創作料理屋リューガ~飯炊き係は不要と追放された後、姉妹に頼まれ創作料理屋を始めました

花麓 宵

1.最後の晩餐、オークの野菜汁

 異世界に来て、一年が過ぎた。


 ある日、気付けばRPG系異世界に転移してしまっていて、おいおいサバイバルとかムリゲーなんだがと困ってしまったものの、他にも現実世界から転移してきたユウスケ――いやここではユスケールと名乗っている――がいたお陰で、お互いに事情の知れたもの同士仲良くやろうと一緒にパーティを組み、いい具合に冒険をしてきた。

 ユスケールがいてくれてよかった――俺は今日もそう感謝した。


「ぶっちゃけ、リューガなんもしてなくね?」


 その矢先、そのユスケールから言われたのが、その一言だ。俺は耳を疑うがあまり飯を食う手を止めてしまった。


「……え?」

「だってそうじゃね? オーク倒したのは俺だし」


 ヨーナスは先陣を切り、ズザンネは雑魚を一掃した。

 ユスケールは順々にパーティの面々を指差した後で、俺を指差す。


「でも、お前はなにしたの?」

「なにしたって……」


 俺は手元に視線を落とす。この手にある飯は、俺が作ったものだ。


「もしかしておいしくなかったか? オークの肉と根菜の煮込み汁……」

「いや、ぶっちゃけフツー?」


 ガツガツと聞こえてきそうな勢いで飯をかっ込みながら、ユスケールは肩を竦めた。他の二人も「しょせんオークの肉だし」「誰でも作れるし」と顔を合わせる。


「そりゃ、お前が作らなきゃ食えないのは分かるよ? んで食いたきゃ金払わなきゃいけないし」

「だったらいいじゃないか、いつもユスケールは言ってるだろ、パーティ全員が豊かでいるために金は大事だって」

「でもさあ、ぶっちゃけお前がいるほうが損じゃね?って」


 ユスケールの言い分はこうだった。一定以上の金を稼ぐためには、高難易度のクエストに挑戦する必要があり、そのためにはパーティメンバーの厳選が要となる。冒険ギルドに登録できるパーティメンバーは四人までだからだ。

 俺達「ニーグルム」は、俺とユスケールが中心となって「はじまりの谷」で結成したパーティだ。いまのメンバーは、剣士のユスケール、戦士のヨーナス、メイジのズザンネ、そして――剣士・・の俺。

 そう、ユスケールと俺のクラスはどっかぶりで、しかも超攻撃特化型というなんとも不合理なパーティ編成なのだ。ついでに、俺は飯も担当しているが、そこらで買っても同じものが食えるという。もちろん買うほうが金はかかるが、新たに優秀なメンバーを雇って高難易度クエストに挑戦すれば、その報酬金でまかなっておつりがくる。


「だから、次の町でパーティメンバー再編成するときにさ、お前には抜けてもらおうと思うんだわ。悪いな」


 一年間苦楽を共にしてきた同じ転移者にそう肩を叩かれ、俺は残る異世界風豚汁を食う気にもならずに呆然とするしかなかった。

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