第490話 アウトブレイクは常に暗躍中

「警戒してるわね」


「そりゃあ、そうでしょ。何考えてんの? 君」


「安心なさい。どうせもうすぐ消えるほど脆弱な、残留思念みたいなものよ? 何を企んでいても実行なんてできないわ」


 それは……そうだけど。

 警戒するなって言われてもねえ……。


「まあ、警戒されようが話すんだけどね。だって、このままじゃ消えるだけだし」


「はぁ……好きにしたら?」


 会話で気を引いて、その間に攻撃とかでもなさそうだね。

 この状態のテンユウにいくら攻撃されても、ボク平気だし。

 駄目なら駄目で、別に死んだふりすればいいし。


「四天王のピルカヤなら、自分の体内に異変が生じたとき、周囲を巻き込まないように、こうやって隔離してくれると思ったわ」


「まぁ……周りに迷惑かけたくないからね~」


「だから、好都合だったの。まさか虚無の種子を所持しているとは思わなかったけど、もしかしたら干渉されない場所で会話できるかもってね」


 干渉されない……? 誰に?

 テイランの人々? 自身の従者たち? 他の勇者?

 どれも違う。テンユウなら、そんな相手振り切って密会するなんて、簡単だろうからね。

 つまり、それ以外のもっと強力な力を持つ存在。


「女神……」


「そう、大正解。アタシこれでも勇者だからねえ。一時的とはいえ、魔王軍と共闘の提案なんてしたら、アタシも魔王軍も女神になにされるかわかったもんじゃないわ」


「巻き込まないでほしいなぁ」


「残念ながら、そうも言っていられないの」


 テンユウがそこまでして接触してきたってことは、まぁトラブルだよねぇ……。

 女神は無関係、共闘ってことはボクらのせいでもない。

 それでいて、勇者に解決できない問題ねぇ。


「転生者?」


「そ、さすがに話が早くて助かるわあ」


 正解してしまったらしく、テンユウは満足そうに微笑んでいた。

 当たっても何も嬉しくないね。また、面倒ごとかぁ。

 ボクの手柄にできるのはいいんだけど、勇者まで絡むってけっこう大変なことっぽいからな~。


「喜びのダンジョンも、欲望のダンジョンも調査した。だからわかるわ。あそこの各施設と魔王軍はつながっている。それに、快復の湯もね」


「なんでもかんでも、ボクたちのせいにしないでほしいんだけど」


「隠さなくていいわよ。咎めてないもの」


 ……バレてることが問題なんだよねぇ。

 どこまで気付いているんだろう。ここで殺しても意味がない。

 残留思念だし、そもそも本体であっても復活する。

 とりあえず、すぐに殺して魔王様とレイに報告を……


「待った待った! な~に物騒な気配になってんのよ! それをとやかく言うつもりはないわ。必要であれば、誰にも教えないことも取引に含めてもいい」


 取引……。つまり、さっき言ってた共闘がどうってやつだよね?

 警戒すべきなんだろうけど、そこまで知られちゃってるし、一旦全部聞いておいたほうがいいか……。


「はぁ……続きは?」


「あんたのそういうところ、嫌いじゃないわよ」


 うるさいなぁ。もうすぐ消えるなら、さっさと話してよね。

 ボクのそんな気持ちが顔に出ていたのか、テンユウは苦笑してから話を続けた。


「まあ、共闘なんて言ったけど、ようするにお願いね。このままじゃ、テイランも地上も、あんたたちの隠れ家も全て滅びるわ。だから、その問題を解決するために協力しましょ?」


 ……なんか、思っていたよりもスケールが大きい話だった。

 どうしようか、これ。ボクたちが知らないところで、いったい何が起こっているんだか……。


「何で滅びるのさ? 女神?」


「いいえ。病よ」


 病……? 前にボクたちに絡んできた転生者が、レイに返り討ちにされていたけれど、他にも似たような転生者がいるってことかな?

 だって、あのときはテイランの方面は何も騒ぎになっていなかったし。


「テイランは、もともと不治の病で国民たちが苦しんでいた。なんとか感染は拡げないようにしてたけど、ある日他の病まで蔓延して、合併症が発生しちゃったの。そのせいで、感染力も強くなっちゃってねえ……。このままじゃ、テイランから流出した病で世界中が滅ぶわ」


「えぇ……」


「どうにも、他の病の原因を調べたら、他の国でも似たような病が蔓延していたみたいなのよねえ。しかも、調べてみたら転生者が原因っていうじゃない。ほんっと! 女神何考えてんの!?」


 ってことは、やっぱり前にレイが殺した転生者のしわざっぽいね。


「前に観察したときは、テイランは無事っぽかったけど? それに、普段も平然としているじゃない」


「馬鹿ね。あんたの能力を知っているのに、情報を簡単に渡すわけないじゃない。全部、見せかけよ」


「でもこうしてそれをばらしたってことは……」


「そう。もう限界なのよ。近いうちとまではいかなくとも、このままじゃ滅ぶだけ。もう、魔王軍だろうが他国だろうが、隠し通す余裕もないのよねえ」


 転生者の力のせいってことだし、前と同じ方法で治せるのかな?

 ……あぁ、だから快復の湯?


「つまり、快復の湯でテイランの国民を完治させたいってこと?」


「話がほんっと早いわねえ。そう。それがアタシたちの望み。情けない話ということは、重々承知しているわ。共闘なんて言いながら、アタシはあんたたちにすがっているだけ。——でも、そうしないと、魔王軍も滅びる。どう? 協力してくれる?」


「君たちが滅んでから、ボクたちだけ治すって手段もあると思うけど」


「まあ、それもありよね。ただ、さっきも言った通り、たぶん地上も大勢死ぬわ。それだけの人間が死んだら、さすがに女神も放置はできないでしょうし、あんたたちも困るんじゃないかしら?」


 痛いところをついてくるね……。

 あの魔王様でさえ、女神には勝てない。

 さすがに女神が動いたら、ボクたちの負けか……。


「アタシが知ったあんたたちの情報は、墓まで持っていくわ。代わりってことにはならないでしょうけど、病を治す間だけでも協力してもらえないかしら?」


「はぁ……。ちょっと考えさせて」


「ええ、よ~く考えてちょうだい」


「だいたい、墓まで持って行くも何も、君死んでも生き返るじゃない」


「あら、バレた? まあ、他言しないから安心してちょうだい。協力してもらうためなら、そのくらいの誠意は見せないとね」


 そう笑っていたテンユウの体は薄く消えかけていた。

 ああ、残っていた魔力も限界っぽいね。

 よりによって、ボクたちに助けを求めるあたり、本当に切羽詰まっているんだろうね。

 まいったなあ。人類があまり減ったら、女神は本当にこっちに目を向ける。

 そうなったら、ボクたちもやられるだろうし……。


「最初に言ったけど、女神に干渉されない場での会話が必要よ。虚無の種子みたいな空間なら最高ね」


 テンユウの体が消え始める。そろそろ限界みたいだね。

 ほんと、このためだけによくやるよ。


「考えがまとまったら、アタシの死体の装備品に、連絡してちょうだい。ほら、一つだけ炎耐性増し増しの、頑丈なのあったでしょ?」


 あれ、やけに頑丈だと思ったけど、通信用の魔導具だったんだ……。

 どうやら、テンユウは最初から、あれを渡すのが目的だったみたいだね。

 まいったなぁ。敵を倒すのが目的じゃないのは、向こうも同じだったみたい。

 どうりで、加減した攻撃であっさり倒せるわけだよ。

 互いに負けようとしているなんて、変な戦いだよねぇ。


    ◇


「ただいま~」


「お、戻ってきた。虚無の種子はもういいのか?」


「用件は一旦すんだよ。それで、魔王様とレイに話があるんだけど」


 なんだろう? もしかして、虚無の種子一つじゃ足りなかったか?

 なら、ちょうどさっき追加で手に入ったばかりだ。


「虚無の種子のおかわりか? それならここに」


「なんであるのさ……」


 フィオナ様が外したからだ。

 なんか、いまだに悔しそうにしているし。

 確率からいえば、虚無の種子と蘇生薬って同じくらいなのかもしれないな。


「それなら都合がいいかもね」


「やっぱり、一つじゃ足りなかったか」


「いや、そうなんだけどそうじゃなくて……まぁいっか」


 どこか呆れたような声色へと代わり、ピルカヤは自然体で話を続けた。


    ◇


「……テンユウかあ」


「テンユウですか」


「なぁんか面倒なことになっちゃったねぇ」


 テンユウは当然ピルカヤのことを認識しているし、それどころか各ダンジョンの施設も魔王軍つながりだとバレてしまっている。

 もはや口封じとかいう段階でもないなあ。


 ただ、ルイスはともかく、他の誰もピルカヤや魔王軍の暗躍を知った様子はないらしい。

 ということは、テンユウは少なくとも公言しないという約束を守っている。

 それはつまり、テンユウが休戦しようと言っていた理由のほうも本当ということだろうなあ……。


「病ねえ。とりあえず、ダスカロスやテラペイアも交えて話そうか」


 勇者も転生者も撃退してひと段落と思ったが、どうやらそうはいかないらしい。

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