第481話 勇者よりも恐ろしいのはある意味で必然

「不死鳥の羽を使わせてもらう以上、最低限何か情報の一つでも持ち帰ります」


「無理しないようにな~。相手は転生者と勇者なんだから」


 それも、慎重なタイプの転生者と勇者だからなあ。

 何かを探ったとしても、簡単に手の内を晒してくれるだろうか。

 いや、だからこそちょうどいいのか?

 ドリュの作戦は、死が前提となっているわけだし、さすがに殺す相手くらいには手の内を見せてくれるかもしれない。


「俺も一回死ぬべきかねえ」


「駄目だよ」


 俺が止めるより早く、クララがロペスのことを止めてくれた。

 そうだなあ。ドリュみたいに、表舞台に出ない者ならともかく、ロペスはどうせ今後もカジノを経営する。

 ここで死んだとしても、生き返ってしまったら余計に疑われそうだ。


 今はあの二人を追い返すために、ドリュに任せるのが得策だろうな。


    ◇


「さて、転生者だけならともかく、テンユウも一緒なのが問題だな」


 今の自分でも、勇者に勝てるなどとは思っていない。

 あっけなく殺されたとしても、今回の使命は果たせたと言えるだろう。


 だけどなあ……。せっかく不死鳥の羽までもらえるとなると、もう少し戦果をあげたいのも事実だ。

 ピルカヤ様ではないけれど、俺だって魔王軍の一員として役立ちたい。

 となると、奇襲だな。あの転生者に奇襲を仕掛け、殺せるなら一番良い。怪我させるだけでも悪くない。最低でも能力を知るくらいはしたいところだ。


『三部屋先にいるよ』


 ピルカヤ様の声に軽くうなずく。

 返事を返したいところだが、それでピルカヤ様の存在に確信を持たれるわけにもいかない。

 もうじき勇者と転生者と戦うのか。少し緊張してきた。

 前回はわけもわからず殺されたが、今回はもう少し食らいつきたい。

 さて、相手はもうすぐそこだ。俺の体では隠れながらというのは無理だし、奇襲するなら迅速に相手に襲いかかるしかないな。


 扉を開けて、そのまますぐに敵の位置を補足した。

 相手が反応する前に、槍をかまえて突撃する。

 テンユウは、まだ反応していない。転生者のほうも、まだこちらの攻撃に対応できていない。


「喰らえ!」


 渾身の力を込めて相手の体ごと貫こうと、槍を突き出す。

 だが、その穂先が消滅した。

 いや、重さは変わっていない。つまり、俺の目に映らなくなっているだけで、実際には存在している。

 空間が歪んでいる。これが空間作成らしき能力か。

 罠や武器を転移させることで、盾代わりに使っている。便利なものだ。


「あなたは、ロペスと一緒にいた」


 そんなことを言っている余裕すらあるのか。

 どうやら、この空間による防御術に、よほどの自信があるらしい。

 文句はない。現に、あの奇襲さえも軽々と対処されていたからな。

 だが、攻撃は? こうして厄介な防御を使うのはわかったが、こいつ自身に攻撃手段はあるか?

 俺は、テンユウの攻撃にだけ、気を付ければいいのか?


「見覚えある魔族ね。あんた、ヘーロスに殺されてなかった?」


「だとしたら、ここにはいないだろうな」


 槍を手元に戻し、テンユウを貫こうと試みる。

 だが、こちらはこちらで俺の攻撃を最小限の動きで回避した。

 やはり勇者には敵わない。そもそも、こいつら俺を観察する余裕すらあるようだ。

 ……それは、仕方ない。仕方ないが、それなりに腹も立つ。


「あなたが、ロペスと手を組んだ魔族ですか」


「それか、転生者を利用している可能性もあるわね」


 ……そうだ。それでいい。

 俺はロペスを利用していただけであり、ピルカヤ様の名を使っていただけのケチな悪党だ。

 それが、レイ様が考えたカバーストーリーなのだから、そのとおりにこなすだけ。


「あのハーフリング……。頭をいじってやったのにヘマをしたってわけか。金稼ぎに利用できそうだったというのに……迷惑な話だ」


 俺の言葉を聞いて、ルイスは不快そうな表情へと変わる。

 テンユウのほうは……まあ、この程度じゃ何もわからないよな。

 相変わらず、顔が隠れるような衣装のため、向こうの感情は読み取れない。


「ピルカヤの命令じゃなかったんですか……?」


「そこまで知られているのか……。であれば、死んでもらうしかないな。軽々しく四天王の名を使ったなんて言いふらされたら、たまったものではない」


 俺はあくまでも、魔王軍の残党であり、先ほどの発言で金儲けのために人類と手を組んだだけの存在だ。

 そうして俺を魔王軍の裏切者として、転生者を利用していた者として、敵視してもらう。

 ついでにあえて嫌われることで、過剰な攻撃を仕掛けてくる可能性も高くなる。

 さあ、手の内を見せろ。勇者に転生者。


「やはり、魔族は完全なる悪ということですね。いいでしょう。転生者の力、味わわせてあげます」


    ◇


「消えた……?」


 いや、またあの空間の能力か。

 ドリュの攻撃が消えたり出現したりしていたことから、別の空間を作成している可能性は高いと思っていた。

 今はあの場にテンユウしかいないので、おそらくルイスとドリュごと別の空間に転移したのだろう。


「できれば、ピルカヤを通じて手の内を見たかったんだが……さすがに、用心深いみたいだな」


 テンユウはその場から動こうとしない。

 あの中では、ドリュとルイスが戦っているが、加勢には行かないらしい。

 二人が決着をつけるのを待っているのだろう。

 ということは、ルイスは単独でも敵を倒せるってことになる。

 それとも、あそこに入る方法がないとか?


「わからないな」


 俺にできることは、準備をしておくことだけだ。

 ドリュが相手を欺いてくれているのだから、それが失敗しないようにフォローしないと。


「……」


 テンユウのステータスを確認する。

 ダスカロスの指導の下、相手に見たことがばれないように、細心の注意を払った。

 だから、これはきっとテンユウがそれだけ用心深いってことだろう。


 テ■■ウ 魔力:多いわよ 筋力:けっこう力持ち! 技術:こう見えて技術系ね 頑強:意外と丈夫 敏捷:そこそこ!


 なんだこのふざけたステータスは。

 何の情報もない。いや、ステータスの確認を妨害できるほど、魔力のエキスパートってことだけはわかる。

 イドとも違う。オルナスとも違う。なんとも、不気味な勇者だな……。


「決着がつきそうだな」


「わかるのか?」


「あの空間の魔力反応が大きくなっている。何か起こるのだろう」


 ダスカロスの言葉どおり、空間の揺らぎは徐々に大きくなっている。

 今では、明らかに不自然な何かがそこにあることがわかるほどだ。

 そうして目を凝らして観察して間もなく、ルイスとドリュが再び姿を現した。


 勝者はやはりというべきか、ルイスのほうだ。

 ドリュのほうは……ところどころ焼けただれている。

 炎系の魔法で攻撃でもしたのか? ヨハンは女神の加護とは別に、毒による攻撃を得意としていた。

 なので、ルイスが女神の加護以外の攻撃手段を持っていても不思議ではない。


『終わったみたいね』


『ええ、これで魔王軍の復活も、多少なりとも遅れるはずです』


『あとは、そのロペスの対処ってこと』


『ドリュは終始彼を見下しているようでした。であれば、利用されている可能性もありそうですね』


 すでに動かなくなったドリュを一瞥し、ルイスは忌々しそうに発言する。

 なるほど、疑いは全て自分に向けてくれたのか。

 蘇生した後は、フィオナ様から色々と報酬を与えてもらわないとな。


 二人が話している間に、ドリュの体の修復が開始される。

 さすがに、二人がいなくなるまで待つことはできないよな。


「起動」


 なので、俺は遠隔から落石の罠を起動した。

 突然のできごとでも、ルイスもテンユウもまるで動じることはない。

 まあ、今までと違って二人に降り注いだわけではないからな。

 今回起動した岩は、ドリュと侵入者を隔てるように落下する物だけに限定している。

 そのため、自然と崩落してドリュの姿を隠すことができたはずだ。


『罠仕掛けすぎなのよねえ。そんな無茶なことするから、こうして崩落するのよ』


『これで、ここの魔族の対処は完了した……ということですよね?』


『ええ、お疲れ様~。まあ、さすがにピルカヤが復活していたら困っちゃうけど、杞憂で済んでよかったわ~』


『はい。ピルカヤの名を利用した魔族のしわざみたいですからね』


 どこか腑に落ちない顔をしながらも、ルイスとテンユウはそう結論付けているようだった。

 ……とりあえず、疑いは晴れた。ということでいいんだよな?


 ほどなくして、ドリュの体の修復が完了した。

 不死鳥の羽の効果は無事発動し終え、二人からはそれが見えていない。

 なんとか、不死鳥の羽一枚を消費するだけで切り抜けることができたようだ。


『……宰相様』


 そんなドリュだったが、何やら深刻そうな顔で俺の名を呼ぶ。

 もしかして、ルイスの力が何かわかったか? それとも、不死鳥の羽がうまく起動しなかった?


『最後の岩が、一番恐ろしかったのですが……』


「ちゃんと、潰さないような場所選んで起動したじゃないか……」

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