第440話 魔王お断りのかくれんぼ

「そういえば、レイって魔力感知できるようになったんだっけ?」


 フィオナ様に腕を抱きしめられながら歩いていると、松明から現れたピルカヤにそんなことを尋ねられた。

 魔力の感知……。

 ああ、そういえば昆虫人の巣で、そんなこともあったな。


「あれは、昆虫人を大量に生産しているゼラシアの魔力が特殊だったからだよ」


「なるほどねぇ。でも、特殊ならボクも負けてないんだけど!」


 どこに対抗意識を燃やしているんだ四天王。

 ゼラシア、昔のクララくらいびくびくしているんだから、慣れるまで変な絡み方するんじゃありません。


「ということで、ボクの分体の魔力感知してみて」


「えぇ……そんな無茶な」


「やってよ~。レイならできるでしょ~」


「やってみるけど、期待するなよ?」


 とりあえず、ダンジョンのマップを確認する。

 ダンジョンマスターのほうではなく、紙に描き写したなんのアイコンもないほうでだ。


「ええと」


 わくわくしながらこっち見ないでくれる?

 失敗したとき、俺が悪いみたいじゃん。


「ここと」


「お~」


「こことここ、あとここにも変わった魔力を感じる……気がする」


 あくまでも感覚だ。

 俺の魔力感知の精度に期待されても困る。


「うんうん、あってるね」


「え、全問正解?」


「いや? 弱めに作った分体はぜ~んぶ見落としてる。レイもまだまだだねぇ」


「しょうがないだろ……」


 わかるのは、大きめで特殊な魔力ってことか。

 やっぱり俺は、ダンジョンマスターによるマップ確認のほうが、性に合っているんだろうな。


「でも、大したもんだと思うよ? ほら、前に来たええと……なんだっけ。あの鑑定使うやつ。あいつだって、ボクのこと見落としてたのに、ちゃんと感知できてるじゃない」


「あれは、ピルカヤがいるなんて想定していなかっただろうからなあ」


 だから、俺のほうが長けているということにはならない。

 そういえば、とんと見なくなったな。国松のやつ。


「おいピルカヤ」


 そんな話をしていると、こちらに向かってリグマがやってきた。

 頭をかきながら面倒くさそうにしているあたり、ピルカヤが何かやらかしたか?


「お前、トキトウで遊ぶのやめてやれよ。なんか急にトキトウの前に分体が出たり消えたりして、そのたびにビクビクしてるって、カーマルから苦情がきてるぞ」


「あはは、あの子反応が面白いからね~」


 なんか、聞いただけで想像できるな。その光景。

 その後は、あの変な威嚇のポーズをとるか、あるいはハルカの後ろに隠れるか、どちらかだろう。


「そんで、なんだってそんなことしてたんだ? 暇なのか?」


「レイが魔力感知で敵を探れるか、テストしてたんだよ」


「へえ、レイくんまだ成長するんだ」


「失敗に終わったけどな」


 感心した様子のところ悪いが、見落としがあるから実用性はあまりない。

 あえて言うなら、昆虫人のときのように、ダンジョンマスターが使えないときの足掻き程度か。


「たぶん、ボクたちくらいの魔力なら感じ取れるんじゃないかなぁ?」


「なるほどねえ。んじゃ、おじさんもテストに付き合ってあげよう」


 そう言って、リグマは足元をスライムに戻して分裂した。

 そのまま地底魔界に散らばっていく姿は、なんだか、かくれんぼでもするみたいだな。


「ついでに、プリミラにも手伝ってもらうか」


 しかも、そのままプリミラまで巻き込んでいる。

 四天王、暇なのか? いや、そんなはずないよな。

 やけに付き合いがいいというだけだ。

 トップが腕にしがみついているこれなので、下も偉そうにしないというだけだろう。


    ◇


「とりあえず、大きい魔力の反応があるところは……」


 一際大きいのは厨房だが、これはリピアネムだろう。

 彼女は今日も料理人修行をがんばっているらしい。

 それで、これはさっきわかったけどピルカヤだから除外して……。


「このへん?」


「お、さすがだねぇ。それ、リグマさんだよ」


 宿の一室から魔力を感じたので指差すと、どうやら正解だったらしい。

 やっぱり、四天王くらいならわかるのかもしれないな。


「あと、ここもか?」


「それも正解」


 これは、宿の別の部屋。

 あとは……あれ? 温泉宿のほうにも。


「これ?」


「うんうん、あってるね」


 ……。

 合ってるのはいいけれど、場所がさっきから。


「なんか、わかってきたかもしれない」


「あれ、もしかしてコツでもつかんだ?」


 いや、これはコツというか……。

 俺は、マップの建物から候補を絞り込むことにした。


 食堂。宿。温泉。

 次々と指を差すが、全て正解だったようだ。


「……リグマ。お前、かくれんぼするふりして、各地でサボってるだろ」


「あ、たしかに……。寝たり温泉入ったり、お酒飲んでるねぇ」


 だから協力的だったのか。

 リグマ、恐ろしいやつだ……。

 まあ、放っておいても、どうせ仕事しないといけないと切り替えるんだろうけどな。

 サボったり働いたりと、実に忙しいやつだ。

 本体っぽいリグマは、こうして隣にいるけれど。


「ばれた? いやあ、分体を休ませて働いているなんて、おじさん健気だよなあ」


 これ、本当に本体か?

 実はそっくりに作った分体で、本体はどこかで休んでいたりしないか?

 ……どうせ、必要になったら自発的に働くだろうし、気にする必要もないか。


「あとはプリミラのほうだけど、なんとなくわかってきた」


「へえ、レイくんも魔力感知能力に磨きがかかってきてるのか」


「なんとなく、炎っぽいのがピルカヤで、水っぽいのがプリミラってことくらいだけどな」


「おじさんは? なんとなく土っぽい? 金属っぽい?」


 何かを期待した目で見られるが、本当のこと言っていいのかな?

 まあ、リグマだしいいか。


「おじさんっぽい」


「おじさんっぽい魔力って何!?」


 なんだろうね?

 でも、あくまでもなんとなくだから、それで俺自身がわかればいいじゃないか。


「ということで、水っぽい強い魔力を辿った結果……反応が複数あるんだけど」


 やっぱり、四天王って全員分裂できたりする?

 プリミラらしき魔力が何箇所もあるぞ。


「ちなみにどこ?」


「え~と、こことここと……」


 ピルカヤの問いかけに、地図を指さしていくと、ピルカヤとリグマから感心したような声が聞こえた。


「合ってるね」


「ああ、なかなかやるもんだ」


「え、でもプリミラは一人なのに、何箇所も反応があったぞ」


「じゃあ、答え合わせといこうか」


 そう言いながら、ピルカヤは俺に視界を共有してくれた。

 すぐに俺が指差した場所の光景が映し出され、同時に納得する。

 なるほど……。そこかしこで、噴水のように水が噴出している。

 これ、プリミラの操作している水だな。

 どうやら俺は、この水までプリミラの魔力と判定してしまったようだ。


『細かい命令はできませんが、こうして噴出し続けるくらいであれば離れていても可能です』


 なるほどなあ。

 あくまでも噴水程度だから、戦闘時には視界を妨げるくらいしかできないだろうが、こんなこともできたのか。


「ただ、俺の魔力感知はやっぱり使いどころが難しそうだな」


 分身だけでなく、魔力による事象まで観測して見分けがつかない。

 となると、本体だけを狙い撃ちにもできないだろうからな。


「感知した全部を手当たり次第に壊しちゃえばいいんじゃねえの?」


「なるほど。つまり、敵を全て倒せばいいのか」


「おぉい! 本体ぃっ!」


「どうした分体。そんなに興奮すると疲れるぞ」


 アナンタから異議が出たので、たぶんその方法も駄目っぽい。

 仕方ない。今後もこの力は練習していくしかないな。

 今は利用できないが、そのうち成長したら使えるかもしれない。


 そう結論を出したところ、俺の腕にしがみついている力が強くなった。


「どうしました? フィオナ様」


「一番魔力が高いはずの魔王の存在を、感知してくれないんですけど~」


 つまり、自分も実験に参加したかったと。

 ですがそれ、無理です。


「だって、今のフィオナ様。ガシャで魔力のほとんどを使い切ってるじゃないですか」


「お、おのれ人類……」


 魔族です。

 というわけで、フィオナ様の魔力が回復してから、かくれんぼが始まった。

 まあ、余裕だけどな。これだけ大きな魔力なら、俺でなくとも簡単に感知できるだろうし。

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