必要なのはきっと、どんな環境にも対応出来るクレバーな強さに違いなかった……。
※
「――おや、今年の供物はなんとも
禁域、と呼ばれる深い森の入り口。
その場の祭壇に縛られて放置されている僕は、目の前に黒いドレスを着た赤い髪の美人お姉さんが現れたことに気付きながら、自分が転生者であることを思い出していた。
……放任という名の虐待による衰弱死で享年11歳。
そんな不遇を経た次の人生が今で、今年10歳を迎えた僕はまた不遇な状況にあることを把握する。
そうだ、生け贄にされているんだった――禁域の魔女に対しての……。
「ふむ……なぜ坊やが供物に? 村からのショバ代は例年作物だったはずだがね」
……村の言い伝えでしか知らないけれど、きっとこのお姉さんが禁域の魔女なんだ。
僕は自分がどうなってしまうか分からない緊張感の中、応じる。
「……こ、今年は作物が不作だったんです」
「なるほど、それで坊やが代わりに?」
「はい……孤児なので、そんざいに扱われやすくて……」
村ではずっと召使いとしてコキ使われてきた。
前の人生では虐待されていたし、今度は生け贄。
なんなんだろう、やり直しても恵まれない僕の人生って……。
「やれやれ、さすがに人なんぞ捧げられても反応に困ってしまう。そもそもショバ代に関しては私の意思で巻き上げているわけじゃない勝手な捧げ物だからね、過ぎたる品は受け取りづらい」
魔女のお姉さんは肩をすくめていた。
「しかし坊やが不遇な立場にあることを知ってしまっては、見捨てることも出来ないね」
ふと掛けられた優しい言葉。
それと同時に僕の小柄な身体がひょいっと持ち上げられる。
魔女のお姉さんが抱っこしてきたんだ。
あわわ……。
「ふむ、これほど
……ん?
「近くで見ると更に愛いなぁ。まつげが長くてほっぺはぷにぷに。君に支障がなければ今すぐお持ち帰りしてお腹いっぱいご飯を食べさせてお風呂に入れたのちに寝かし付けてあげたい……!! ――構わんだろうかっ?」
ずいっと顔を迫らせてくる……。
ち、近い……。
「それにね、君は魔法的な逸材でもあるのが素晴らしくて私の興味を実にそそらせてくれるんだ」
「……え?」
「君、前世持ちだろう? その特性は魔法使いとしてかなりのアドバンテージを得られるのさ」
え――っ。
なんで転生者だってバレて……っ。
「なんで分かるんだ、って顔をしているね? 答えは単純明快で、私の目が他人の魂の形を見通せるからだ。君の魂は通常のモノと違い、古文書等に記されている
「……輪廻人?」
「伝説の才覚さ。前世から輪廻して生を受けた者は、マナ回路に輪廻効果が付随されて消費したマナが即時回帰する。簡単に言うならマナが尽きないということだ。これが魔法使いにとってどれほど有益なことか分かるかね?」
自分のことでも語るみたいに、魔女のお姉さんはワクワクした表情を見せていた……。
「まさかこれほどの才能が近所に眠っていたとは……灯台下暗し、とはよく言ったモノだね。村では魔法を学ぶ機会もなかったろう? それを思えば、君がこうして村から解放されたのは良かったことと言える」
魔女のお姉さんはそう言うと、僕の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
「さて、どうする坊や? 私は是が非でも君をお持ち帰りして愛情たっぷりに育ててあげたいところだが、もし村に帰りたいという奇特な考えがあるならば、別にそれでも構わんよ。私は君の意思を尊重しよう」
そう言われた瞬間、思った……多分この魔女のお姉さん、良い人だって。
少年好きの性癖はヤバそうだけれど、前世の親や今世の村に比べたら屁でもない。
だから、僕は少し迷いつつも気付けばこう言い返していた。
「お、お世話になっても……いいですか?」
「ほう。私に育てられる覚悟があるのだね?」
「あ、ありますっ。僕は強い大人になってみたいんです!」
それはかねてからずっと思ってきたことだ。
なんせ前世では虐待の影響で享年11歳。
言葉そのまま……大人になれなかった。
だからこの世界ではきちんとした大人になって、長い人生を最期まで全うしてみたいという野望がある。
そして、人生を全うするために必要なのはクレバーな強さだと思っている。
この手の異世界では尚更だろう。
だから魔女のお姉さんを頼って魔法を教えてもらえるなら、それは僕の野望的には理想だと思ったんだ。
「なるほど、君は見た目にそぐわず貪欲なようだ。ふふ、そういうことなら喜んでお持ち帰りさせてもらおうか」
僕の意を汲んでくれたかのように、魔女のお姉さんは僕を抱っこしたまま浮遊し始めていた。
「わわっ……」
「しっかり捕まっておくといい。私の家に向かうよ」
気付けば木々の先端よりも高い位置に来ていた。
そして魔女のお姉さんは禁域の空を飛び始める。
すごいや……これが魔法。
「そういえば、自己紹介がまだだったね」
髪色とは正反対の蒼い瞳を魔女のお姉さんが向けてくる。
「私はアルチーナだ。呼び捨てで構わない」
「あ、えっと、僕はリュクスです」
「リュクスか。歳は?」
「10です。前世では11でした」
「ふむ……ならもう5年は待つべきだろうか」
……なんの話だろう。
「ともあれ、私のお世話になると決めてくれたからには後悔なんてさせないよ。良い選択をしたと君に思わせられるように尽力させてもらおう」
そんなありがたい言葉のあと、アルチーナの自宅だという幻想的なツリーハウスに到着し、お手製シチューをいっぱい食べて十数時間ぶりにお腹を満たすことが出来た。
それから汚れを落としてこいと言われてお風呂へ。
ツリーハウスの傍に露天風呂があって、そこで1人身体を洗い始めていると――
「――ふふ、しっかり洗わないとダメだぞ?」
「!? あ、アルチーナ!?」
僕と同じように裸んぼの状態でアルチーナが歩み寄ってきていた。
あわわ……。
「み、見えてますけど……っ」
「そんなところに注目してしまうとはマセた坊やだ」
綺麗な身体を誇るかのように、アルチーナは僕のそばで悠然と足を止めた。
「どれ、私が洗ってあげようじゃないか」
「えっ。い、いいですよ別に……」
「遠慮する必要はないさ。ほれほれ」
「あぁ……っ」
アルチーナにタオルを取られ、背後も取られ、背中をゴシゴシされ始めてしまう。
うぅ……。
「人に洗われるのは気持ちが良いだろう? それに君くらいの年頃だとここを疎かにしていそうだから私がよーく洗ってあげないとね」
「はぅっ……」
……僕はもうお婿に行けなくなったかもしれません。
「さあ、肩までしっかりと浸からねばダメだ」
身体を洗ったあとは一緒に湯船。
広い岩風呂で、僕はアルチーナの膝上に収まるように浸かっているけれど、これは別に僕がそうしたわけじゃなくて強制されただけです……。
しかもアルチーナ……僕にぎゅっと腕を回してくる。
背中にお胸が当たっているし、アルチーナの指が変なところを触ってくる。
……悪い人じゃなさそうだけど、ちょっとえっちなのかな。
でもそれさえ除けば良い人そうなので、強い大人になって人生を全うするために、とりあえずアルチーナとの生活を頑張っていこうと思います。
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